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  • 2019/12/05 掲載

トイレはLGBTだけの問題ではない、みんなのクリエイティビティの問題だ

小堀哲夫のオフィス探訪

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「企業の競争力強化にはダイバーシティが必要だ」といわれるが、それを実現するオフィス環境とはどんなものなのか? この問いの答えを見つけるため、建築家の小堀哲夫氏がLGBTアクティビストの増原裕子氏と対談を行った。TOTOの施設を見学しながら2人が考えた、新しいオフィスの在り方とは?
聞き手・構成:編集部 佐藤友理、撮影:濱谷幸江

聞き手・構成:編集部 佐藤友理、撮影:濱谷幸江

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建築家 小堀哲夫氏(左)とLGBTアクティビスト 増原裕子氏(右)
(撮影協力:TOTO)


ユニバーサルデザインが内包する矛盾

──ダイバーシティといっても、さまざまな切り口があります。LGBT対応という観点で真っ先に連想されるのはトイレですが、トイレは誰にとってどのような課題がある場所なのでしょうか?

増原氏:一時期、メディアで「LGBT用トイレ」という表現が使用され、いまでもそういう表現を使う人がいますが、トイレで困るのは主にトランスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と異なる性別を生きる・生きようとする人)の当事者です。

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──2018年にTOTOが発表した「2018年性的マイノリティのトイレ利用に関するアンケート」では、トランスジェンダー当事者はトイレに入る際の周囲の視線やトイレに入る際の周囲からの注意や指摘にストレスを感じると回答しています。

増原氏:トランスジェンダーには性別を変えたい、あるいは実際に性別を変えている途中の方々もいらっしゃいます。そうなると、トランスジェンダーは男女別トイレのどちらに入ればよいのか、どうすればよいのか困ることが多いです。

 しかし、トランスジェンダーでなくても、たとえば見た目が中性的な人が男性トイレなり女性トイレに入ると、他の利用者にビックリされることがあります。つまり、「どのトイレを使うか」という問いは、実際はトランスジェンダーだけの問題ではなく、見た目でパッと「男性」「女性」と判別しづらい人たちなど、みんなに関わるものなのです。

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トランスジェンダーにとって、トイレに入る際の周囲の視線はストレス要因となる
(出典:TOTO「2018年性的マイノリティのトイレ利用に関するアンケート」)

──トイレ以外に、ダイバーシティという観点で課題になる場所はあるのでしょうか?

増原氏:共同浴場、シャワー、更衣室などがあります。浴場やシャワーですと、トランスジェンダーに配慮して個室シャワーが設置されることもありますが、実際にはこうした個室シャワーをトランスジェンダー以外で使いたいという人もいます。

 たとえば、体に火傷があって、人に見られたくないという人は、共同浴場には入りにくい。個室のシャワーがあると助かるわけです。

 このように、「こういう人のため」と使用者と用途を限って想定して作ったものが、想定外の使用者を救い、想定外の用途を生むことがあります。

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当日見学したTOTO製品の一部。トイレの個室のフィッティングボードを見かけることも増えた。もともと着替えのために用意されたものだが、重い荷物や大きな荷物を床に置きたくない利用者が使うこともある。想定外の使用者を救い、想定外の用途を生む例だ

 トイレに限った話ではありませんが、男性用、女性用、大人用、子ども用と、ユーザーや用途を決めてしまうと、共通のものを使って助かる人の範囲を狭めてしまう側面があるのです。だからこそ、ダイバーシティの実現には、ユニバーサルデザインの観点を取り入れた、多様な人々にとって使いやすい空間が必要だと思います。

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TOTO施設内の男性用トイレの展示の一部。トイレ用擬音装置の「音姫」を起動するボタンに「音姫」ではなく「音」と記載されている。男性でもボタンを押しやすいようにという工夫だ
(撮影協力:TOTO)

小堀氏:ユニバーサルデザインには2つの考え方があります。

 1つは普遍的に使えるように、いわゆる「誰でも使えるように」すること。もう1つは多様な人々に個別対応できるようにすることです。

 「多目的」や「バリアフリー」は前者のアプローチです。難しい点は、どんな人でも使える設計というものは、オーバースペックになり、均質化して「金太郎飴」のように同じものばかりを生んでしまうことです。そうなると多様化とは逆になり、またマイノリティが生まれてしまいます。

 そのため僕の場合、多様性に対応するために、できるだけ多くの個別設計をする後者のアプローチを選びます。「誰でも使えるように」というアプローチにすると、どんな人でも使えるもの、誰でも使えるはずのものが、やがて誰もが快適に使えない無目的なモノに変容するリスクがあるからです。

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究極のトイレは意外なところにあった

──先ほど紹介した調査にもあるように、トランスジェンダーが特にストレスを感じるのは「トイレに入る際」ということです。「男性用」「女性用」というフィルターに問題があるのでしょうか。

増原氏:そうかもしれません。そういう意味では、新幹線などの電車で見られるトイレは、すごく良いデザインだと思います。

 駅やビル、百貨店などの中にある公衆トイレは「男性用」「女性用」というサインが非常に目立つようにデザインしてあります。しかし、電車の中にあるトイレを思い出してみると、男女共用の個室が多く、利用者も「男性用」「女性用」「男女共用」というサインをあまり意識しません。電車の中のトイレは「男性用」「女性用」「男女共用」というより、「ただのトイレ」なのです。

 車両に直接個室のトイレが並んでいて、通路からすぐに入れます。これなら「男性用」「女性用」というフィルターがないため、トランスジェンダーがストレスを感じることも少ないでしょう。また、トランスジェンダーとは違う理由で男女のフィルターに違和感を感じたり、「他の人もいるトイレ」が苦手な人にとっても、使いやすいトイレなのではないでしょうか。

 女性の場合は、防犯面や衛生面で男性と同じトイレを使いたくないという声もありますが、男性用の小トイレもあり、個室が分かれています。手洗いも個室なのでメイクもできます。

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小堀氏:なるほど。たしかにそうですね。新幹線や電車のトイレはあくまで「ただのトイレ」であって、いろんな人が入りやすい空間になっています。「誰でも使えるように」と「多様な人々への個別対応」も両立されています。いろいろなパターンを想定し、多様化しながらもミニマムであって、同じスペースに収まっています。

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