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2015年に渋谷区から始まった同性パートナーシップ制度も、今では全国に広がりを見せている。こうした行政の動きは、企業が提供するサービスにも影響を見せ、これまで慎重な姿勢を貫いてきた金融業界にも変化をもたらした。今年7月にはみずほ銀行が住宅ローンの内容を改正し、同性カップルも利用できるようにした(国内初)。10月には楽天銀行がリクルート住まいカンパニーが運営する「スーモカウンター新築マンション」を通して同性カップル向け住宅ローンの提供を開始した。みずほ銀行 平田将教氏、楽天銀行 大森健一郎氏、リクルート住まいカンパニー 渡辺美幸氏、みずほフィナンシャルグループ 中村真悠子氏、に狙いや戦略的意義を聞いた。
金融業界で同性カップル向けの商品が普及しなかった理由
世の中には「家族向け」「夫婦向け」の商品・サービスが多くあるが、同性カップルがそうしたものを利用したくても対象に含まれておらず、利用できないということが多い。
その背景には、これまで生活者として同性カップルが社会的に認識されてこなかったために、想定されるユーザーから同性カップルが抜け落ちていた、という状況がある。
しかし、2000年代後半頃から段階的に、同性カップルも結婚式、携帯電話の家族割、航空会社のマイレージの授受などのサービスを使えるようになってきた。
中でも、「同性カップル向け」最大の壁と言われてきたのが、生命保険や住宅ローンなどの金融商品だった。
特にこの2つは契約金額が大きく、不正リスクの抑制が大きな課題でもあるため、企業も安易に契約要件(受取人など関係者が契約者の配偶者であったり、家族であることを証明する必要があるなど)を緩和するわけにもいかない。その一方で、同性カップルにとっては、生命保険や住宅ローンの選択肢が狭まり、人生設計に制限が生まれ、不便や困難の原因になることもある。
ここで注目したいのが「契約要件」そのものは企業が独自に決められるものであり、法律で定められているわけではないということだ。つまり、同性カップルが金融商品を利用しにくい状況は、「法整備や行政制度が整っておらず、企業が対応できないから」ではなく、「業界や企業の慣習で同性カップルがサービスの対象から除外されていたから」生まれただけなのだ。
みずほ銀行、楽天銀行の同性カップル向け住宅ローン開始までの経緯
ここで、これまでの金融業界の動きを振り返りたい。
2015年秋、東京都渋谷区・世田谷区で同性カップルを「結婚に相当する関係」と認めるパートナーシップに関する公的書類の発行が始まった。これに連動する形で、ライフネット生命が「死亡保険の受取人に同性パートナーを指定できる」とする対応を国内で初めて打ち出し、社会にもLGBTコミュニティにも大きなインパクトを与えた。
その後、第一生命や日本生命なども保険金の受取人に同性パートナーを指定できるように対応を進め、業界全体に波及した。損害保険においても同様の整備が進みつつある。
そして今年、住宅ローンの領域でも、みずほ銀行と楽天銀行が相次いで商品改定を発表し、両社ともこれまで男女の夫婦に限っていた住宅ローンの家族ペア返済や収入合算を、同性パートナーにも拡大した。この2社の商品について詳しく見ていこう。
まず、今年7月に邦銀で初めて同性カップル対応を打ち出したみずほ銀行では、どういうきっかけで、どのような段階を経て実現したのだろうか。
商品改定を担当した同社 個人リテンション推進部 営業開発チーム 調査役 平田将教氏は、「当社では、社内の若手社員による経営戦略を提案する研修の中で、同性カップルのニーズを捉えた金融商品の開発という動きが始まりました。全国の17名のLGBT当事者へのヒアリングを経て、経営陣にプレゼンしたところ反応が良く、社長からGOサインが出ました。その後私たちの部署で検討を重ね、実際に商品化しました」と語る。
一方の楽天銀行は、全国の「スーモカウンター新築マンション」を通じて紹介を受けた新築マンション購入予定者を対象とし、LGBT向け住宅ローンを10月に提供開始した。スーモカウンターを運営するリクルート住まいカンパニーとのコラボレーションだ。
「LGBTの皆さまへの住宅ローンの提供というのは、リクルートさんからいただいた話なんですよね」と話すのは、楽天銀行 執行役員 サービス高度化本部長 大森健一郎氏だ。
リクルート住まいカンパニー カンパニー・コミュニケーショングループ 渡辺美幸氏は「スーモカウンターでは昨年からLGBTの方々向けに新築マンション購入講座を提供しています。その中で実際のお客さまの声を直に聞く機会が増えてきました。また、弊社が行った調査では、半数の方が『二人で住宅ローンを組めれば、物件検討の予算を上げられると思う』と回答しています」と話す。
「楽天銀行ではLGBTへの取り組みを積極的に推し進める楽天グループの一員として課題は認識していましたが、リクルートさんと色々お話しする中で、このLGBT住宅ローンに関しても話があって。ニーズの高まりを踏まえて、これを具体的にやるという決断をしました。決断からローンチまでは半年くらいです。高度なシステム開発が必要というわけでもなく、我々が考えを柔軟にすればいいだけの話だったんです」(楽天銀行 大森氏)
みずほ銀行、楽天銀行の条件の違いとその背景
みずほ銀行では、当初「東京都渋谷区が発行するパートナーシップ証明書の写しを提出すること」をローン利用の条件にした。
平田氏は「男女の法律婚であれば『入籍』というプロセスがありますが、同性カップルにはない。そこで、どうやってお二人の関係性を確認するかが論点でした」と説明する。
「渋谷区の他にもいくつかの自治体で同様の制度が導入されていましたが、渋谷区だけが条例で、交付書類も証明書という形を取っています。申請の条件に公正証書が入っていることもあり、まず選ぶなら渋谷区の制度だと考えました。スモールスタートでもいいから始めようという方針で進めました」(みずほ銀行 平田氏)
みずほ銀行はその後10月に条件を緩和した。
「7月のリリース後、お客さまから色々な声をいただき、条件を拡大したほうがいいという結論にいたりました。これまでの渋谷区のパートナーシップ証明書だけでなく、任意後見契約および合意契約に係る公正証書の正本または謄本および任意後見契約に係る登記事項証明書でもお申込みいただけます。ただ、条件を拡大するとなると、リスク管理の側面との整理が必要でした。渋谷区にも話を聞いたり、公正証書の内容もよく調べた上で、10月の改定で対象となる同性パートナーの条件拡大にいたりました」(みずほ銀行 平田氏)
この条件について、楽天銀行の方針は対照的だ。大森氏は「自治体のパートナーシップ証明書などの公的書類を『マスト』の条件にするという選択肢は最初からありませんでした」と語る。
「サービス設計の議論の中で話題にはなりましたが、僕は絶対にそれを条件にしない、というところにこだわりました。対象者がものすごく限定されてしまいますから。シンプルに、困っているお客さまのニーズがあって、その人たちに便利に使ってもらうには、という発想で進めました」(楽天銀行 大森氏)
楽天銀行では、申し込みにあたってパートナーシップの公的な書類は不要だが、「スーモカウンターで対面で1~2時間話すというプロセスを踏んでいることで安心感がある」と大森氏は不正リスクへの対処について語る。
【次ページ】ブランディングのみずほ銀行、収益の楽天銀行
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