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丸井グループが好調だ。2019年3月期における営業利益は412億円。前年比13%増であり、10期連続の増益をたたき出している。丸井グループが躍進を続ける背景には、思い切った事業構造の革新がある。従来の店舗は、オムニチャネルを前提した「売らない店」を目指し、そしてECを実売のベースに創り上げようとしている。丸井グループのECを支えるのが、グループの物流を担う子会社「ムービング」の運営する三郷Web通販総合物流センター(埼玉県三郷市)である。同物流センター内にある自動倉庫システム「AutoStore(オートストア)」を紹介しつつ、自動倉庫が倉庫ビジネスに与えるインパクトを考えよう。
自動倉庫システム「AutoStore(オートストア)」とは
オートストアは、Jakob Hatteland Computer社(ノルウェー)が開発した自動倉庫システムである。その特徴は、縦横に積み上げられた専用コンテナ(「ビン」と呼ばれる)を垂直方向から取り出し、ピッキングする構造にある。
筆者は、ムービング社の三郷物流センターにおいて、実際にオートストアが可動する様子を見学したが、その様子はまるで“レゴ”のようなブロックおもちゃを、ロボットが掘り出しているように見えた。
自動倉庫システムには、いくつかの形式がある。たとえば、原材料系、化成品、農産物などを保管する自動倉庫システムでは、タワーパーキングのような構造をしているものがある。保管された貨物は倉庫内を横方向に移動し、昇降機で収納、もしくは取り出される。豊洲市場の青果棟では、このタイプの自動倉庫システムを見学することができる。豊洲市場を訪れた際には、ぜひご覧になってほしい。
アマゾンなどで利用されている自動倉庫システムは、自走式のロボット車両が、棚そのものを作業者の前まで運んでくるタイプだ。ロボット型掃除機のようでもあり、亀のようでもある自走式ロボット車両が棚を運んでくるさまは見ていて少しほほ笑ましくもある。
だが、このタイプは、構造上、極端な重量物を取り扱うことはできない。また、最終的には人の手で棚から商品を取り出すため、自(おの)ずと棚の高さは制限される。つまり、天井高のある一般的な倉庫では、その空間を有効活用しにくいというデメリットがある。
一方のオートストアの特徴の1つとして、高い「収納効率性」がある。倉庫内で使われる一般的な平置き棚に比べて3倍、従来型自動倉庫と比べても
2倍の収納効率があるという。人が作業をする、もしくは移動するスペースを省き、専用コンテナを隙間なく積み上げられるオートストアだから、高い収納性を実現しているのだ。
ちなみに、専用コンテナには、容量48リットル/75リットルの2タイプが存在する。ムービング社では48リットルのタイプを利用している。最大積載重量は、どちらも30kgであり、重量物や寸法の大きい商品(専用コンテナに入らないサイズのもの)にはオートストアは向かない。
オートストアが倉庫業務を劇的に効率化する
丸井グループのネット通販では、約120万アイテムを取り扱っている。オートストアが収納しているのは、その内、約40万アイテムだ。
ムービング社では、2機のオートストアを設置している。専用コンテナの段数は12段、計50台のピッキング・ロボットが稼動し、収納コンテナ数が約5万3000個という同社のオートストアは日本国内最大級の規模だ。
オートストアの周囲には、計12カ所のポートが設置されている。ポートに運ばれた専用コンテナから取り出すべき商品は、ポート正面にあるディスプレー上に指示される。係員が商品をピッキングすると、隣にあるプリンターから伝票が出力される。ポートに立つ従業員は、ピッキングから梱包(こんぽう)、伝票の貼り付けを行い、隣にあるカゴ台車にすばやく商品を積み上げていく。
ムービング社によれば、30秒/1セットのスピードで作業ができるようになったと言うが、筆者の目にはその半分ほどのスピードで作業が行われているように見えた。すさまじいスピードであり、その業務効率化は計り知れないものがあると感じた。同センターでは、1日約2万個の梱包が行われるという。
ムービング社では、オートストアによって収納効率は約2.7倍、業務効率は約3倍に向上したそうだ。計算上、オートストアによる業務効率化によって、30~40名の倉庫作業員削減効果があったはずというが、同社では人員削減を行っていない。
丸井グループのEC売上は、2016年3月期:204億円から、2019年3月期には242億円をたたき出した。本来であればむしろ増員対応すべきところを、オートストアが増加した作業をフォローしているのである。
【次ページ】丸井の「売らない店」を物流倉庫が支えるワケ
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