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- 2019/04/08 掲載
【半導体市場レポート】米中対立の影響が「今後もずっと続く」ワケ
連載:テクノロジーEye
IHSマークイット TMT リサーチディレクター 南川 明
1982年3月武蔵工業大学電気工学科を卒業してモトローラに入社、その後ガートナージャパン、IDC Japan、West LB証券、クレディーリヨネ証券を経て04年データガレージ社を設立。同社は06年に米アイサプライ社と合併、10 年に米アイサプライ社は IHS Inc.に買収され現在に至る。長年にわたり、半導体産業や電子産業の分析に従事する。
中国と米国、何が起きているのか?
なぜ中国が強引とも言えるやり方でハイテクの育成を進めるのか。まずは、そこからひも解いていきましょう。
中国にとって、これまでエレクトロニクス産業は外貨獲得の一番の原動力となってきました。約10年をかけて世界の工場として大きな存在感を示してきた中国ですが、競争力が低下し、外貨を稼ぐ力が徐々に弱くなってきています。
実際、以下の図で示すように、ここ3年で外貨準備高は4兆ドルをピークに3兆ドルにまで下がっています。
中国の労働者の賃金がこの10年の間に4倍になりましたが、これは東南アジア諸国、メキシコや東欧に比べても一番高く、すでに脱中国という動きが徐々に始まっていたわけです。
稼げなくなってきている一方で、過去10年間経済を支えるために海外から大きな借金をして国内インフラ投資に振り向けてきました。国内インフラ投資の借金を返すためには当然外貨が要りますから、外貨が大きく減ったわけです。
そのため、中国としては外貨を稼ぐ手法を新しく確立する必要がありました。それがいわゆる「中国製造2025」「科学技術・イノベーション2030」や「一帯一路」です。
これらの政策は簡単に言うと、5Gのインフラを中国でいち早く整備して、その5Gを使って自動運転を実装するスマートシティを実現しようというもの。それが実現すれば、一帯一路の国々に移植でき、外貨獲得であったり、経済圏を広げていくということにつながります。中国が狙っているのはそこなのです。
ただ、そのテクノロジー分野の育成の仕方に少々ルール違反なところが散見され、それに対して特に米国が反発しているというのが、今起きている米中貿易摩擦の根本のところです。
もう少し具体的に申し上げると、正当ではない方法で行われる技術のコピーです。たとえば、外資系合弁会社に技術の移転を強要する、ネットワークシステムにバックドアを設けて情報流出の仕掛けをするといった事例を、USTR(アメリカ合衆国通商代表部)は3年かけて調べ上げています。
USTRとしてはある程度証拠をつかんでいて、ファーウェイ(華為)、ZTE(中興通訊)、JHICCなどの個別企業を非難しはじめているのです。
そもそも貿易摩擦というと関税の掛け合いというイメージが強いですが、我々は関税の掛け合いはいずれ収束していくとみています。
そこで戦っていても、両者にとってあまりメリットもなく、世界の経済に与える影響が大きい。したがって、ここは鎮静化させていくだろうと考えています。
米国が中国を中長期的にけん制しつづける本当の理由
ですが、米国は個別のハイテク企業叩きを止めないでしょう。前述したように、これは3年かけて調査し、計画をしてきていることなのです。たとえば、ファーウェイ、ZTE、ハイクビジョン、ダーファ(大華)、ハイテラ(海能達通信)などは通信と監視カメラで世界1、2位の企業です。別の言い方をすると、サイバーセキュリティや軍事に直結するような技術を持っています。
米国政府はここに対して取引の禁止を実行していますし、対外的にも取引をやめるように表明しています。そして、かなりの先進国はこの中国のハイテク産業を抑制する動きに同調しているようです。
中国の強引なやり方に対する制裁という意味合いが強いのはもとより、軍事技術に直結するエレクトロニクス産業に国を挙げて投資している中国を米国が非常に警戒しているのです。そして、これは1970年代~80年代に起きた日米経済摩擦とはまったく異なる理由なのです。
一方で、だからといって中国側もハイテク育成を諦めることはないでしょう。とはいえ、計画では2025年までに、たとえば半導体の自給率を70%まで持っていくという目標を掲げていましたが、これは到底、無理でしょう。
つまり、これから米国と中国を中心に、長いハイテク戦争が始まったととらえるべきなのです。
無視できない中国市場、現在の国籍別半導体売上シェアと見通し
日本に与えるインパクトについてはマイナスとプラス双方があると思います。日本から中国に対して半導体の製造装置や先端の材料といったものの輸出はかなり制限されるのではないかと見ています。
もちろん、日本政府も米国の言うことをすべて聞くわけではないと思いますが、日本の企業としてもやはり先端の技術は出してはいけないというムードになってきているわけです。ビジネスという面でのマイナスインパクトは当然あるでしょう。
ただ、こうした事情があったおかげでNANDフラッシュメモリの需給バランスがよくなった(=オーバーサプライが回避された)と私はとらえています。
もし、1年ほど前の中国の計画どおりNANDフラッシュメモリの工場へ投資をしていたら、2020年には相当なオーバーサプライが起きたでしょう。オーバーサプライになってもう誰も儲からないとなってしまった液晶のように、NANDでも同じことが起こり得る状態でした。それが回避されたのは、実はメモリメーカー、半導体、企業にとっては良いことだと考えています。
また、日本にとってのチャンスと言えるところもあります。次の図は中国市場における国籍別半導体シェアです。
【次ページ】中国市場における国籍別半導体売上シェア
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