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エンターテインメント企業グループ・バンダイナムコエンターテインメント(以下、BNE)は2019年7月、本社を置くバンダイナムコ未来研究所(バンダイナムコの本社ビル)12階に新フロアを開設した。クリエイティビティが強く求められるエンタメ企業では、オフィス戦略をどう描いているのか。
聞き手・構成:編集部 佐藤友理、執筆:桑原 晃弥、撮影:濱谷幸江
聞き手・構成:編集部 佐藤友理、執筆:桑原 晃弥、撮影:濱谷幸江
「アソビきれない毎日を。」にふさわしいオフィスとは
小堀氏:バンダイナムコグループには100を超える会社がありますが、大きい企業は一様にみんなが集まる場所をどう作るか、コミュニケーションをどう深めるかといった悩みを抱えています。その解決策としてBNEが新しいスペースを作りました。その戦略に興味があります。また、ITやゲーム関連の仕事には創造性を刺激する場所や集中できる場所が必要になりますが、そういう場所をどう提供しているのか今日は聞きたいです。
露木氏:当社は2016年の1月に品川シーサイドから田町のこちらのビルに移ってきました。先ほど対談に先立って8階から11階のフロアも見ていただきましたが、この4フロアは遊び心のあるフリースペースと机がびっしりと並んだ執務スペースで構成されています。
それぞれのフロアにあるフリースペースを自由に行き来してもらって構わないのですが、どうしても社員の移動は自分のフロアに限られてしまいます。そこで、もっと各部署の人材がミックスし、コミュニケーションを活性化させる場所が必要だと前々から考えていました。
その後2019年4月にこのビルに入っていたグループ会社が別のオフィスに移転して、12階にスペースができました。当社の企業理念は「アソビきれない毎日を。」です。そこで企業理念にふさわしい場所をつくりたいと思い、今回のオフィスのような多目的空間新設の提案をしました。
小堀氏:御社にはクリエイティブな人たちがたくさんいらっしゃいますが、そういう人たちも加わってデザインしたのですか?
露木氏:デザインについては各部署の意見を取り入れました。実際のオフィス空間構築については専門の会社にお手伝いいただきました。
デザイン過程では、各部署から意見を聞き、何回もディスカッションを繰り返しました。結果、自由にゲームができる場所や、さまざまな本が置かれていたり、静かに集中できる場所や数人でミーティングできる場所も用意することとなりました。
BNEも向き合う「オフィスの公益性」問題
──新しいオフィスを作るときには、今回のように自社のフロアを使って自社で企画や設計をすることで新たなオフィスづくりを目指すケースと、既成の便利なオフィスに入るケースがあります。それぞれどんなメリット、デメリットがありますか?
小堀氏:自社でつくるメリットは「らしさ」というか、自分たちのオリジナリティが出せることです。デメリットは、オフィスの利便性や、オフィスから広がっていく世界観が社内向きに終始してしまい、公共性が獲得できないことです。コワーキングスペースなどのオフィスは、公共性は高いものの、入居する各社が自分たちらしさをオフィスを通して追及できないところがネックですね。
公共性とは、全然関係ない人がオフィスに入ってこられることです。たとえば、BNEさんに興味を持っていない人も、このオフィスに来れば興味を持つような仕掛けがあれば、「公共性が高い」と言えます。
露木氏:それはたしかに課題として認識しています。ただ、エンタメ業界なので、許可を取れば外部の方が入ってこられる仕組みはつくっています。
たとえば、当社にはバーチャル広告代理店「城崎広告」という事業がありまして、先日、SNS企業アカウントの中の人にお越しいただき、ここでイベントを開催しました。幸い参加していただいたみなさまにこの場所を気に入っていただきましたし、こうした試みを通して課題をプラスにしたいと考えています。
小堀氏:かつては企業の中のスーパースターがすごいものをつくっていましたが、今は外の世界の知恵をいかに取り込むかが問われています。
日本でもヤフーはLODGEというオープンコラボレーションスペースをつくることで、高校生などもオフィスに入れ、そこからアイデアを得ようとしているほどです。もっとも、同社のクリエイターにとっては居心地の悪い場所になっている可能性も否定はできませんが、やはり企業のオフィスにとって公共性は重要になりつつあります。
フリーアドレスを実現するための3ステップ
小堀氏:公共性や交流を促進する手っ取り早い方法がフリーアドレスです。御社はまだ導入していないそうですね。
露木氏:すでにフリーアドレスを導入しているグループ会社もありますが、当社はまだです。
12階以外の8階から11階のオフィスの部分はどのフロアも似た並びにしていますが、これは総務的観点からいくと組織変更や異動の度にオフィスのレイアウトを変えなくていいという費用的なメリットがあります。その分、どうしても画一的になってします。そこで、今回のフロアでは画一性の逆を行く「アソビのある環境」を目指しています。
──フリーアドレスにする難しさはレイアウト変更の手間や費用がかかるという面以外にもありますか?
露木氏:「自分の机で仕事をするのが当たり前」だとという考え方から、そうではない働き方があるんだという考え方を浸透させないと、本当のフリーアドレスにはできないと考えています。フリーアドレス化するのは簡単かもしれませんが、やはりみんなが納得した上で導入したいです。
小堀氏:フリーアドレスを実践するには3つのステップがあります。
まず、私物とキャビネットをなくす。次に、会社がモバイルデバイスを支給する。そして最後に、「どこで働くのか自分できめる」という意識改革を行う必要があります。
「どこで働くのか自分で決める」というのは、聞こえはいいですが、実践するのは意外と面倒です。これは、学校における制服と私服の違いのようなもので、制服は決まっているものを着るだけですみますが、私服の場合は何を着るかという選択やセンスが求められます。
自分の席が決まっていれば、何も考えなくて良かったのに対し、フリーアドレスだと「Aさんの隣は嫌だから避けよう」「でもBさんとはいろいろ相談したほうが仕事が効率的に進むから、ある程度近い席がいい」などと余計なことを考えるため、選択するという余計な仕作業が増えます。それが億劫なのか刺激になるのかは人によって違いがあり、その選択を無理にさせるとストレスになります。
【次ページ】「遊んでいるように見られるんじゃないか」という不安をどうするか
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