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さまざまな日本企業が「ダイバーシティ&インクルージョン」施策を進めている中で、企業が必ず念頭に置かなければならないのは、自社グループの海外展開に伴う国際ビジネス界、海外の取引先や顧客を取り巻く国際市民社会の「評価の目」です。これは決して「責任あるグローバル市民であれ」という高尚な視点のみからの指摘ではなく、それが自社のビジネスに直接影響を与える問題であるということです。3カ国の事例をもとに、グローバル社会では企業の姿勢として何が重要視されるのかを見ていきます。
米国のLGBT支援もまだ発展途中
LGBT支援に関する施策について米国の事例を紹介すると、どこかからひそひそ声で「海の向こうの西洋社会で起こっているウルトラ・リベラルな地でしか成立しないもの」「日本は米国ほど(LGBTに関して)寛容な国ではないから」「女性の社会進出と同じで、米国はLGBTに関しても日本よりオープンで、何かと進んでいる」などと聞こえてきそうです。
たしかに著名な米国企業のCEOやシニアな役職に就いている人が自らLGBT当事者であると公言している例は、日本に比べると圧倒的に存在感があると思います。ですが、果たして米国のビジネス界はLGBT当事者やLGBT当事者の家族や被雇用者にとって天国のような場所なのか、法的な保護は十分か、と問えば、まだ発展途中の状況であると言えます。
私は25年間以上国際法律事務所で外国法弁護士としてコーポレートM&Aの法律実務に従事してきました。2015年の米連邦最高裁判決で米国全土において同性婚が合法化された際には、世界中の同僚たちとバルセロナで国際会議に参加していました。
数百人の聴衆の1人としてスピーカーである同僚たちの声に耳に傾けていると、同じ丸テーブルにいる米国人の同僚たちがスマホをチェックしながら何やらざわざわと興奮冷めやらぬ様子になっていました。その時私は、「信じられない」「自分の生きている時代に(同性婚が)実現するとは思ってもいなかった」「素晴らしい前進だ」という声を目の当たりにしたのです。
当時、私は皆が話をしていることの意味を十分に理解していませんでしたが、とにかく同僚たちが大変驚いていた様子を忘れることができません。それほどまでに米国での同性婚合法化の最高裁判決が出たことは、2015年当時でも非常に画期的なことであったと認識しています。
それから5年の歳月を経て、2020年6月にさらなる前進が確定しました。連邦最高裁で「職場におけるLGBT差別は、性別に基づく差別を禁止する連邦法に違反する」という判決がでたのです。
つまり、性的指向・性自認に基づく解雇は違法ということです。2016年時点で世界67カ国において性的指向に基づく差別を禁止する法律が成立しており、20カ国において性自認に基づく差別を禁止する法律が成立していましたが、米国はこのような国の仲間入りを果たせずにいました。今回の最高裁判決を経て、米国の職場においても性的指向・性自認に基づく解雇は違法となったのです。
米国での「評価の目」:CEI(コーポレート平等指標)とは
米国においては、今回のようにLGBTに関して重要な意味を持つ最高裁裁判の際には、定評と実績のあるLGBT市民団体である
Human Rights Campaign (HRC)や
OUT Leadership らが、多数の企業が署名する「アミカス・キュリエ・ブリーフ:Amicus Curie Brief(“Friend of the Court” Brief)」を取りまとめて最高裁に提出しています(注1)。今回の最高裁裁判の際には206社が社名を公開したうえでサポートを
公言 しました。
注1:アミカス・キュリエ・ブリーフとは、「アミカス・クリエ意見書」とも呼ばれ、被告のために法廷助言者(当事者ではない第三者)が裁判所に提出する意見陳述書のこと。米国では裁判所に対し、当事者および参加人以外の第三者が事件の処理に有用な意見や資料を提出する「アミカスブリーフ」という制度があり、これを提出する第三者は「アミカスキュリエ(Amicus Curiae:裁判所の友)」と呼ばれる。
米国では、各企業のLGBT関連の問題に対する認識と対策の度合いや、自社の従業員に対する取り組みや姿勢を評価する外部評価のランキングが毎年公表された基準によって組織体ごとに評価され、公表されています。
その中でも米国全土を網羅するHRCの
Corporate Equality Index (CEI:コーポレート平等指標)が確固たるベンチマークの1つとされています。これは、2002年より毎年結果が公表されているものです。基本的には各社がアンケートに回答する形で細分化された項目について自社の状況を自己申請する形になっていますが、自己申請をしていない企業も以前に回答をしたことがあれば評価の対象となることもあります。
このCEIのような外部評価を参考に、その企業で働く従業員あるいは従業員候補は「働く場として適切か」、また、顧客や取引先は「取引相手として適切か」を判断しています。米国で長年ビジネスを展開している日本企業や企業買収や統合により米国のビジネス拠点が拡大している日系企業にとっても、このような“外部評価の目”が存在し、ビジネスの実績に影響することを念頭に置く必要があります。
【次ページ】英国、香港における「評価の目」
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