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企業におけるLGBT施策に関しては、今やさまざまな書籍が出版され、先行事例も数多く紹介されています。本稿では、それらすべての施策を網羅することはできませんが、先行事例では具体的にどのようなことが実施されているのかを概観します。ダイバーシティ経営施策に悩んでいる企業は、ぜひ参考にしてみてください。
指針の策定、規程の改定、経営者宣言、どう書く?
すでに「倫理規程」やそれに類する規程があり、そこで、国籍や人種、性別などによる差別の禁止がうたわれているならば、その差別禁止条項に、「性的指向・性同一性(性自認)を加筆する」ことが、「LGBT支援のための体制づくり」のはじめの一歩になると思います。
たとえば、野村ホールディングスの「
野村グループ行動規範2020」第18条は、下記のように定めています。
私たちは、国籍・人種・性別・性自認・性指向・信条・社会的身分・障がいの有無等を理由とする、一切の差別を行わず、均等に機会を提供します。
私たちは、社会の異なる価値観を尊重し、すべての人々に対し、常に敬意をもって誠実に向き合います。
この「行動規範」は昨年12月に公表されたものですが、上記条文の前身である「野村グループ倫理規程」の差別禁止条項には、2012年に「性的指向、性同一性」という語句が挿入されておりました。さらにここに付け加えるならば、「差別禁止」の観点のみならず、多様性の尊重を通じた従業員の能力発揮・生産性の向上という「ダイバーシティ&インクルージョン」の観点も同時に打ち出されるべきだと考えます。
野村ホールディングスは、上に述べた倫理規程改定の4年後、2016年に「
グループ・ダイバーシティ&インクルージョン推進宣言」を採択し、そこで「性自認・性指向」を改めて明示しました。
我々は、国籍・人種・性別・性自認・性指向・信条・社会的身分・障がいの有無等に限らず、それぞれの価値観、経験や働き方なども含めた、広い意味での多様性を尊重し、互いに認め合い、従業員一人一人が自らのもつ能力や個性を発揮し、活躍できる職場環境づくりに取り組んでいきます。
これら「行動規範」及び「宣言」では、性自認・性指向がマジョリティーと異なることは決して「障がい」ではなく、むしろ「性別」に近づけて捉えるべき、ということをより明確に打ち出すべく、「性別」の直後に「性自認・性指向」を列挙したことも注目したい点です。
このような並べ方をしている例はまだ多くはありませんが、「
JTグループ行動規範2018」第15項は、「性別、性自認、性的指向や年齢、国籍だけではなく、経験、専門性など、異なる背景や価値観を尊重し、お互いの違いに価値を認めて、個々人が能力を発揮できる職場づくりに努めます」という定め方をしています。
両社の事例とも、これから規程の改定や新たな経営者宣言の起草をする方には、参考になると思います。
人事制度の整備で考えられること
次に、人事制度について考えていきましょう。企業内の人事制度については、それらが戸籍上の親族関係に本当に依拠しなければならないものか、また、男女を区別することに本当に合理性があるのか、など、問い直す余地が多々あります。
まず、「配偶者」に適用される福利厚生制度を、同性パートナーやその親族についても認める企業が増えています。育児・介護関連の休暇や慶弔休暇(結婚・忌引)、結婚祝い金や弔慰金の支給などがその例です。
また、転勤の際に同性パートナーの帯同を会社の費用負担で認める企業もあります。「配偶者」として扱うべき同性パートナーを確認する手段としては、同性パートナーシップ制度を導入している自治体に住んでいればその自治体の発行する証明書を受け入れることができますが、そうでない場合には、同居の事実を証明する住民票を提出してもらう、などの方法が実際に行われています。
現在の慣習は本当に必要? 設備面での配慮
制服や指定の作業服などが男女別になっている場合、自認する性別と異なる服の着用を求められることは、トランスジェンダーの従業員にとって、苦痛の素となります。
この場合、当事者の要望による性自認に沿った制服・作業服の着用を認めることで対処するだけでなく、そもそも男女で区別された制服や作業服の着用に業務上の必然性があるかを問い直すべきでしょう。工場での作業服において、性別での色分けを廃止し、女性向け・男性向けというサイズ表記を改め、身長と体重で細分化されたサイズ指定にした企業などの例があります。
トランスジェンダーの従業員については、トイレの使用や、寮・合宿研修での部屋割りなど、設備に関わる配慮も必要になります。性自認に沿ったトイレの使用や寮の選択を認めたり、合宿において個室の手配を行う、といった例のほか、既存のトイレを性別に関わらず使用できるように変更した例もあります。
【次ページ】社内でのLGBT理解を増進する取り組み例
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