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世界最大の次世代5G通信機器メーカーである中国の華為技術(ファーウェイ)を安全保障上のリスクとみなし、同社と米企業や海外企業が取引できないようにする禁輸措置やさらなる脅しを次々と繰り出す米トランプ政権。米国製の技術や部品を禁輸にすることで、中国企業やその取引先を瞬殺できる「経済的な武器」の威力が世界に示された。ますます米中貿易戦争が激化する中、米国の次のターゲットになるのは、急速に世界市場に進出を始めた中国車ではないか――。その理由を以下に示す。
ここまで進んだ中国車のコネクティビティ
モビリティー時代を迎えた中国では、急速にクルマのソフトウエア化、人工知能(AI)化、電気自動車(EV)化、自動運転化やサービス化など、「ガソリンではなくデータで走る」コネクテッドカーの開発が急ピッチで進行中だ。
興味深いことに、トランプ政権にブラックリスト指定されたファーウェイは激しく吹き荒れる逆風にもかかわらず、6月にスマートカー事業部を設立した。2025年には全世界で
2252億ドル(24兆4171億円)規模に成長すると予想されるコネクテッドカー市場において主導的立場を確保するためだ。
ファーウェイは自動車設計・製造に参入するのではなく、“黒子”として、大手自動車メーカーのコネクテッドカー開発を後方で支える構図だ。
ファーウェイの技術を搭載した最初のコネクテッドカーは、中国市場と欧州市場において2021年にデビューが予定されている。
手始めにファーウェイは、新型SUVのGS5で欧州市場に参入を予定する中国自動車大手の広州汽車集団(GAC)、独フォルクスワーゲンのアウディや日本のトヨタ自動車との合弁に供給する情報通信技術や通信部品の開発に専念する。
加えて、新エネルギー車向けパワーモジュールの開発や販売を手掛ける北京新能源汽車、中国自動車大手「ビッグ5」の一角を占める重慶長安汽車との連携も強化する。
またファーウェイは、ビッグ5の中でもさらに「トップ3」に分類される中国第一汽車集団(FAW)と上海汽車集団(SAIC)、さらに有力メーカー吉利汽車(ジーリー、Geely)の親会社である浙江吉利控股集団の傘下にあるスウェーデンのボルボとも提携して、自動車デジタルコックピット開発を加速させている。
特に重要なのは、ファーウェイが世界最先端の自社開発5G技術を駆使して、コネクテッドカー向けコンピューティングのプラットフォームとクラウドサービス分野における主要サプライヤーになる野望を隠していないことだ。
ファーウェイ以外にも、中国IT大手の百度(Baidu)の自動運転プラットフォーム「アポロ計画」が、特定の場所でシステムすべてを操作できるレベル4をほぼ実現し、そのオープンソース技術を搭載した「アポロ・ライト」の実用化宣言を6月19日に行ったほか、同技術で走るバスの「アポロン」の日本での実証実験にも期待が寄せられている。
また、中国テック大手のアリババもSAICと組み、人気コネクテッドカー「栄威RX5」を発表、南米市場向け
輸出モデルも試作されている。
一方、中国IT大手のテンセントは車内音声コマンド分野においてFAW、独BMW、長安汽車、GACなどと提携し、「車のインターネット」分野で世界的プレーヤーになることを目指している。
中国の国策としてのコネクテッドカー
このような中国企業による大規模で統一的なコネクテッドカー開発は、5G開発と同様に、トップダウンの政策として実行されている。事実、電気自動車(EV)やコネクテッドカーは中国が1000億ドル(約10兆9000億円)の補助金を投じる
国策であり、「中国製造2025」の重点分野だ。
中国国務院は2017年7月に、「次世代AI発展計画」を発表し、2030年までにAI技術を世界最先端の水準に引き上げるとともに、関連産業を含め10兆元(約157兆円)を超える市場規模に発展させる目標を掲げており、その中で自動運転車が「戦略的なフロンティア」として規定されている。
この方針を具現化するため、同年12月に中国工業情報化部が公表した「AI産業の発展促進に関する3年行動計画(現在実行中)」では、車載スマートチップ、先進型ドライバー支援システム、車両制御アルゴリズムなどに重点が置かれており、中国政府の優先順位が高いことがわかる。
特筆すべきは、2018年12月に打ち出された知能自動車(インテリジェント・コネクテッド・ビークル、ICV)産業発展計画の中心のひとつに「5G V2X」が据えられていることだ。「5G V2X」はファーウェイの得意分野である5G技術を活用し、ほかの車両や道路などインフラと交通情報などを共有・交換する通信技術である。
このほか、センサー、ソフトウエア、アルゴリズム、インフラ通信システム、車載チップ、コネクティビティ技術、モビリティサービス、デジタルID管理など、セキュリティに直結する要素に資源が集中投入されている。
これら複雑に絡み合ったコネクテッドカー技術開発は、体系的に計画されて資源が効率的に配分され、戦略的に国有企業や民間企業によって実行されている。結果として、政府から潤沢な補助金と技術重点指定を受けた中国製のコネクテッドカーは安価かつ高性能で、欧米日の自動車メーカーには強敵となる。
“未来のクルマ”はリスクの塊
未来のクルマは常にクラウドと接続され、位置情報、周囲の道路状況、車内で鑑賞中の音楽や動画、Web閲覧履歴、スマートスピーカーを通して収集される会話データ、各パーツの駆動・パフォーマンス状況、周辺のクルマや交通制御システムとの交信など、セキュリティやプライバシーに直結したあらゆるセンシティブなデータを生み出す。
現行のコネクテッドカーは、1時間当たり約25GBのデータを生成するとされるが、2020年には50GBに倍増するという。これが完全自動運転となれば、1年間に17600分(約300時間)の乗車で、300TBという莫大なデータが1台のクルマにより「生産」される。まさに走るデータ工場だ。
もしハッカーたちがコネクテッドカーのシステムへの侵入に成功すれば、遅延がない遠隔操作で位置情報や個人情報を含むデータにアクセスし、それらを改ざんや窃取するだけでなく、車両のセキュリティシステムを無力化して解錠や運転のフルコントロールを奪うことさえ可能だ。
こうした意味で、コネクテッドカーはセキュリティやプライバシーの塊であると言えよう。また、乗車する者の命を乗せて走行し、歩行者や別のクルマの運転者・乗客の命に危害を加え得るため、5G機器が乗っ取られてサイバー攻撃に悪用されることと同等の安全保障上のリスクを内包している。
中国政府がコネクテッドカーのデータやシステムにアクセス・操作することに対する懸念が高まる中、中国国有自動車大手のFAWと5Gコネクテッドカーの共同研究を行うと発表していたフィンランドのノキアが6月10日、「センシティブな事業」を中国の外に移すと
明らかにした。これに5Gコネクテッドカーの共同研究が含まれるかは不明だが、中国政府系のコネクテッドカー研究や開発の安保上の心配は、今後の業界の関心事になってゆくだろう。
同じく交通系分野においては、世界最大の鉄道車両メーカーである中国中車(CRRC)が首都ワシントンのメトロ地下鉄に5億ドルという、他国の競合と比較して極めて安価かつ魅力的なコストを提示して、新型車両の納入契約を締結することを目指している。しかし、同社が国有企業であり、車両内の乗客に対するデータ窃取や運行システムのハッキングが可能になるとのセキュリティ懸念から、米議会に阻止の動きがある。
今、データ通信の基幹である5Gや重要インフラの交通機関において、中国製品を排除する統一的かつ組織的な流れが、超党派の動きとして米国で起こっている。この大きな“排華”のうねりが、巨大な米国市場制覇を狙う中国車に向くのは時間の問題だ。
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