- 2017/09/06 掲載
5G(第5世代通信)を基礎から解説、通信の速度や用途は今後どう変わるのか
モバイル通信サービスの変遷
第5世代移動通信システム(5G)は、今、規格の標準化が進められている次世代の通信技術だ。まず、過去の変遷を振り返っておくと、日本でアナログ方式の携帯電話が始まったのは1979年のこと。このアナログ方式を1G(第1世代)とし、1993年のデジタル方式を採る2G(第2世代)のモバイル通信サービスの登場で、携帯電話はサービスとしてスタートする。音声だけでなく、メールやネットも携帯電話から利用できるようになった。
ただ、音声通話の音質は悪く、スピードも9.6kbpsと、データ量の多い情報を扱うには限界があった。携帯電話が情報通信サービスとして本格化するには、3Gの登場まで待たねばならなかった。3Gでモバイルブロードバンド時代がやってきて、高速・大容量のデータ通信が可能となったのだ。コンテンツが一気にリッチ化し、ユーザーも広がった。スマートフォンやタブレットなど、新たなデバイスも現れた。
その後、高速・大容量化を求める流れは加速。4Gが登場して、現在はストレスなく動画コンテンツやゲームを楽しめるようになっている。こうした流れは、スマートフォンの普及に大きく影響したといえる。
いまでは4Gの人口カバー率は99%を超え、4Gのモバイル通信サービスに当初あった「つながりにくさ」もかなり解消されている。携帯電話やスマートフォンなどの情報通信機器の普及も全体的に飽和状況にあるとされている今、なぜ5Gなのだろうか。
「5G」とはいったい何か?なぜ必要とされているのか
5Gの登場を携帯電話サービスの進化の流れの中でとらえてしまうと、その真の価値を見誤ることになる。3G、4Gと来て5Gなので、その延長で、より高速化・大容量化を加速するものと考えてしまうが、実はそれだけではない。結論からいうと、5Gは「IoTの普及に必須となるインフラ技術」である。すでに世界的にIoTの普及に向け動き出している。
そもそもIoTがなぜ必要なのか。色々な理由はあるが、いま世界中で起きている「人口増加」「高齢化」「都市への人口集中」といった現象は、エネルギー不足であったり、水・食料の不足、医療格差、交通渋滞、環境破壊・変化などの問題を引き起こしている。こうしたメガトレンドへの対応のために、各国が今、IoTを使ってスマートな社会を実現しようとしているのだ。
PCや携帯電話、スマートフォンなどモバイル端末までで閉じていた情報通信のネットワークを、家庭内の家電やスマートメーター、自動車にまで広げ、さまざまな情報を統合し、あるいは人工知能などを用いることで、交通管理や医療の格差解消、効率のよいエネルギー管理を行う。そうしたシステムを実現するための法整備を行ったり、新たな政策を打ち出したり、テクノロジー活用を模索する動きが始まっているのである。
IoTが普及し、情報端末だけではなく、あらゆるものがネットワークにつながるようになると何が起こるか。図に示すのは、2020年に向けてのデータ量を予測したものだ。
2015年に通信されたデータ量はおよそ6ZB(zettabyte;1ゼタバイト=2の70乗バイト)。それが、2020年には7倍の44ZBになると言われている(米EMC、IDC共同調査による「The Digital Universe of Opportunities: Rich Data and the IncreasingValue of the Internet of Things」から)。
7倍もの量のデータが通信されるわけで、当然それだけ高速なデータ通信、インフラが必要になる。さらに、IoTでいろいろなものがつながってくる。米シスコが出している予測では、全世界のモバイル端末の数は2014年に73億、2015年には79億にまで達し、2020年までに116億までに増加するという。
さらに、車載GPSシステムや医療システムにつながるM2Mデバイスの数は2015年から2020年にかけて6億から32億とへ大きく増加すると予想されている(「Cisco Visual Networking Index,2016」から)。
現状、3G/4Gで接続できる台数はおよそ150億台と試算されている。しかし、もうすでに携帯電話は世界で約90億台。それ以上、IoTで接続したい機器が増えていくと、あっという間に今のインフラではつなぎきれないところまでいってしまう。そこで必要になるのが「5G」ということになる。
5Gは「高速・大容量化」「端末接続数」「低遅延・超高信頼性」
5Gの方式はまだ正式には固まっていないが、世界の共通認識となっている5Gのユースケースを考慮すると、求められる要件としては以下のようなものが考えられている。- 高速・大容量化:1000倍のトラフィック量への対応、10Gbps以上の速度の達成
- 接続可能端末数:現状の100倍以上の端末接続のサポート
- 超低遅延、超高信頼性:1MS(ミリ秒)以下の伝送遅延、99.999パーセントの信頼性
- 省電力、低コスト
では、どのようにしてこれらを実現するのだろうか? まだ、策定中の規格であるため、技術仕様がはっきりと定まったわけではないが、5Gを実現する要素技術として注目されているのは、「高周波数帯の活用」と「超多素子アンテナ技術」だ。
通信の高速化にまず1つ、高周波数帯の活用がある。従来、移動通信に用いられなかった高周波数帯を利用すること。周波数が高くなればなるほど、スピードは速くなる。通信できるデータの量も増え、帯域が広がるということ。
しかし、周波数を上げていくと、今度は直進性が問題になってくる。3G/4Gで用いる周波数帯では、電波の伝わり方、その特性が広く扇形状に伝わる。
一方、周波数を上げるに従って、電波が直進性を持つようになり、まっすぐにしか進まなくなる。3G/4Gでは障害物があっても、障害物に反射して到達することができるのだが、直進性が非常に強くなると、障害物があると、そこで電波が途切れてしまう。それを回避し、通信ネットワークとして実用化する技術の開発が進められており、実現されてきている。これは、すでに実証実験の段階だ。
もう1つがアンテナ技術、「超多素子アンテナ技術」だ。MIMO(multiple-input and multiple-output、マイモ)と呼ばれる方式で、送信機側と受信機側の双方で複数のアンテナ素子を使う。複数のアンテナ素子から同じ周波数を用い、同時に信号を送信することで、使用する周波数帯域は増やさずに通信を高速化する、通信品質を向上させるという技術だ。MIMOはすでにLTE/LTE-Advancedに使われている方式だが、5Gに向けさらに多重性を向上し、高速化・大容量化の技術の開発が進められている。
MIMOは、多数のアンテナ素子を用いることで電波の送信を鋭いビーム状にして送信するというビームフォーミング技術で実現されているが、現状、このビームの形状は水平方向のみ。これを垂直方向にも拡張し、広角なビームフォーミングを実現しようというのだ。
これを実現する技術の1つが「Massive-MIMO」と呼ばれ、ソフトバンクなど、一部の4Gサービスで実運用が始まっている。
5Gの要素技術としては、そのほか無線フレーム構成やネットワーク構成など、既存の(あるいは標準化中の)技術からの拡張などが提案されている。
5Gのロードマップ
現在、ITUで5Gの技術性能要件や評価基準が取りまとめられており、2019年にかけて5G無線インタフェースの提案を受け付け、2019年終わりから2020年にかけて5Gの国際標準仕様を勧告するというのが5Gのロードマップだ。冒頭に述べたとおり、5Gはモバイルブロードバンドだけの規格ではない。社会のスマート化のベースになるインフラ技術で、さまざまなデバイスがつながり、多様な使用シーンが含まれてくる。では、5Gに要求される要件をすべて持ち合わせた規格がそれぞれの用途においてすべてに最適といえるのかという疑問が生じる。
たとえば、すでに実用化され始めているLPWA(Low Power Wide Area)はIoT向けのインフラと目され、データ量の少ない、けれども頻繁な通信に特化し、低消費電力、低コストな通信ネットワークを可能とするものだ。
5Gでは通信の特性を3つのコンセプトに分ける
5Gでは通信の特性を次のコンセプトに分け、それぞれに適した通信品質を提供する。- モバイルブロードバンド(eMBB: enhanced Mobile Broadband)
- 大量のマシーン、データ量の小さな通信を対象にした通信(mMTC: massive Machine Type Communications)
- 超高信頼・低遅延通信(URLLC: Ultra-Reliable and Low Latency Communications)
eMBBは、いわゆる4Gの発展系であるモバイルブロードバンド、これを大容量でハイパワー、高速通信させるというもの。mMTCはIoT、M2Mの分野のベースインフラだ。そして、URLLCは自動運転や遠隔医療や金融サービスの電子化など、超低遅延、超高信頼性が必要な通信を前提としたもの。
そうなると、気になるのはmMTCとLPWAとの住み分けだが、キャパ的につながる機器の台数はもう決まっており、(4Gのインフラはもう投資が終わっているので)それ以上の機器がつながっていくには両者はしばらく共存し、将来、いずれは5Gに移行していくことになるだろう。
5Gに向けた各国の動き
こうした5Gを実現するネットワーク技術の検討は各国、さまざまな団体が開発、試験を進めている。たとえば中国は、中国主導の通信方式の実現に向け実証試験を行い、2020年までに商用化するとしている。もともと中国では有線通信網の整備が遅れていたこともあり、いきなり無線通信の基地局を広げてきた。すでに、3G/4Gがつながっているが、いまIoT大国への発展に向け、動きを加速している。2020年までに5Gのインフラを整備し、2025年には自動運転、2030年にはスマートシティを実現させるという、大きな目標を掲げている。
いわゆる中国版のインダストリー4.0といわれる「中国製造2025」もスタートしているが、5GからIoT大国を目指す背景として、中国には世界の電子機器工場としての伸び悩みがある。
中国では経済成長で人的コストが上がり、10年間で約4倍になった。メキシコ、東南アジアと比べて競争力が下がったことにより、IoTを使ったスマートファクトリを実現するべく、国をあげた国家プロジェクトに取り組んでいる。中国はハードだけでなく、サービスの面でもシェアリングが進んでいたり、ファーウェイがスマートシティを始めたり、国も企業も急速に社会のスマート化を進めている。
一方、ヨーロッパやアメリカはどうかというと、2020年くらいまでにはという話はあるが、まだ国をあげた動きではない。とはいえ、農業や工場でのM2Mは別として、ヨーロッパの国々では流通やゴミ収集サービスなどのスマート化のユースケース(多くはLPWAなどをベースにしている)が登場しており、社会のニーズとしてとらえる措置はできているといえる。これは普及の大きな後押しとなるだろう。
NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクらによる取り組み事例
もちろん、日本も2020年のオリンピックに向けて、5Gサービスの展開を進めている。NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクと、実証実験はもう始まっており、2018年には5兆円規模のコストをかけて、基地局やインフラ整備が始まると言われている。通信事業者名 | 実証実験のパートナー企業例 |
NTTドコモ | コマツ、フジテレビ、和歌山県、NHK、パナソニック、東武タワースカイツリー・ALSOK |
KDDI | NHK、大林組、NEC、セコム、東京大学、京浜急行電鉄、パナソニック |
ソフトバンク | スプリント、クアルコム、ノキアソリューションズ&ネットワークス |
5G対応の携帯デバイスが実際に出てくるのは2020年頃になるが、5Gが実現する通信インフラの上で4K、8Kといった大容量コンテンツ、あるいはこれまでは遅延やリアルタイム性の難しさから実現しなかった、新たなアプリケーションが登場する可能性は大いにありそうだ。
企業としては、5Gでないと成立しない、これまでは考えられなかったアプリケーションが展開できる可能性があるので、事業機会ととらえて準備しておくことが求められる。
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