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2019年5月20日、米グーグルがファーウェイへの一部ビジネスを停止したことが報じられた。トランプ政権は米国内の次世代通信規格5Gネットワーク建設で、中国の華為技術(ファーウェイ)の通信機器の採用を安保上の理由から認めず、欧州や日本などにも同社排除の圧力をかけている。「米中貿易戦争の一環」「中国の世界テクノロジー制覇の野望である中国製造2025をつぶすため」などの解説がなされているが、中国との5G競争において米国が同分野で何をしたいのか、何になりたいのかという「鮮明なビジョン」が一向に見えてこない。米中5G戦争の本質は、実は戦略の欠如による米国の迷走にあるのではないか――。
中国の5G戦略は明瞭、国家目標と完全合致している
米国のテクノロジーにおける優位を覆し、将来的に世界的な技術のリーダー、さらには政治の指導的地位に上り詰める目標と道筋を掲げる中国の思考は、極めて明確、戦略的、かつ現実的だ。
まず、国家の進むべき方向性という「戦略」がはっきりと定められ、その目的を実現するための「戦術」として、強大な指導力を持つ中国共産党の力で5Gや人工知能(AI)などの最先端技術分野の開発や商業化が、迅速かつ効率的に実行されているのだ。
習近平国家主席が2017年10月に中国共産党大会で再確認した「政治・経済・社会のすべてを党の統制下に置く」という従来からの大方針に基づき、国有企業・非国有企業を問わず、最先端テクノロジーが共産党独裁と「中華民族の偉大なる復興」の礎であると位置づけられている。
この大方針の下で、明確な国家目標(戦略)と現実的かつシナジー効果の高い産業支援策(戦術)が打ち出され、独裁ならではの迅速で総合的な意思決定により、驚異的な発展を遂げている。
事実、中国政府は2017年11月に、自動運転、スマートシティ、医療映像、音声認識の4部門からなる人工知能(AI)国家プロジェクトを認定し、着実な成果を挙げている。また、2025年までに国内の
全世帯の80%に、ワイヤレスの5G機器やサービスの利用に不可欠な光ケーブル通信を普及させる計画を実行し、広大な国土の高速データ化を急ピッチで進めている。
これは、3Gや4Gの開発や展開で米国に後れを取った反省に基づき、数年来の長期的な計画で行われている。米コンサルティング大手
デロイトが2018年8月に実施した調査によると、2015年以来の中国の5Gインフラ投資は、米国の投資額を240億ドル(約2兆6690億円)も上回っており、米国の3万基に対して35万基の基地局を建設、建設済総数は米国の20万基に対し、中国が190万基に及ぶ。この先、中国はさらに4000億ドル(約44兆4838億円)相当の5Gインフラ投資を行うとされる。
技術開発面でも、中国のリードは開く一方だ。独調査企業IPlyticsが1月に発表した5G分野の代替の効かない技術特許出願数の
統計によれば、
中国が34%と14%の米国を引き離し、現行の4Gの1.5倍以上のシェアを握る。
世界を侵略しつつあったファーウェイに排除の手
こうした中、ファーウェイや中興通訊(ZTE)に代表される中国のテクノロジー企業は5Gに関して、あらゆるニーズに応えられるラインアップを自国で製造して自国内で普及させており、さらに高品質・安価を武器に世界中でシェアを拡大中だ。
たとえば、商業用の光ケーブルなどの通信基盤、ルーターなどの通信機器、アンテナや制御装置など基地局機器、データのストレージシステム、5G携帯端末向けのモデムチップ、コネクテッドカー向け5G通信モジュール、そしてこれらすべての連携に関わるソフトウェアなど、総合力で他国の競合を圧倒している。
特筆されるのは、これらの5G機器は戦略的に他社製品との互換性を欠くものが多いことだ。現行の4G世代の通信機器や基地局にファーウェイ製品を採用すれば、将来的には5G機器も自動的にファーウェイ製品を使うことになる。
さらに消費者向け商品においても、中国企業は5G携帯端末、5Gテレビなど周辺機器で世界に先駆けて、次々とイノベーティブな新製品を発表している。中国製品はシェアの面でも伸びており、米調査会社IDCによると、1~3月期の世界スマホ出荷台数で、首位の韓国サムスン電子や米アップルが落ち込む中、ファーウェイがメーカー別のシェアで
2位になった。
こうした中、5月20日にはトランプ政権によるファーウェイ排除の意を受けた米グーグルがファーウェイの新規発売アンドロイド端末向けのライセンス契約を変更し、PlayストアのアプリやGmailアプリの利用ができなくなるようにすると報じられた。追い討ちをかけるように、ファーウェイにスマホ用の半導体など核心的な部品を供給する米クアルコム、米インテル、米ザイリコム、米ブロードコムがハードやソフトの供給を停止したと伝えられた。
加えて5月22日には、ソフトバンクグループの英半導体設計会社アームが米国の規制に従い、ファーウェイに対して米国を原産地とする技術が含まれる契約停止をしたと報じられた。
日本を含む海外で人気機種になりつつあったファーウェイのスマホは基幹部品の供給を絶たれ、さらにアンドロイド端末の最大の魅力であるPlayストアのアプリが使えないことで、消費者にとっての魅力も失い売上が落ち込むことが予想される。ファーウェイのスマホ部門の最大の危機である。
これに加えて、ファーウェイ製の5G基地局や通信機器に対する米テック企業の部品やソフトの供給も遮断され、日欧メーカーも追随を余儀なくされれば、ファーウェイの経営そのものが揺らぐ。
だがここで、アンドロイド後継としてグーグルが開発中のFuchsia(フューシア)OSをしのぐスマホOSをファーウェイが開発して世界に広め、Playストアのアプリ以上に魅力的な海外向けの中国製アプリを提供し、臥薪嘗胆と自力更生で5G基地局や通信機器の部品も自給自足できるようになれば、ファーウェイはピンチをチャンスに変えることができるかもしれない。
そうした「大逆転」が必ずしも夢物語として否定できないのは、中国が推進する「社会主義市場経済」の効率性と米国が信奉する「自由主義経済」の非効率性が、米中テック戦争の本質であり、米国がその非効率性と非合理性を対中禁輸や構造改革強制などの禁じ手でしか補えないという現実が存在するからだ。
社会主義市場経済こそが5G進展の原動力か
このような中国の5Gにおける決定的なリードは、1930年代から1950年代にかけて、5カ年計画に代表される計画経済(統制経済)に基づき、総合的に定められた産業目標を次々と実現させて世界を驚嘆させた社会主義国家のソビエト連邦の成功をほうふつとさせるものがある。
だがソ連はその後、大成功をもたらした計画経済そのものが硬直化して経済が非効率化し、行き詰まって米国に屈した。1991年のソ連の崩壊で、「歴史の終わり」が意識され、米国式の規制撤廃と民間主導の自由主義経済こそが最も効率や生産性が高いと信じられるようになる。
そうした中で中国はソ連の失敗に学び、1990年代から自由主義経済を取り入れた「社会主義市場経済」を推進し、計画経済の長所と自由主義経済の長所のいいとこ取りを成功させた。それが5G分野における価格競争力や自力開発の高効率性や高生産性を生み、市場における勝利につながっているように見える。
【次ページ】一方、米国の5G計画は?その問題点を列挙する
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