• 2020/04/07 掲載

他社はどうしてる? LGBT支援の体制づくり、企業はどこから手をつけるべきか(2/2)

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社内でのLGBT理解を増進する取り組み例

 さて、人事制度を整備し、設備面での配慮もできるよう態勢を整えたとしても、LGBT当事者からの申し出がなかなか来ない、ということもあるでしょう。LGBTに対する差別感情がある職場では、整備された制度を利用することで自分がLGBTであると知られることを恐れ、利用が進まないということもあるでしょう。


 また、これまで述べたような人事制度の整備や設備面での配慮は、LGBTの従業員を優遇することでも、特権を与えることでもありません。ですが、そのことをすべての従業員に理解させないまま進めてしまうと、職場に誤った不公平感や無用なあつれきを生み出しかねません。そして、それらがさらにLGBT当事者に制度の利用をちゅうちょさせることになります。

 そこで、会社、特に人事部門やダイバーシティ推進を担当する部門が主体となって、外部団体の力を借りるなどして、理解を促進する研修やイベントを行うことが有効です。

 たとえば、LGBT当事者の講師が自らの経験を話すことで、当事者がカミングアウト前にどのように感じて生きてきて、カミングアウト後にそれがどのように変わったか、そのナマの声が研修参加者の心に突き刺さるでしょう。また、研修参加者は登壇したLGBT当事者の姿かたちを見て、LGBTは見た目では分からないこと、そして「これまでLGBT当事者に会ったことがない」という認識がいかに根拠の無い思い込みであったかということを痛感することにもなるでしょう。

 会社の人事部門などが直接、研修やイベントを企画・実施するだけでなく、LGBTのテーマに興味・関心を持つ従業員が集まってネットワークを組成し、このネットワークが一定の予算を会社から得て、主体的に啓発イベントを企画・運営する、という方法もあります。

 共通の分野に自発的に取り組みたい従業員が集まる「従業員ネットワーク」が行う啓発イベントとしては、LGBT当事者を招いたスピーカーイベントの他、映画鑑賞会、社員食堂での展示会、パンフレットやグッズの製作・配布など、さまざまなことが実際に行われています。

LGBT理解がビジネスと社会を豊かに

 指針の策定、制度の整備、研修や啓発イベントの実施を通じて、LGBT当事者の置かれた現状について社内での理解が進むと、今の社会に足りていない商品やサービスに気づき、これらを開発し社会に問う動きが生まれることが期待されます。実際に、下記のような取り組みが各社から公表されています。

・生命保険契約の死亡保険金受取人に同性パートナーを指定できるようにする
・配偶者が受けられるマイレージサービスを同性パートナーも受けられるようにする
・携帯電話サービスの家族割の対象に同性パートナーを含める
・住宅ローンにおける家族ペア返済や、収入合算における配偶者の定義に同性パートナーを含める

 また、日々の顧客対応の現場でも、顧客の中にLGBT当事者が含まれている可能性を常に意識し、LGBT当事者の人々がどのような気持ちで暮らしているかに心を寄せられる担当者は、不用意にLGBT当事者の顧客を傷つけるような言動(たとえば、男性顧客のパートナーが女性であることを前提に「今度は奥さまと」などと会話を進めてしまう、など)を避けることができるでしょう。そのことが、より幅広い顧客層から支持され、より高い業績を上げることにもつながるでしょう。

今後さらに期待される企業の発信力

 企業にとっての「ダイバーシティ&インクルージョン」は、LGBT当事者に限らず、多様な人材ひとりひとりが生き生きと自分らしく、個性や能力を発揮できる職場を実現するための基本的な考え方です。そして、企業が多様な人材を獲得し、彼らに生き生きと働き続けてもらうためには、職場を離れて彼らが普段の生活を送る社会においても、生き生きと自分らしく暮らせる場が確保されていなければなりません。

 そこで、多くの企業が自社の「ダイバーシティ&インクルージョン」施策を公表しており、これを客観的に評価する試みも行われています。LGBT分野では、昨年4年目を迎えた「PRIDE指標」が参加企業・団体を年々増やしています(2016年の第1回には82企業・団体、昨年の第4回は194企業・団体)。

 その他、国連は2017年に「LGBTIの人々に対する差別解消への取り組み-企業のためのグローバル行動基準」を策定し、これまでに世界で270を超える企業が賛同を表明、日本でも富士通、丸井グループ、野村ホールディングスが賛同しています。

 また、2018年9月には在日米国商工会議所が「日本で婚姻の平等を確立することにより人材の採用・維持の支援を」と題する意見書を公表し、これまでにソフトバンク、パナソニック、LIXILなど84の企業・団体から賛同の声が上がっています。

 いまや企業は、自社におけるダイバーシティ施策を充実させるだけでなく、積極的に対外発信を行うことで、社会の変革に向けた力となることが期待される時代になっているのです。

〔参考文献〕
法律家が教えるLGBTフレンドリーな職場づくりガイド』(藤田 直介・東 由紀・LGBTとアライのための法律家ネットワーク(LLAN)著、法研)
ケーススタディ 職場のLGBT』(弁護士法人東京表参道法律事務所 著、寺原 真希子 編、ぎょうせい)
トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』(東 優子・虹色ダイバーシティ・ReBit 著、日本能率協会マネジメントセンター)


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