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- 2017/08/03 掲載
「LGBT用トイレ」は的外れ、トランスジェンダーが困らない職場環境整備の本質を解説
ダイバーシティ経営におけるLGBT対応
トイレ問題は「LGBTの問題」か?
今年5月、経団連がダイバーシティ&インクルージョン社会を実現する上で、LGBTフレンドリーな社会を目指すことが重要だとして、企業のLGBTに関する取り組みを推進する提言を出したことに象徴されるように、企業のLGBT対応が大企業を中心に広がりつつある。「LGBT対応」「LGBT施策」と一括りにして語られることも多いが、実はその中身を見てみると、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなどの性的マイノリティ)に共通する課題と、トランスジェンダー(自認する性別と出生時の戸籍の性別が一致しない人)に特有の課題とに大きく分かれる。
「LGBTに共通する課題」には、職場でのカミングアウトに関連する課題や、SOGIハラ(ソジハラ:性的指向・性自認に関するハラスメント)などがある。
これらの課題が放置されると、LGBT社員の生産性が下がったり、メンタルヘルスに悪影響がおよび、離職につながってしまうことも多い。また、LGBT当事者自身が課題を訴えない限り、課題が可視化されにくく、理解されにくいという特徴がある。
LGBTの支援者であるアライが課題を指摘することもできるが、アライによる課題解決では、当事者のニーズを満たしきれないこともあり、やはり「当事者の声」がとても重要になる。
一方で、「トランスジェンダーに特有の課題」とは、一言でいうと「望む性別で働きたいが、その実現には大きなハードルがある」ということだ。
たとえば、トランスジェンダーは、戸籍の性別と自認する性別のどちらで就職活動に臨むかという壁にぶつかりやすい。また、働きながら性別移行をするには職場の理解とサポートが必要だが、それを得られず苦しんだり、退職に追い込まれてしまうこともある。
企業がLGBTの対応を考える際には、まずはこの「LGBTに共通する課題」と「トランスジェンダーに特有の課題」の違いをおさえておく必要がある。 そのうえで、社員のカミングアウトに関し、あらかじめ対応を検討して備えておくことをお勧めする。というのも、LGBTが占める割合は7.6%にのぼり(電通ダイバーシティラボ「LGBT調査2015」による)、いつ社内からカミングアウトの声が聞こえてもおかしくないからだ。
トランスジェンダーの約65%が「トイレで困る」
トランスジェンダーが直面する課題の代表的なものの一つに、公共の場でのトイレ利用がある。男女別になっている設備の中でも最も利用頻度が高く、課題が可視化されやすい。自宅以外でトイレを使うときに、困難を抱えているトランスジェンダーはとても多い。特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ(以下、虹色ダイバーシティ)とLIXILが2015年に実施した共同調査によると、トランスジェンダーの約65%が「職場や学校のトイレ利用で困る・ストレスを感じることがある」と回答している。 LGBTの中でも、特にトランスジェンダーがトイレ利用で困難を抱えていることがわかる。
その理由のトップ3は「周囲の視線が気になる」「だれでもトイレ(車いす利用者、子ども連れの方、オストメイトの方などさまざまな人に使いやすい多機能トイレ)利用時に、障がい者や高齢者、子連れの方と遭遇すると気まずい」「他の利用者から注意されたり痴漢と思われないか不安」。いずれもハード面ではなく、他のトイレ利用者との関係性によるものだ。
「トランスジェンダー」といっても、人により状況はさまざまで、トイレ利用で問題に直面するのは、「見た目の性別」が典型的に男性か女性かのどちらかに振り分けられない場合だ。
したがって、見た目の性別が、自認する性別に自他ともに認めるほどに移行できている場合には、男女別のトイレに入ること自体にはほぼ問題がない。とはいえ、男性用トイレは小便器エリアと個室エリアに分かれていることが多く、トランスジェンダー男性(性自認は男性、出生時の性別は女性)は個室を使うことが多いが、個室の数が少なく使えないことがあるなど、細かな課題はたくさんある。
男女別のトイレで困るのは、性別移行中のトランスジェンダーや、Xジェンダー(性自認が中性/両性/無性など男女に二分できない)などがメインだが、性的マイノリティでなかったとしても、見た目が中性的な人は公共のトイレで嫌な目に遭ったり、トラブルになることが少なくないという。
【次ページ】LIXILはトイレの機能分散で、西脇資哲氏はIoTで課題解決を提案
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