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  • 2018/11/28 掲載

創業20年で“守り”に入ってしまったヤフー、LODGE開設で自己改革できたのか?

連載:建築家 小堀哲夫のオフィス探訪

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ヤフージャパン(以下、ヤフー)が2016年11月にオープンコラボレーションスペース「LODGE」をオープンしてから2年が経つ。LODGEはヤフー社員、ビジネスパーソンから高校生、主婦、外国人まで、誰もが無料で自由に利用できる空間だ(2018年10月31日現在)。ヤフー スタートページユニット 元LODGE責任者 植田裕司氏はLODGEの開設の理由として「創業20年で“守り”に入ってしまった社員を打破すること」を挙げる。狙いは達成されたのか? 社内での風当たりはどうか? イノベーションに取り組む企業の施設設計でJIA日本建築大賞と日本建築学会賞を受賞した建築家 小堀哲夫氏が同氏と熱く語り合った。
聞き手・構成:編集部 佐藤友理、執筆: 井上猛雄、撮影:濱谷幸江

聞き手・構成:編集部 佐藤友理、執筆: 井上猛雄、撮影:濱谷幸江

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建築家 小堀哲夫氏(左)とヤフー スタートページユニット 元LODGE責任者 植田裕司氏(右)
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20年で“守り”の集団となってしまったヤフー

――まず社内でのお立場と、LODGEとの関係についてお教えください。

植田氏:2年前にオフィスを移転する際に、エンジニア代表として声がかかり、LODGEの立ち上げの責任者になりました。1年半ほど専任で働いていましたが、現在はLODGE責任者を離れ、ヤフーのトップページの業務に企画職として戻っています。

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ヤフー スタートページユニット 元LODGE責任者 植田裕司氏

――今回、小堀さんはLODGEのどういうところに興味を持ったのですか?

小堀氏:まず自社オフィスの一番下に、誰もが自由に入れる大面積のスペースを無料で開放していることに興味を持ちました。賃料が高い千代田区というロケーションにも関わらず、なぜお金を取らない、一種の公共性を持つ空間を民間企業がつくり出したのか? その意味について、担当者に直接話をお聞きしたかったのです。

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建築家 法政大学 兼任講師 小堀哲夫氏

小堀氏:イノベーションを生み出すには、自らの共同体のなかに異質なものを取り入れることが大切であると言われています。とはいえ、なかなか踏み切れない企業が多いのです。ヤフーさんは、そういうことを自然発生的に成立させることを狙って、この場をつくったのではないだろうか? と感じました。さらに、なぜLODGEをつくる経営判断ができたのか? コストや人材リソースなども含めて、どうやって運営しているのか、という点についてもお訊ねしたいと思いました。

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LODGE
(画像提供:ヤフー)

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LODGE内にはフロアマップも配置
植田氏:我々はヤフーの20周年を機にこのオフィスに移転してきました。その際、何かびっくりするサービスを生み出す仕掛けをつくりたいと考えました。

 20年が経ち、“守り”に入ってしまったヤフーがもっと攻めていくために必要になったのは、新しい発想や気づきでした。新しい発想や気づきを得るためには、普段は体験しないような経験が必要です。ここで必要になったのが「情報の交差点」という考え方です。自分の勝ちパターンと、相手の勝ちパターンが交差したところに、新たな勝ちパターンが生まれるのでは? という想いがあり、それを体現するのがLODGEの役割でした。

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背後に見える通り、ユーザーはヤフー社員、外部のビジネスパーソン、高校生など、実にさまざま。ディスカッションをしたり、パソコン作業をしたり、参考書片手に勉強するなど、思い思いに時間を過ごす。その雰囲気は「地元の図書館」に近い

LODGEは「図書館」「美術館」的である

小堀氏:これまでの「情報の交差点」というと、図書館や美術館などの公共空間でした。そして、こういった場は、本や美術、音楽といった「目的」「コンテンツ」があって初めてつくられる場所でした。

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本棚は何人かで運べる動かしやすいものを選択。植田氏は「後からいくらでも変更できるオフィスにしたかった」と語る。エンジニアらしいアジャイルな感性が見受けられる

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ドラえもんまで置いてある本棚

小堀氏:ところが、いま人々は、美術だけを目的に美術館に行かない。人々はむしろ、街に出たら何か美術に出会った、そういう偶発的発見を求めています。主と従の関係性が逆転しているのです。

 LODGEは、ある意味で誰でも入れる図書館であり、美術館であり、ラボであり、あらゆる発見がある場のような気がします。実際にLODGEには、ユニークな家具や本棚、キッチン、会議室、カフェがあったり、とにかく何が起きるか分からないけれども何かが起きそう! という期待感で人々が集まっているようです。

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予約が可能な会議エリアにはホワイトボードや大型モニターも設置。壁の黒くなっている部分は黒板として使うことができる

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ヤフーのシンボル「!」の形のテーブル。昼食時にはここで食事が販売される。ヤフー社員でなくても利用可能
※取材の時間帯には食事提供は行われていなかった


――いまの小堀さんの分析は、実際のところどうなのでしょうか?

植田氏:ご指摘のとおり、「何かが起こるかもしれないから行こう」と思ってもらえる場づくりを意識していました。実際にそういうことが起きています。

 「LODGE」というキーワードでエゴサーチすると、「いきなり落合陽一さんが講演を始めた」といったツイートが出てきたりします。「よくわからないけど何かが起きる場所」という風には認識されているのではないでしょうか。

 ただし我々は、“守りからの脱却”の手段としてLODGEをつくりました。そのため、公共施設のような機能は意識していません。図書館や美術館に通じる機能が備わっているということには今言われるまで気づきませんでした。

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LODGEのユーザーには延長コードなどを無料で貸し出している

小堀氏:ヤフーにとっては、必要だったからこの場をつくったわけで、ボランティア精神でつくったわけではないということですね。多くの企業では「こういう施設をつくって役に立つの?」という問いが目立ちます。有用性が見えないものに投資したくないからです。しかしLODGEは、「何の役に立つのかわからない、でも何かが起きる可能性があるからつくろう」というコンセプトですね。

「守り=家族」。家族からはイノベーションは生まれない

――ヤフーはインターネットの黎明期から業界を牽引してきました。イノベーションを起こしたいからオフィスを変えたのか、逆に起こせる体力があるからオフィスにも力を入れるのか。どちらなのでしょうか?

植田氏:やはりイノベーションが起きていないからこそ、LODGEという場所が必要でした。

小堀氏:私の中では、ヤフーでは常にイノベーションが起きているようなイメージがありました。企業規模が大きくなり、部署も多くなると、知らない人も多くなり、仕事がつながらなくなってくる。そういうことは、どんな大企業でも同じなんですね。

 私は、植田さんが仰るように「ヤフーは“守り”に入ってしまった」とは思っていませんが、「守りに入る=家族」だと考えているんです。家族はとても居心地がよいけれど、家族の中でイノベーションは起きませんよね? しかし家庭教師みたいな人が外部から入ってきた瞬間、均衡が崩れて何かが起きる。それをやれるかどうかということ。日本企業は最終的に家族として団結して、何も生まれなくなったことに気づくんですよ。

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植田氏:それはヤフーも同じかもしれません。企業や組織では、いかに効率よく期限内に目標を達成するかという点が評価されるので、新しいことに挑戦することより、いつものメンバーで無駄なくやることのほうが大事になってしまうからです。

 インターネットの検索ポータルが、パソコンのヤフーだけでなくなってきて、スマホのヤフーをどう使ってもらうかという議論が社内でも起こりました。ヤフーは、状況がどんどん変わっているにもかかわらず、次の脅威が来ないと動き出せない会社になってしまったのです。だから、本当に手遅れになる前に何かできるようにしたかったのです。

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LODGE FAB
(画像提供:ヤフー)

 実際、LODGEをオープンした後にVRの実証実験が始まりました。外部から技術者やアーティストが入って、ヤフー社員とつながって新しい刺激が生まれました。普段は知りえない情報が集まり、それに触発された社員が新しい仕事を発見する。LODGEはそういう発想の転換ができる場になったと思っています。

【次ページ】イノベーションを起こすオフィスを守る方法
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