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2018年に創業100周年を迎えたパナソニックグループ。その中でIoT領域などB2Bビジネスを担うコネクティッドソリューションズ社は、約2万6000人の従業員を抱え、「大企業病」に悩まされていた。そこで同社は2017年10月に大阪から東京・浜離宮恩賜庭園そばに本社を移転し、オフィスづくりに取り組んだ。同オフィスは2018年度第31回日経ニューオフィス賞を受賞した。この度、自身二度目のJIA日本建築大賞を受賞した建築家の小堀哲夫氏が同社のオフィスを訪問。オフィスづくりを推進した同社 カルチャー&マインド改革推進課課長 熊谷隆之氏に、オフィスを通した風土改革の裏側を聞いた。
聞き手・構成:編集部 佐藤友理、執筆:桑原 晃弥、撮影:濱谷幸江
聞き手・構成:編集部 佐藤友理、執筆:桑原 晃弥、撮影:濱谷幸江
新社長就任から半年でオフィスを移転
――東京への本社移転の理由をお聞かせください。
熊谷氏:2017年4月に社長に就任した樋口が「既存事業の勢いをつけるために、10月に東京に本社を移転してお客さまに近づき、カンパニーのあるべき姿、ビジョンを考えながら風土改革を実行したい」と言い出したことが本社移転のきっかけです。その際、従来のオフィススタイルを踏襲するのではなく、これからの時代に相応しいオフィスをつくり、企業の風土改革、つまりカルチャー&マインドを変えたいと考えました。
小堀氏:今回、オフィスをつくるチームと、カルチャーをつくるチームがどう連携して参画したのか、ということに興味を持ちました。連携がうまくいかないとちぐはぐなものができてしまいますからね。
熊谷氏:今回の本社移転に関しては職能横断で一丸になって取り組みました。樋口が社長に就任した4月に「10月から東京で仕事をしよう」と決めました。いち早くカルチャーを変えていこう、お客さまの近くで仕事をしよう、早く変えないと成長できないぞ、という社長の強い意志があったからです。風土を変えるには環境を変えるのが一番ですから、「1日も早く」という思いでした。
パナソニックの風土改革は「3階建て」
熊谷氏:樋口は「3階層の取り組み」で企業を変えようとしました。1階が「カルチャー&マインドを変える風土改革」、2階が「箱売りからソリューション売りへ転換するビジネスモデル改革」、3階が「持続可能な収益性に向けた選択と集中を行う事業立地改革」です。今回の東京移転は、1階の「風土改革」のために行ったものです。
小堀氏:組織改革は、トップの命令がないと周りがいくら「ワーワー」言ってもできません。その点、こちらのオフィスは社長が変わるタイミングで組織の中身を見直し、パナソニックの技術を動員して新しいオフィスをつくり、いろいろ試してみようという動きが1つになっていて面白いですね。
「大企業病」という言葉がありますが、大企業が風土を変えるというのはなかなかできません。そこで僕ら建築家がやるのは、「組織を変えずに環境を変える」というやり方です。オフィス環境を変えることでピラミッド構造は守りながらもピラミッド構造ではない動きを社員に感知させるようにします。
たとえば、オフィスの壁面に取り付けられた黒板にいろいろなアイデアが書いてありました。樋口社長は社内をよく歩き回るということですが、黒板の前を通りかかった社長が「おっ、いいね」と言える環境は、ピラミッド構造の解体ともいえます。オフィスを変えることでこうした新しいカルチャーをつくっていくという試みは重要です。
風土と人間を変えるなら環境を変えるのが手っ取り早い
――新しいオフィスの狙いをお教えください。
熊谷氏:新しいオフィスの狙いは3つあります。1つはお客さま専用フロアを設けるなど、お客さまとの共創活動を推進できるようにすること。2つ目はこれまで点在していた部門を集結し、部門を超えたフリーアドレス制を採用して組織間の連携を強化したこと。そして3つ目は社長室を廃止したり、立ち話で高速すり合わせを行えるようにするといったスピーディーな意思決定を可能にすることです。
新オフィスになって、社長の動き方も進化しました。時間ができるとフロアを動き回っています。社員がミーティングをやっているところに入っていって、「今、何をやっているの?」と声をかけたりしています。こうすることで上下の関係性を密にすることができますし、実態を素早く掌握することもできます。
小堀氏:人はいくら言葉で伝えても簡単には変わりませんが、環境を変えると変わることができます。たとえば、服装を変えるとその立ち居振る舞いも変わるように、オフィス環境を変えると働き方やカルチャーも変えることができます。このオフィスもその例と言えるでしょう。
オフィスは「コミュニケーションの場」に特化していく
小堀氏:オフィスには2つの機能があります。集中する場所と、コミュニケーションする場所です。集中がテレワークでできるとなると、オフィスはコミュニケーションの場になっていきます。さらに今後はチャット系のコミュニケーションが増えます。そうなると、人間同士の信頼関係を補完する必要が出てきます。オフィスは顔を合わせ、すり合わせをしていくことに特化した場所になっていくでしょう。
熊谷氏:たしかに、テレワークが拡大すると、仕事はどこにいてもできるようになります。ただ、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが不必要になることはありません。そうなってくると、オフィスは人と人がリアルに会う場所、意見をぶつけ合って新しいものを生み出す場所となり、オフィス全体がコミュニケーションのためのエリアになりますね。
【次ページ】オフィスには「出島」が必要
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