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- 2018/12/10 掲載
「幸せな孤独」を許し合うことで、“ひらめき”は生まれる
建築家 小堀哲夫のオフィス探訪(Think Lab後編)
前編はこちら(この記事は後編です)
今必要なのは、「茶室」のような空間
小堀氏:前回、30階のオフィスはコミュニケーションには向いていても、集中には向いていなかったため、Think Labを作ったとお聞きしました。今日のような情報過多の中でクリエイティビティを生むためには「孤独」が重要になってきます。小堀氏:ひらめくときはたいてい孤独な瞬間なんです。天才はそれを自ずとできるし、田舎にはその環境がありますが、問題は東京です。ずっと周りに人がいます。
千利休が茶室をつくったのは堺ですが、当時の堺は大変な商業都市だったからこそ、「茶室」という閉じられた小さな世界には価値がありました。
茶室に入るとき、たとえどれほど身分の高い武士であっても刀を置いて、頭を下げ膝をついてにじり口から入らなければなりません。「茶室では武士も町人も平等」という利休の考え方によるものですが、では茶室の中で何が話し合われているかというとビジネスです。
堺や京都、大阪という都会だからこそ世俗と隔離された形の茶室は武士や商人にとって必要でした。現代にもそういう空間が必要なのではないでしょうか。Think Labを見学して、「どうすれば都会で人間は幸せな孤独を得られるか?」がオフィスの次のテーマだと感じました。
オフィスは必要か? 一緒にいる必要はあるのか?
――ジンズは最初「みんなで働く」に適したオフィスを30階に作り、次に「1人で働く」に適したオフィスThink Labを29階に作りました。「1人で仕事をする」場所と、「みんなで仕事をする」場所をオフィスの中でどう位置付けていくかがこれからの課題です。小堀氏:経営者はみんなその区分けに苦しんでいます。でもその一方で、ジンズのように「1人で働くオフィス」と「みんなで働くオフィス」を作るほど振り切った意思決定はできません。「こんなオフィス作ったらさぼるんじゃないか」と思う経営者もいるでしょう。ここまでできた極意は何でしょうか?
井上氏:人は1日4時間くらいしか集中できません。だとしたら、8時間ダラダラ働くよりも4時間集中して、4時間コミュニケーションをとればいいのです。
4時間の「集中した1人作業」を許し合えると、残りの4時間のコミュニケーションの質が上がる、というのはデータで分かっています。そうなると、会社で8時間一緒にいる必要はない。次なる問いは、オフィスは本当にいるのか、週に40時間同じ空間にいる意義はどこにあるのかということです。
何年後かは分かりませんが、本社機能はうんと小さくして、Think Labのようなワークスペースがいくつもあって、集まるべきときと離れるべきときを明確にするような経営が良いのでは、と話し合っているところです。
「大きな会社」が抱える見えないリスク
小堀氏:組織は人が増えすぎると平準化が起こります。コミュニケーションはたしかに大切ですが、仲良くなり過ぎると何も生まれなくなる傾向があります。この前、デンマークへ行ったとき、驚いたのはオフィスでの電話を禁止していることでした。電話は人の時間を奪うという考え方からです。デンマークではそうやって静かな環境の中で仕事をしていますが、お昼の食事だけは社員全員が同じ場所でとります。但し、食べる時以外は集まりませんから、本社が一種の食堂になっていました。
井上氏:たしかに会社に限らず、どんな組織でもある規模を超えると、途端に普通の人の集団になります。1000人を超えると「あそこってすごい人いないね」になる傾向があるようです。
小堀氏:同じことは広さにも言えます。100平方メートルまでは人間が働いていても、いろいろと目が届くのですがそれが過ぎるととたんにまわりが見えにくくなる。でも、社員の人数が増えると、オフィスの面積も広くなる。
人が増えて「普通の人」が増え、オフィスの面積が広がって顔が見えなくなる。かといって仲良くなり過ぎるとイノベーションが起きづらくなる。「会社が大きくなる」のは喜ばしいことですが、それと同時に見えないリスクも増大しているのです。
【次ページ】「1人で作業をする」という意思を尊重する
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