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  • 2019/01/17 掲載

「インスタ映えするオフィス」で満足か?ヒントはむしろ“江戸”にある

小堀哲夫のオフィス探訪

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働き方改革の機運が高まる中、職場環境からイノベーションを起こそうとしている企業が目立つようになった。しかし、イノベーションは未来を見据えるだけで良いのか? 建築家の小堀哲夫氏と、イギリスとフィンランドのオフィス事情に明るい国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主任研究員 トゥーッカ・トイボネン氏が深川江戸資料館を訪れ、江戸時代の人々の生活を見ながら、「働き方」「働く場所」について語り合った。
聞き手・構成:編集部 佐藤友理、執筆:桑原 晃弥、撮影:濱谷幸江

聞き手・構成:編集部 佐藤友理、執筆:桑原 晃弥、撮影:濱谷幸江

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建築家の小堀哲夫氏(左)と国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主任研究員トゥーッカ・トイボネン氏(右)。対談を行ったのは、深川江戸資料館 常設展示室にある長屋。ここは「木場の木挽職人 大吉」の部屋


江戸・東京・ロンドンから見えること

小堀氏:大学時代、イタリア調査に行って衝撃的を受けました。イタリア人は自分たちの街が大好きなのに対し、日本人は東京に対して誇りを持っていません。そもそも自分が住む街に対してあまり興味を持っていません。

 しかし、今はそこに変化が起きていて、自分が住んでいる場所をもう一回見直して、「いい場所」「いい空間」「いいコミュニティ」をつくろう、場をつくってつながろうとし始めているのではないでしょうか。

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建築家の小堀哲夫氏(左)と国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主任研究員トゥーッカ・トイボネン氏(右)
トイボネン氏:今日、この資料館を見て、江戸では働く場所と生活する場所が近かったのだと感じました。今私たちがいる職人の部屋にも、仕事道具がたくさん置いてありますね。

 東京では、働くための「会社」と、生活するための「家」というスペースが物理的、精神的にはっきりと分けられてきました。しかし今、そういうエレメントが近づいてきています。

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 ロンドンでは職場に子どもを連れてきてもいいし、犬を連れてきてもいい。仕事に直接関係ない人や物が、職場に入ってくるようになってきているのです。

空間はユーザーと作ったほうがいい

小堀氏:我々建築家は、空間構造だけでなく、そこで展開する暮らしや活動をデザインするよう求められています。そのために私がよくやるのが「ワークショップ」です。

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 日華化学のNICCAイノベーションセンターを建築したときは50人と話し合って、彼らに必要な空間をあぶり出しました。こういう場で、バラバラの意見を統合していくのが僕ら建築家の仕事です。

 本来企業も人間も千差万別で、理想の職場環境を追求したら、同じものは2つとないはずです。しかし、20世紀の近代建築はあらゆる職場環境を均一化しようとしました。そしてその均一化を「進化」と呼んだのです。ですが、今は各社独自の考えで独自の空間をつくることが良しとされています。

トイボネン氏:そこで空間のユーザーとワークショップをして、各社の職場環境のあるべき姿を考えると。まさにコ・クリエーション(価値共創)ですね。

職場のハードとソフトが影響し合うから、「選択肢」が必要

小堀氏:空間設計で注意すべきことがあります。「ハードとソフトはお互いに影響し合う」ということです。働く人は「自分の働き方がこうだから、こういう空間が良い」と考えたり、逆に「自分はこういう空間にいるから、こういう働き方をする」と考えたりします。お互いに影響し合って進化していくのです。

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トイボネン氏:僕がロンドンの研究で知り合った起業家たちは、まさにやることに合わせて場所を選んでいます。

 たとえば、彼らはビジネスに関わる重大な問題に遭遇したらメンターがいるオフィスに出向いて、対応策を相談します。対策の方向性が決まったら、投資家のいるところに行って彼らに会い、その後チームメイトと話すためにグーグルキャンパスに向かう。移動の途中で頭を整理したり、休憩するために公園に立ち寄ることもある。

 彼らはこんな風にダイナミックに移動しながら働いてます。さらに、街中を移動するだけでなく、スカイプで地球の裏側にいる商談相手やコラボレーション相手と話すこともあるでしょう。「ありとあらゆる場所をオフィスにしている」といってもいいでしょう。企業よりも個人が力を持って、どこでも働けるようになっています。

小堀氏:理想を言えば、社員の働き方、オフィスの物理的な状況を見て、企業は常に働く環境を進化させないといけないのです。

──その場合、企業はビジネスの状況や、人員数の変化、建物の老朽化や大小の自然災害など、ことあるごとにオフィスを改造しないといけません。現実的にはどうすればよいのでしょうか?

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小堀氏:確かに、実際問題として、オフィスを物理的にしょっちゅう変えるわけにはいきません。企業ができることは、多様な働く環境をつくることです。それができれば、社員の方が自分に合った「働き方」に合わせ、主体的に場所を選び、働き方を決められます。逆もまたしかりです。たとえば、メールを打つならここ、集中して資料を読むならここ、電話をするならここ、と自分で選択できるわけです。

「食」は避けられないから、コミュニティづくりのカギに

小堀氏:何かを食べているときというのは、幸せなものです。そして、生きている限り、仕事をしていようがいまいが、食べることは避けられない。

 北欧に行ったとき、ある企業では、オフィスの椅子は全員分ないけれど、食堂の椅子は全員分ある状態でした。つまり、仕事をするときはどこで作業してもいいけど、食事のときだけは社員全員が食堂に揃うんです。食を通してコミュニティを再生しようと重視しているのが新鮮でした。

 江戸時代の空間を見ても、当時の人間が忙しく働く中、何とかうまいものを食べようと工夫しているのがよく分かります。

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江戸時代の蕎麦屋の屋台。当時、うどん粉とそば粉を2対8で配合して作ったそばが16文で売られていた。そのため看板が「二八」となっている。小堀氏の両サイドのスペースにはどんぶりやはしなど、蕎麦屋の商売道具がしまってある。深川江戸資料館 吉岡優美氏にご案内いただいた
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小堀氏が握っている棒の部分を肩に担いで移動する。
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トイボネン氏の背後には天ぷら屋の屋台

トイボネン氏:コワーキングスペースも大体キッチンを持っていて、よく食事会をしています。実は、キッチンでメンターに出会う人、ビジネス上の重要な出会いをする人は多いんです。

 私が学んだオックスフォード大学でも共同のランチとディナーを制度化しています。ケンブリッジ大学でも毎日、夕食を学生みんなで一緒に食べるそうです。

 こうしたディナーには、社会学者もいれば、物理学者もいる。異分野の人間が隣同士になるから集まる意味もあるし、コミュニティの強さも生まれます。集まることが大事にされています。

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小堀氏:NICCAの場合は、食堂によその人が入って来れるようにしました。プレゼンなどもできるようになっています。

 これまで研究所に部外者が入るのはタブーでしたが、社員の要望でつくったところ、既に6000人に使われています。

 これまで日本企業は閉鎖的でしたが、NICCAに限らず、ヤフーLINEジンズなどの試みを見ると、一企業が外に開放されていく、外との交流の仕組みをつくるという流れがあるように感じます。

【次ページ】日本流コワーキングスペースは「江戸時代の路地」をヒントに
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