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社会の課題について声を上げる人に対し、主張の内容ではなく話し方や態度を批判する「トーンポリシング」。トーンポリシングは「保育園落ちた日本死ね」ブログ、レイプ被害公表した伊藤詩織氏、保毛尾保毛男(ほもおだほもお)復活、熊本市議会に赤ちゃん連れの議員が出席したことなど、注目を集めたニュースの周辺で観測されている。この言葉の意味と問題点を、事例をもとに紐解き、ダイバーシティ経営の中でどう取り上げるべきか解説する。
トーンポリシングとは何か
日本でも2017年ごろから目にするようになった「トーンポリシング」。英語でtone(口調、話し方)とpolicing(policeする=取り締まる)が組みあわさった表現で、直訳すると「話し方警察」「話し方の取り締まり」となる。
差別や抑圧が問題になっていて、その被害を受けている人たちが声を上げる際に、訴えの内容そのものではなく、話し方や言葉づかい、態度を批判することで、論点をずらす行為のことをいう。
たとえば、思いっきり足を踏まれた人が反射的に「いてっ。足どけろよ!」と叫んだときに、「その言い方はないだろう、もっと丁寧な言葉づかいをするべきだ」と踏んでいる側または周りが注意する場面を想像するとわかりやすいだろう。
日本でトーンポリシングという言葉が使われだしたきっかけの一つは、『
「冷静に」なんてなりません!』という、イラストつきの英語記事を翻訳したWeb記事で、これがSNSで話題になった。
トーンポリシングの何が問題か?
問題は、トーンポリシングを用いることで、問題の本質と正面から向き合うのを避けていることだ。「言いたいことはわかるが...」という前置きをつけて、一見発言者に理解を示すようなふりをしながら、「しかしその言い方は問題だ」「そんなに感情をむきだしにしていては伝わるものも伝わらないよ」などと言い、巧みに論点をずらしていく。
トーンポリシングは、対等な関係では問題になりにくい。差別や抑圧を受けている人が、その痛みや悲しみ、怒りを訴えようとするときに、差別をしている人や特権を持つ人たちが、話の内容ではなく、そこに付随する感情を批判することで、沈黙させ、力をそぎ、訴えをしりぞける効果を発揮する。
また、差別/被差別というような上下の関係性でなくても、差別や抑圧を受けている人同士の間でトーンポリシングが発生することもある。差別をなくそうと声を上げる当事者に対して、差別を内面化している別の当事者から、「そういう声を上げると、うるさい人たちだと思われて迷惑だ」と、声を上げるという行為自体が感情的だとか攻撃的だというような形で批判されたりする。
だが、差別や抑圧が生じている構造が問題なのであって、それを解決しようとまずは現状を訴えたり、怒りを表明したりすることなしに、その社会課題に注目を集めることは難しい。多くの人は無関心だからだ。
訴えに付随する感情を切り出して批判するトーンポリシングを行う人の問題は、そこで話を終わらせてしまうことだろう。もともと課題の本質から目を背けたいがためにトーンポリシングを行うのであって、「あなたのこういう表現は感情的でよくない。それはそれとして指摘した上で、じゃあ課題解決のために何ができますか?」と一緒になって建設的に考えてくれる人がいるだろうか?
トーンポリシングによる論点ずらしは、差別や抑圧の構造を温存し、何も解決しない。社会を変えていくための表現や発信が批判されているのを見かけたときには、トーンポリシングによって巧みに課題の本質が隠されていないか、注意深く見きわめることが大切だ。
【次ページ】具体例でみるトーンポリシング
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