- 2019/11/01 掲載
「合理的配慮」とは何か?トランスジェンダー社員の裁判例で対応方法を解説
【サンプル事例】もしこんなことが起こったら?
舞台は中堅上場企業のC社。主たる登場人物は、人事部長Jさん、営業部長Bさん、製造部デザイン課ベテラン係長Tさん。Tさんは自分の性別に違和感をもつMtF(Male to Female:生まれつきの身体は男性のものだが、心は女性という人)のトランスジェンダー(生まれつきの身体と、自認する心の性が一致しない人)で、就学前からの違和感を抑制したまま、C社に男性として入社。入社後まもなく性同一性障害の診断を受け、ホルモン治療を行うようになり、家庭裁判所の許可を得て女性名に改名するなどプライベートでは女性として生活してきました。
入社から15年後、C社は製造部門を売却することとし、Tさんに営業部への配転を内示、Tさんは社内において男性として勤務を継続することに長年耐えがたい精神的苦痛を感じていたため、配転を契機に、女性服での勤務及び女性トイレ・更衣室の利用を、営業部長Bさんに申し出ました。
驚いたB部長は直ちに人事部Jさんに相談、Jさんが顧問弁護士に相談したところ、「部門の売却に伴うもので配転の必要性・合理性もある。性自認といったプライベートな事情について配慮する必要はないし、会社として女性社員や取引先が感じる違和感など職場秩序・業務への支障をも考慮する必要がある」とのアドバイスを受け、Tさんと一切話し合いに応じることなく、配転を命じました。
Tさんは会社の対応に反発、出勤を拒否するとともに、会社の不当性を訴えました。その後会社と話し合いが行われ、無断欠勤日数について有給休暇として消化することを会社が認め、Tさんは職場復帰することに同意しました。【C社対応(1)】
ところが復帰第一日、Tさんは女性の服装・化粧で出勤、Bさんは、Jさんと相談の上、直ちに男性の服装で勤務することを命じ、以後1週間にわたり命令・拒否が繰り返され、事態は悪化、顧問弁護士と相談の上、会社はTさんに自宅待機を命じ、弁明の機会を与えたうえで、懲戒解雇に踏み切りました。【C社対応(2)】
Tさんは弁護士に依頼しC社を相手方として地位保全等の仮処分を裁判所に申し立てました。
裁判所はC社による懲戒解雇を無効と判断しました。裁判所は、まず、Tさんが性同一性障害の治療を受け、職場以外では女性として実際に生活していて女性としての性自認が確立しており、男性として就労すること(女性としての就労を禁止されること)に多大の精神的苦痛が伴うことを認定しました。
対応のどこに問題があったのか?
この事案は実際に起きた事件(東京地裁平成14.6.20決定)を参考にして作成したフィクションの事例です(なので実際の事件における事実関係を踏まえたものではありません)。裁判所の判断は、認識・認定を重要な前提として、【C社対応(1)】については、配転の必要性・合理性を認めつつ、会社が本人からの申出に何ら対応していないことや、Tさんの申し出を拒否する具体的な理由を説明していないことを問題視。
また、【C社対応(2)】については、Tさんが女性の容姿をして就労することが企業秩序・業務遂行に著しい支障を及ぼす理由(女性社員や取引先の嫌悪感)の説明が不十分であると判断しました。
【次ページ】実務担当者が押さえておくべき性的指向・性自認に関する4つの重要な前提
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