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  • 2019/08/28 掲載

イノベーションを起こす“5%人材”を集めるオフィスは大企業を救えるのか?

小堀哲夫のオフィス探訪

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近年、スタートアップやフリーランスの「働く場所」として定着してきたコワーキングスペース。しかし、大企業はコワーキングスペースから得るものはないのか?建築家の小堀哲夫氏がクリエイター専用のシェアード・コラボレーション・スタジオ「co-lab(コーラボ)」を見学し、co-labを運営する春蒔プロジェクト 代表取締役 クリエイティブ・ディレクター co-lab 企画運営代表 クリエイティブ・ファシリテーターの田中陽明氏と対談した。
聞き手・構成:編集部 佐藤友理、執筆:桑原 晃弥、撮影:濱谷幸江

聞き手・構成:編集部 佐藤友理、執筆:桑原 晃弥、撮影:濱谷幸江

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春蒔プロジェクト 代表取締役 クリエイティブ・ディレクター co-lab 企画運営代表 クリエイティブ・ファシリテーター 田中陽明氏(左)と建築家 小堀哲夫氏(右)


「自前主義の限界」

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── 小堀さんは今日、co-lab渋谷キャストの中を見学してみてどんなことをお感じになりましたか?

小堀氏:企業の一番の問題は「自前主義の限界」だと感じました。企業はデザイナーやエンジニアなどの多様な人材を抱えていますが、無意識のうちに「今の自分たちが一番」だと思いがちです。コストが安く、クオリティも高い外部の人材に外注したり、アイデアを募った方がいいのに、自前主義にこだわっています。これでは自分たちの殻の外のアイデアにたどり着きません。今日co-labで働くクリエイターの方々を見て、「企業もクリエイターの力を借りればいいのに」と思いました。

 これまでの連載で見てきたオフィスは、自前主義の限界を打破するための取り組みの産物でした。たとえばパナソニックコネクティッドソリューションズ社は大阪から東京に本社を移転して、組織をフラット化することで殻を破ろうとしていますし、ヤフーもオープンコラボレーションスペースの「LODGE」をつくることで外からの刺激を受ける環境を作りました。

500名のクリエイターが働く場「co-lab」

──「co-lab」とはどんな場所なのでしょうか。

田中氏:co-lab は、クリエイターのためのコワーキングスペースです。メンバー同士のコラボレーションはもちろんのこと、外部クライアントから co-lab へ依頼を受け、各専門領域のクリエイターや関係者によるチームを編成し、コンサルティングやソリューションを提供しています。

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田中陽明氏。大手ゼネコン設計部で「箱モノ」をデザインすることに疑問を感じるようになり、慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科でコミュニケーションアートを専攻し、その融合によって「生きた建築」をつくりたいと思うように。そのカタチとして、「建物や空間のデザインと、コワーキングでのコミュニティのデザインや運営やマネジメント」に辿り着いた

 2003年に、森ビルの文化事業部さんから支援を受けて六本木のビルでco-labを運営し始めました。現在のコワーキングスペースの定義によると日本では初で世界的にみても最初になります。現在、4か所のco-lab(+1か所のco-factory)があります。場所によって規模は違いますが、5か所合わせると500名ほどのクリエイターが集まっています。co-labというのは単なる場所貸し、コワーキングスペースではなく、コラボレーションを誘発するための場所でもあります。

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co-lab渋谷キャストの2Fスペース。円形テーブルで自由に作業をしたり、そのまわりのブースを契約して1、2人用専有オフィスにしたり、さらに外側の専有オフィスを借りてチームで働くこともできる
(写真提供:春蒔プロジェクト株式会社)

──co-lab渋谷キャストが置かれている渋谷キャストもそうしたコラボレーションの1つだとお聞きしました。

田中氏: 渋谷キャストというのは、東京都が主催する「都市再生ステップアップ・プロジェクト」における、渋谷区の都営住宅「宮下町アパート」の跡地事業になります。そのコンペに東急電鉄さんが参加される際、私たちも参画しました。co-labに関係する内外のデザイナーや建築家に声をかけて、東急電鉄など数社の方と一緒に7年ぐらいかけてでき上がったのが渋谷キャストで、その縁でコワーキングスペースとして運営委託を受け、中に入ったのがco-lab渋谷キャストになります。

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渋谷キャスト全景 春蒔プロジェクトは全体のデザインディレクションを担当。ファサードやランドスケープのデザイン監修はノイズの豊田氏が担当した
(写真提供:春蒔プロジェクト株式会社)

 co-labは私が代表を務める春蒔プロジェクトの1プロジェクトになります。当社はデザインディレクションの仕事などもやっていて、デザイン系のプロジェクトを春蒔プロジェクトで受けて、co-labに入っている入居者とコラボしてやっていくこともあります。

「魅力的な場所」をつくるには「魅力的な人」が必要

── co-labを利用するには審査があると聞きました。どのような審査をするのでしょうか?

田中氏:クリエイターの審査なので作品を見ます。私自身もクリエイターなので、作品や実績を見れば、その人はどういう人なのか、社会的信用度も分かります。ご本人からお知らせいただいたお仕事の実績や今後の展望に加え、現在のコミュニティにジョインしていただいたときにどんなシナジーが起きそうか、一般的な与信調査なども踏まえ、総合的に判断しています。

 とはいえ、co-labはシェアオフィスなので、コミュニケーションが嫌いだったり、コラボレーションに興味がなかったりなど、この場に合わない性格の人はお断りしています。

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co-labを利用するには作品審査に通らなければいけない
(写真提供:co-lab渋谷キャスト)

── 審査によって質の高い人を集められる一方、取りこぼしもあるのではないでしょうか。

小堀氏:一定のリテラシーを持った人を選別するのは大切なことです。茶道を考えてみてください。お茶の世界は、参加者がお互いに作法を分かっているから楽しめます。こうしたオフィスでも、作法、リテラシーなしに入った人はある意味不幸になりますから、いい関係性を築くためにも審査や基準は大事だと思います。

 以前連載で登場していただいたトゥーッカ・トイボネンさんが「これからは人も環境もキャラクターが重要になる」と話していました。コワーキングスペースというのは場所をつくるだけではダメで、場の特徴、いわば「場のキャラクター」が重要になります。co-labはクリエイターが集まる場なので、こうした審査プロセスがあると「そこに行けばすごい人がいる」というような場のキャラクターをつくりやすくなります。

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co-labが描くコラボレーションの在り方。co-lab には多様なクリエイターが集まり、個々がレオ・レオニ作の絵本『スイミー』のように必要に応じて集合体になり、協働しながら課題解決に向かう
(写真提供:co-lab渋谷キャスト)

田中氏:基準はあった方がいいですね。意識や能力の高い集団の中に身を置くことで、人は切磋琢磨して高め合うことができるという「ピア効果」という言葉があります。そうしたグループをつくらないとイノベーションは起きません。イノベーションを起こすのは世の中のせいぜい5%の人間ですから、それを起こそうとしたら、そういう人たちが集まる場をつくることが大切なのです。

 そのためにはPRし過ぎてもダメだし、賃料が高すぎてもダメです。co-labを必要としていて、co-labに適した実力と人柄の人たちがco-labを見つけてくれるくらいがちょうどいい。ホームページには入居者のリストを載せています。そのため、利用を考えているクリエイターにも「この場所はこのクラスのクリエイターがいる」というベースを理解してもらえます。利用者の質をきちんと守ることで良いコミュニティをつくることができると思っています。

小堀氏:場に合った「選ばれし者」が自然と集まってくる流れ・仕組を作れれば、選別する側にとっても、される側にとっても、負担の少ないなかで良い場所、良い仲間に出会うことができます。

── これまでco-labの利用者とのコラボで生まれたものを教えていただけますか?

田中氏:渋谷キャスト全体の開発を初め、横浜市とのコラボで横浜みやげをつくるプロジェクトなど開発段階から関わっていました。コクヨさんに西麻布にビルを1棟借りていただいてコワーキングスペースをつくったときは(2017年2月クローズ)、コクヨのデザイナーとコラボして椅子などをつくっています。

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横浜市とのコラボプロジェクトでつくった横浜みやげ
(写真提供:春蒔プロジェクト株式会社、プロダクトデザイン:デザイニト)

 co-labの利用者とプロジェクトを進めるときは、メーリングリストで興味のある人を募ったり、最初から「この人」と決めて依頼することもあります。メーリングリストやメルマガで様々なプロジェクトの情報を発信した時に、それに興味のある人は話しかけてくれます。

【次ページ】前例主義やロジック重視は新しい試みを妨げる
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