• 2018/07/12 掲載

LINEのオフィスでイノベーションが生まれる理由

連載:建築家 小堀哲夫のオフィス探訪

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2011年6月にサービスを開始して以来、人と人、人と情報、人とサービスとの距離を縮めてきたLINE。同社は2017年4月、渋谷の3つのビルに分かれていたオフィスを1つに集約する形で、JR新宿ミライナタワーに移転した。今回、JIA日本建築大賞と日本建築学会賞を受賞し、イノベーションを生む空間設計で注目を集める建築家 小堀哲夫氏がLINE本社を訪問し、同社 クリエイティブセンター BX室 スペースデザインチーム マネージャー 山根脩平氏にLINEでイノベーションが生まれる理由を聞いた。
聞き手・構成:編集部 佐藤友理、執筆:桑原 晃弥、撮影:濱谷幸江

聞き手・構成:編集部 佐藤友理、執筆:桑原 晃弥、撮影:濱谷幸江

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建築家 小堀哲夫氏(左)と同社 クリエイティブセンター BX室 スペースデザインチーム マネージャー 山根脩平氏(右)

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LINEがオフィス移転した理由

 JR新宿ミライナタワーは2016年3月25日に開業したJR新宿駅南口直結、地上32階建てのオフィスビルだ。1フロア約630坪、天井高3メートル、フロア内が無柱空間という広々としたつくりが特徴で、LINEは15階から23階までの9フロアに入居している。

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LINEのフロア構成
(画像提供:LINE)

 LINEのオフィス移転最大の理由は、従業員の増加だ。

 2013年時点では500名だった社員も2017年には約3倍の1438名に増加。そのため、前オフィスだけではスペースが足りず、近隣3箇所のビルに増床を行った。しかし、社員が渋谷の中で3拠点に分散することになり、コミュニケーションしづらくなり、オフィス間を社員が移動する手間も出てきた。

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LINEの社員数は4年で約3倍に増加し、オフィス移転の必要が出てきた
(画像提供:LINE)

 さらに、社内外のコミュニケーションを行うスペースが不足し、執務エリアでのコミュニケーションが活発でなくなった。

 そこで、流行に敏感な土地であり、交通の便もいい新宿への移転が決まった。

 隈研吾建築都市設計事務所出身で今回のオフィスづくりを主導した山根氏は、「空間を設計するにあたって『LINEの働き方』を実現するためのさまざまな工夫を試みた」と語る。

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隈研吾建築都市設計事務所で歌舞伎座、国内外のホールやホテル、住宅などを担当した山根氏。2015年にLINEに入社し、空間のブランディング・設計・デザインを行うチームを率いる。

 山根氏によると、オフィスは単に人が集まって仕事をするだけの場所ではない。オフィスはミッションと深い関わりを持つべきで、ミッションをいかに実現するかを考え抜いた結果が今回のLINEオフィスだという。

 LINEのミッションは「CLOSING THE DISTANCE」。世界中の人・情報・サービスの距離を縮めることだ。このミッションを実現していくための働き方の指針として「LINE STYLE」がある。

 LINE STYLEは市場ニーズの理解、スピード、ディテールへのこだわり、データ思考、チームワーク、楽しむこと、の6つを重視する働き方だ。

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LINEのミッション「CLOSING THE DISTANCE」は社内の廊下の壁にも掲げてある
(画像提供:LINE)

 山根氏によると、LINE STYLEにあるような考え自体は創業以来あり、社員の数が少なかったころは社員が自然と共有していたという。そのため、あえて言語化する必要もなかった。しかしその後、社員数が増え、組織が大きくなったこともあり、今回のオフィス移転を機にしっかりと形にしたという。

LINEでイノベーションが生まれるとき

 LINE STYLEの6つの働き方が揃ったとき、驚きや感動を意味する「WOW」が生まれる。

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LINE STYLEとWOW
(画像提供:LINE)
「ヒットする製品やサービスは1人ひとりのユーザーのWOWという感動や驚きを生みます。1人ひとりのWOWが友人や家族、恋人などの周りの人々に連鎖し、国境や言語の壁を超えて世界中に広がっていき、その積み重ねが結果としてイノベーションと呼ばれ、人々の生活を変えていくことになるというのがLINEの考え方なんです」(山根氏)

 WOWの精神は、製品やサービスづくりに限ったことではなく、LINEという会社はあらゆる活動すべてにおいて、常に期待を超えるWOWを提供することを目指している。そのために、すべての社員が事業の成長に集中し、WOWを生み出し、挑戦を続けるオフィス空間をつくり上げることが今回のオフィスのテーマだったという。

 さらに、新しい事業が次々と生まれ、組織変更もよくあるLINEの現状を踏まえ、どのフロア、どの場所に行ってもすぐに業務に集中できるように椅子を揃え、レイアウトをモジュール化し、働き方、働く場所のフレキシビリティを高める試みも行った。

LINEのオフィスを体験

 山根氏が今回のオフィスを計画するにあたって最重要ポイントに据えたのは、「WOWを生み出す空間」のデザインだった。

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2017年に「日本建築学会賞」「JIA日本建築大賞」という国内二大建築賞を史上初めて同年中にダブル受賞した小堀哲夫建築設計事務所 建築家で法政大学兼任講師の小堀哲夫氏

 こうした考え方の下、一般的にイメージされるオフィスとはかなり異なるオフィスが誕生した。その主な施設・設備の特徴を小堀氏の感想を交えながら紹介する。

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コミュニケーションラウンジ

 各フロアに会議室と同じようにモニターを設置した簡単なミーティングができるコミュニケーションラウンジを設置。フリースペースのコミュニケーションラウンジは、社員同士が気軽にミーティングを行うことを可能にし、コミュニケーションの生産性やスピードを高めることができる。

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コミュニケーションラウンジ
(画像提供:LINE)

 小堀氏によると、コミュニケーションラウンジでは、コミュニケーションが活発になるよう、人と人がある程度近い距離で話をするようにソファとテーブルが配置されているという。

ワークラウンジ

 自分の席以外で集中して仕事をするための個室を備えたワークラウンジもある。防音設備を施した完全個室もあり、電話やオンライン英会話レッスンなど多様な活用ができる。

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自然と声が小さくなるワークラウンジ
(画像提供:LINE)

 ワークラウンジでは大きめのソファとテーブルを置くことで人と人の距離が作られ、落ち着いた空気が作られる。この落ち着いた空気感によって自然と声のボリュームが抑えられる。ここは、ノートPC片手に1人で集中したり、ソファでリラックスしながら仕事したりすることができる。

 人対人の化学反応を起こす仕組みと居心地の良さが共存していると、新しいアイデアや事業がうまれやすくなる、と小堀氏は分析する。

自由に高さが調節できる昇降式デスクの導入


 身体に合わないデスクほど能率を下げるものない。自分の体型に合わせて高さを自由に調節することでストレスなく仕事ができるほか、望めば立ったまま仕事をすることも可能になっている。

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執務室では、座って作業する社員と、立って作業する社員が目に入る
(画像提供:LINE)

ビデオカンファレンスシステム

 すべての社内会議室には最新のビデオカンファレンスシステムを導入、海外オフィスとのミーティングをスピーディーかつ簡単に行うことができる。

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海外拠点を持つLINEはビデオカンファレンスもよく活用する
(画像提供:LINE)

オーディトリアム

 オーディトリアムは最大300人収容可能な会議室となっている。会議のほか、各種イベントも開催することができる。用途を固定しないシェアリングの考え方でつくられている。

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オーディトリアムでは社員による勉強会など、さまざまなイベントが開催される
(画像提供:LINE)

スタジオ

 ムービー用、スチール用の2つのスタジオを備えており、ライブ配信サービス「LINE LIVE」の配信などにも利用できる。設計は外部に任せるのではなく、LINE側が自力で考え、自分たちでつくり上げた。

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LINEが設計から携わったスタジオ
(画像提供:LINE)

 「自前でつくる」というと、「素人の仕事」と思われがちだが、現実には使う人こそが何が必要かを最もよく知っているのもまた事実だ。小堀氏は自前のスタジオに驚きつつ、「自前主義には見習うべき点が多い」と語った。

カフェ

 カフェではコーヒーのほか、昼食時にはお弁当・サラダ・スープなど健康的な食事の提供も行っている。しかし、使い方は自由で、食事はもちろんのこと、コーヒーを飲みながら仕事をするのも、ミーティングをするのも、仕事を離れてリラックスすることもできる居心地のいい空間を目指している。

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LINEのカフェ。社員も社外の人も交えて活発な議論を交わすテーブルもあれば、社員が静かに1人で作業をしているテーブルもある

 小堀氏は、「多くの企業では自由に使える空間を作っても『食堂』『執務室』といった名前にひきずられて、せっかくの自由な空間を『飲食の場所』『作業する場所』といった不自由な空間にしてしまうことがよくあります」と語る。LINEの場合は名前に縛られることなく自由な場所として使えているようだ。

ゲームラウンジ

 ゲームラウンジには最新のゲーム機器のほか、ビリヤードやダーツなども置かれ、社員同士のコミュニケーションに一役買っている。

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社員が交流できるゲームラウンジもある
(画像提供:LINE)

LINE CARE

 カフェスペースにつくられた「LINE CARE」には、社員のさまざまな困りごとをサポートするスタッフが常駐しており、日本人社員だけでなく、海外から日本に転勤してきた社員の就労ビザの申請や住居手配のサポートなど、日本で生活するうえでの困りごとを手厚くサポートする。

 仕事以外を徹底的にサポートすることで、仕事に集中できる環境を整え、結果として仕事の生産性を高めていくというのがLINE CAREの目的だという。

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社員が困ったらLINE CAREに行けば何をどうすればいいのかわかる
(画像提供:LINE)

社内保育園

 LINEには0~2歳の乳幼児を預けることができる事業所内保育園もある。子育て中の社員が安心して子供を預け、仕事に集中できるようになっている。

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社内で子どもを預けられる保育園も完備
(画像提供:LINE)
 ここまで、山根氏の解説と小堀氏の感想とともにLINEのオフィスを見てきた。次回はLINEのオフィスづくり戦略を掘り下げる。

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