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  • 2020/03/31 掲載

遠隔操作ロボットの知られざるメリット、ANAやスタートアップらの試みとは

森山和道の「ロボット」基礎講座

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アバター(分身)とも呼ばれる遠隔操作ロボットで新たな用途を開拓しようとする試みが増えてきた。ロボットを遠隔操作することができればロボットだけではできない作業も可能になる。ただしそのためにはシームレスなロボットと人の接続、スムーズにロボットからの情報を受け取り、処理し、送りかえす技術が必要だ。またロボット技術だけでは解決できない社会的課題も存在する。用途によっては「ロボットの向こう側にいる人」の存在感を伝えることが最も重要なポイントとなることもある。また、ロボットを操作すること自体で得られる価値もある。遠隔操作ロボットのスタートアップ数社の試みをまとめた。
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遠隔操作ロボットはデータを集めるセンサーでもある

 遠隔操作ロボットが増えてきた。ロボット自身の自律機能だけではなく遠隔操作する人間の能力を加えて何かしらの作業をやらせたり、また、テレプレゼンス的な機能の機器としてロボットを用いようという試みである。少子高齢化に伴う人手不足と5Gの登場を背景として、再び期待が高まっているようだ。

 だいぶ動き回ることはできるようになってきたが、現状のロボットの自律機能は、まだまだ心もとない。しかしたとえば、トルクが出ないモーターを使っていても、工夫次第で目標の作業をこなせることは少なくない。人の道具を扱う能力は実に素晴らしいのである。そこで遠隔操作という話になるわけだ。

 そのためには人がなめらかに遠隔操作するためのインターフェースや通信技術が必要となる。これまで多くの研究がここに費やされてきた。操作するインターフェース1つとっても、単純なジョイスティックあるいはゲームパッドを使うものから、HMDゴーグルをかぶりデータグローブを使うVR型まで、用途やロボットの自由度によってさまざまだ。

 ロボットを遠隔操作することには、あまり注目されてないメリットがある。ロボットは動くアクチュエーターであると同時に、センサーでもある。

 環境をセンシングするだけではない。ロボットを操作することで、ロボットをどこでどう動かしたかのログが取得できる。どういうパターンでどんな作業をしたのか、どんな作業がどんな定型動作の組み合わせで構成されているのか、目標の作業をこなすにはどんなセンサーや自由度、トルクが足らなくて、どこを補わなければならないかといった情報を明示できるかたちで取得できるのだ。ロボットの開発者だけではなく実ユーザーに使ってもらうことができれば、さらに有用なデータが得られる。

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 それはすなわち、将来は自律ロボットに任せたいが、いまはまだ機能が足らないといったロボットを開発する上での貴重な情報になる。一般にはあまり注目されていないが、遠隔操作ロボット最大のメリットはむしろここ、すなわち、自動化の準備のための情報取得にあるといってもいい。もちろん、人の作業を測定してもいい。現実問題としてステップ・バイ・ステップで自動化を進める上では、遠隔操作ロボットで取得できる情報も重要な情報となるだろう。

 遠隔操作するロボットについては、わざわざそれをロボットでやる必要あるのかと感じてしまうものもある。だが技術を発展させていく途上だという目で見ると、ちょっと違った見方ができるのではないだろうか。ビジネスとしても、どこで勝負していくかは各社の考え方次第だが、実のところ、ロボットを使うことで得られるデータでビジネスをしようとしている会社もあるのだ。

 こちらでは一度、いま多くなってきた遠隔操作ロボットについて、いくつかをご紹介しておきたい。

「分身」の普及を目指すANAホールディングス

 まず、この分野で最も活発に動いている大企業がある。ANAホールディングスである。同社は、2018-2022年度グループ中期経営戦略において「Society 5.0(超スマート社会)」実現に向けた取り組みの1つとして「AVATAR(アバター)」事業を掲げた。それ以来、アバターロボットを使ったテレプレゼンスに注力している。アバターとは、要するに分身である。


 2019年のCEATECでは「newme(ニューミー)」というオリジナルロボットとプラットフォーム「avatar-in」を発表した。CEATEC基調講演には代表取締役社長の片野坂真哉氏と女優の綾瀬はるかさんが登壇し、大々的に紹介したばかりか、なんと、2020年内に1,000体の普及を目指すと発表し、来場者たちにも協力を呼びかけた。これまでにプラットフォームを使った実店舗での遠隔ショッピング体験や、遠隔での釣りなどを行っている。


 ANAホールディングスはアメリカのオレゴン州立大学発スタートアップである二足歩行ロボットのAgilty Roboticsとも提携していて、CEATECブースでも日本で初めて「Digit」の静展示を行った。「Digit」は約18kgの荷物を運べるとされている。


 また同ブースでは、Shadow Robot Company、SynTouch、 HaptXによる「ハプティックテレロボットハンド」も異彩を放っていた。繊細な作業が可能な遠隔ロボットハンドである。ただしこのロボットハンドは非常に高価である。ANAはこれらのロボットを使って、人が「瞬間移動」できる未来を想定している。


 また、2018年から遠隔操作ロボットを開発するコンテスト「ANA AVATAR XPRIZE」をスポンサードしている。XPRIZE財団が主催し、賞金総額1000万USドル(約10億円)の「ANA AVATAR XPRIZE」は、準決勝が2021年に行われる予定だ。予選通過チーム一覧はこちらにある。日本からは14チームが予選を通過している。なお、これは遠隔操作ロボットの良いリストともなっているので、興味がある方は一度は見ておいたほうが良い。


「孤独の解消」を目指すオリィ研究所

 ANAとはまったく違う方向からのアプローチで注目されている企業が、オリィ研究所である。オリィこと吉藤 健太朗氏が代表取締役を務める遠隔操作ロボット企業で、同社のミッションは「孤独の解消」だ。疾病や傷害など何らかの理由で家から出られない人たちが社会参加するための道具としてロボットを使う。

 期間限定ながら、すでに「分身ロボットカフェ」として、カフェの店員サービスなどをロボットを使って実施することに数度成功している。ALSなど重度障害者の意思伝達システム「OriHime eye」なども併せて開発している。いっぽう、分身ロボット「OriHime」はリモートワークに用いられており、主な収益はこちらであげていると聞いている。


 同社の試みには学ぶべき点がある。遠隔操作ロボットが人のなかで活動するためには、背景に「人間の存在」を感じてもらう必要がある。特にエモーショナルな要素が主体となるコミュニケーションにおいては、これがとても重要だ。テレプレゼンスには技術だけではなく、社会的な側面もとても重要になる。

 吉藤オリィ氏はメディアにも何度も登場し、知名度を上げ、物語を語り続け、ロボットの後ろに1人ひとりのユーザーがいることを素直に受け入れられる環境づくりに成功した。その結果として、オリィカフェが実現している。これは一朝一夕にコピーできるものではない。遠隔操作するロボットとそれを操作する人が受け入れられるかどうかは、技術だけの問題ではないのである。


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