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- 2019/09/26 掲載
ユーザベースの“総務”は「ワクワク働く」を実現したい
小堀哲夫のオフィス探訪
気が付けばメンバーが子どもを連れてきていた
──ユーザベースについて教えてください。松井氏:2008年に創業して今年で11年目になります。創業ビジネスが企業・業界情報プラットフォームの「SPEEDA」です。2013年に「NewsPicks」を始めたほか、昨年には米国の経済メディア「Quartz」を買収しました。海外拠点はニューヨーク・ロンドンのほか、アジアは上海、シンガポール、香港、スリランカ、そしてバンコクとなります。従業員数は、東京オフィスで360名超(アルバイト除く)、海外拠点も含むグループ全体では650名くらいです。
──小堀さんがユーザベースを訪れたいと思った理由はどこにあるのでしょうか。
小堀氏:2つあります。1つは子どもをオフィスに連れてきていいという点です。これまで訪ねた会社の中にも、LINEのように社内に保育施設を持っているところもありましたが、ユーザベースは自分の家族を社内に入れていいというところが気になりました。
もう1つは社内カルチャーの構築が興味深い点です。大手企業もミッションやルールなどはつくりますが、社員1人ひとりにまで浸透していません。今日オフィスを見て分かったのは「見える化」に力を入れているということです。
松井氏:当社では人事を「カルチャーチーム」と呼んでいます。評価制度の中には「どれだけユーザベースの行動指針でもあるバリューを体現できているか」が評価項目として入っています。
小堀氏:いわゆる働き方改革は、「働くのが楽しくないから時間を減らそう」となりがちです。しかし、こちらは「楽しすぎてもっと仕事をしたい状況」をつくろうとしてるようです。子どもを連れてきていいというルールは最近始まったのでしょうか?
星野氏:実はルールではないんです。「連れてきていいですよ」と正式にアナウンスしたことはなく、みんな勝手に子どもを連れてくるようになりました。いわば文化です。
「どこで働くか、どれだけ働くか」は自分でデザインする
──ユーザベースの働き方について教えてください。松井氏:創業以来、出社義務もなければ、コアタイムもないスーパーフレックス制度です。リモートワークも責任を果たせる限りにおいて自由です。私自身、1か月のうち1週間はオフィスに出ていますが、あとはバンコクにいてオンラインで仕事をしています。一日何時間働いたのかというのも自己申告制です。
自己申告だと問題は起きないのか、社員がさぼるんじゃないか、と聞かれることもあります。そこは会社と社員の信頼関係ですね。しかし当社での労働時間管理は「社員がさぼることを防ぐために管理する」というより、「会社としてコンプライアンスを守らなければならないので、働いた時間はちゃんと記録してください」という意味合いの方が強いです。だからこそ、社員に「ちゃんと記録してください」と伝えています。申告された労働時間とオフィスの入退館記録も照合もしていますが、申告と記録にそこまでズレはありません。
──ブラックな働き方を防ぐには管理が必要ですが、管理し過ぎると「仕事が楽しいからもっと働きたい」という人が働けなくなるというデメリットもあります。
小堀氏:人はその時々の状況によって働く時間を変えざるを得ません。子育てしている人もいれば、介護している人もいる。あるいは、単身者もいる。そんな多様な人がいるのに、これまでは一番長い時間働いた人の評価が高かった。これからは短い時間で成果を上げた人を評価しないといけません。
松井氏:当社は働き方やキャリアを自分でデザインする会社です。時短にも対応できるし、そのため、働く時間は自分で決めることができるので、基本はアウトプットしか見ていません。ワーキングマザーは3、40人いて、私も星野も子どもがいますが、オフィスにいる時間とは別に、子どもが寝た後などに仕事をしています。
たとえば10時から16時までオフィスにいて、家に帰って子どもが寝た後働くというスタイル。ただ、これですと仕事とプライベートの境界があいまいになりやすいので、自己規律が必要になります。
ユーザベースとしては、社員自身が一番ハッピーな、一番成果の出る働き方を自分でデザインできるようにしています。そのため、当社に入社して重要なのは、何を達成したいのかを明確にすることです。
他社では、会社の方針と上司の方針があって、やるべきことが決まって、それをきちんと実行できたかどうかで評価されるパターンが多いかもしれません。当社では最初に「メンバーが挑戦したいこと」「本当にやりたいこと」を聞きます。
3年後のキャリアパスを考え、そこに向けて何をしなければならないのか、それはやりたいことなのかを自分で考えなければならない。入社したばかりのメンバーの中には目標設定に戸惑う人もいますが、そのためのミーティングを3回、4回と丁寧に行います。働き方や目標設定を含め全員が意思決定をするのです。
バリューである7つのルールを浸透させる仕掛け
松井氏:こうした働き方を実現するのに重要なのが当社の「ミッション」と「バリュー(7つのルール)」です。会社で働くということは、1人ひとりが会社のミッションに向かって動くということですが、会社が大きくなると、それが難しくなります。そこで、共通の価値観として「7つのルール」を設け、判断に迷ったらそこに立ち戻って考えるようにしています。
【7つのルール】
1. 自由主義で行こう
2. 創造性がなければ意味がない
3. ユーザーの理想から始める
4. スピードで驚かす
5. 迷ったら挑戦する道を選ぶ
6. 渦中の友を助ける
7. 異能は才能
また、1年の思い出と共に7つのルールにまつわるエピソードトークを掲載した「Year Book」(いわゆる日本の卒業アルバムのような社員全員が登場する写真を主体とする雑誌のような媒体)や7つのルールをブレイクダウンし、イラストと共に31の行動指針を掲載した『31の約束』といった本をつくって社員全員に配り、日々のコミュニケーションの中で「それってユーザベースらしい?」と考えながら仕事をしています。
小堀氏:コミュニケーションや価値の共有はどの企業も問題です。会社のトップの意志がうまく伝わらないから、オフィスを変えて伝えようとするわけです。ユーザベースの場合、オフィスを変えて、文化を浸透させるためのYear Bookなどの道具も作っています。これはなかなかできません。
松井氏:当社は共通の価値観を大事にしています。このオフィスに引っ越してきたときも、「ユーザベースの価値観」が垣間見えた瞬間がありました。
引っ越し当初、会議室の壁は普通の壁でした。「うちらしくないね」と工事をやり直してガラス張りにしました。オープン、透明性へのこだわりの象徴です。小部屋はつくりませんし、情報もプライバシー情報と機密以外はオープンにするなど、日々の行動の中に、意識して、ユーザベースの価値観を取り入れるようにしています。
星野氏:多様性を形で表そうと、椅子の種類や、そのほかの家具の素材もバリエーションをつけています。3階のカフェスペースの椅子もすべてアンティークにして、あえてばらばらなものにしています。
小堀氏:ミッションやバリューを浸透させるための取り組みにはほかにどんなものがあるのでしょうか。
松井氏:先ほどのYear Bookや、月2回開催されるタウンホールミーティングと呼ばれる全社定例ミーティング、年に1回の全社パーティーがあります。タウンホールミーティングは、海外やリモート勤務のメンバーの場合はオンラインでの出席になりますが、全社パーティーは海外からも極力全社員を呼んで、年に1回はみんなで顔を合わせるようにしています。Year Bookはこの時に渡しています。
【次ページ】ユーザベースの子育て支援制度は社員の直談判から始まった
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