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- 2020/01/10 掲載
ヨーロッパ人が日本の“お家芸”モバイルアーキテクチャに憧れるワケ
小堀哲夫のオフィス探訪 東大 髙岸輝氏対談(後編)
前編はこちら(※この記事は後編です)
小堀氏設計のROGICと「一遍聖絵」
──今回、小堀さんとの対談ということで、「一遍聖絵」をテーマとして挙げていただきました。なぜでしょうか。髙岸氏:小堀さんが設計したROKI Global Innovation Center(以下、ROGIC)の写真を見た時に、これは「一遍聖絵」の世界だな、と感じました。
「一遍聖絵」には、踊念仏の舞台や、路上に生活する人々の小屋など、屋根と柱と床だけでできた仮設の建造物がたくさん描かれています。ROGICは全体がガラス張りで、中にも外にも木と緑がありますね。外の世界と中の世界の境界が取り払われ、構造材が見えるところもあり、絵巻に描かれた仮設の建造物を思わせるつくりになっています。
仮設のものが自然の中にふわりと存在しているような感じ、ばらして撤収すれば、この場所が元の自然に戻るような感じから、絵巻の世界観と通じるものを感じました。
「完成形」のヨーロッパ建築と「変化し続ける」日本建築
それは絵画も同様で、ヨーロッパの絵画は一回描くと終わる完成形なのに対し、たとえば日本の絵巻は、どんどん横に描き足していける。そこには「変わり続ける」「朽ちて生まれ変わる」というような日本的な世界観があるように感じます。
ヨーロッパの都市は固定的で、ずっと変わらないところがあり、かつて日本人はそれに憧れていましたが、ヨーロッパの人たちは逆に日本の都市や建物に興味を持っています。日本の都市の常に変わっていく様子や、パッチワーク感。今の東京もどこが中心か分からないような場面展開がずっと続いています。
それでいうと、ROGICは天井の開閉をすることで、自然の風が下から上に通るようにできていたり、わざと中の温度や湿度にむらができるように設計しています。人工の建築物でありながら、そうした自然の変化をわざとつくり、統制しない。そうした日本的な「変化し続ける環境」であるところが、「一遍聖絵」の仮設の小屋に通じるのかもしれません。
【次ページ】「自由なアーキテクチャ」は日本のお家芸
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