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  • 2019/02/08 掲載

「小水力発電」とは何か?清水建設やリコーも参入の「知られざる成長分野」

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大手の建設会社、精密機器メーカー、ガス会社などが「水力発電」を次々と手がけている。特に、運転出力の小さい「小水力発電」については、FIT(固定価格買取制度)による売電市場規模が2020年まで4年間で2倍に、さらに2020年代の10年間で2.3倍になるという高い成長性が見込まれている。政府のエネルギー政策も好意的で、異業種にとっても参入する価値がある事業といえる。同ビジネスの最前線と今後の展開を解説しよう。
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ダム建設が不要な「小水力発電」、その可能性とは
(©俊樹 高椋 - Fotolia)


清水建設が挑戦の「小水力発電」とは何か

 2019年1月、大手建設会社の清水建設は、2016年12月から事業化検討に着手していた「小水力発電事業」に本格参入すると発表した。清水建設のプロジェクトは、川の水を取水堰で分流させて地下の水圧管路で発電機に導く「水路式」という方式を用いる。富山県東部の山間部で5月にも小水力発電所建設に着手し、2020年12月の運転開始を目指す。発電能力は960kWで、20年間のFIT事業で北陸電力に売電する。

 事業主体は、清水建設が51%出資する水の国電力だ。建設や運転の実績が豊富な日本小水力発電が資本参加した。水の国電力は全国十数カ所で小水力発電事業に取り組み、2030年までに「総発電能力1万kW」「総売上20億円」の達成を目指している。

 建設会社にとって発電事業は異業種だが、清水建設は事業多角化の一環で「サスティナビリティ事業」の核となる再生可能エネルギー発電事業に力を入れている。小水力発電だけでなく、太陽光発電や洋上風力発電、木質バイオマス発電でも事業化に取り組んでいる。

 小水力発電の定義は政策によって異なり、厳密には定められていない。FIT(固定価格買取制度)では30,000kWを「中小水力発電」として定義しており、世界的には運転出力が10,000kW未満のものを小水力発電とみなすケースが多い。また、日本の政策では主に1,000kW以下の水力発電を小水力発電として扱っている。

 本稿では新エネルギー法やRPS法の対象となる「水力発電の中で運転出力が1,000kW未満のもの」を小水力発電として定義する。

 kW規模を問わず、水流の落差を利用して水車を回し発電する原理は同じだ。しかし、小水力発電では農業用のため池などを利用することはあっても、大型のダムを建設して川をせき止めることはほとんどない。

 小水力発電のメリットとして、清水建設は「太陽光や風力と比べると、季節や昼夜を問わず安定的に電力を供給できる」「少額の投資で事業化が可能」「ダム式大型水力と比べると発電所の開発に際して周辺環境や生態系への負荷が少ない」ことなどを挙げている。発電出力の変動が小さいので、買い取る電力事業者にとっては常時運転のベース電源として受け入れやすくなる。

マイクロ水力発電に参入したリコー

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 小水力発電よりもさらに小型なマイクロ水力の分野に参入し、実績を築きつつある意外な異業種企業の1社が、精密機器メーカーのリコーだ。

 リコーには2011年度に設立した環境関連の「エコソリューション事業部」がある。同事業部では2021年3月期に売上高1000億円を達成することを目標としている。また、2016年4月に研究・開発(R&D)拠点として静岡県御殿場市に「リコー環境事業開発センター」を開設した。資源リサイクルやバイオマス発電、太陽光発電の保守管理を行うO&Mサービスなどとともに、マイクロ水力発電事業にも進出している。

 また、リコーは名古屋大学、インターフェイスラボがNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)から受託した研究に精密機器開発で培った技術で参加し、発電出力1kWレベルの低コストのマイクロ水力発電システムを開発した。インターフェイスラボ 代表取締役の井手由紀雄氏は、かつてリコーに勤務していたOBだ。

 システムの設置場所として想定しているのは、地域の小河川や農業用水路、工場、ビル、下水処理場のような施設の排水路、プラント内の導水管のような常に水の流れがあるところだ。小さな水力エネルギーでも回収して電源として利活用しようという発想である。

 従来の水力発電用水車は、得られる電力が投資額に対して少ない。そのため、投資採算性に難があり、枯葉やゴミなど異物が詰まると止まりやすいという問題があった。そこで空洞となった中心部で水中の異物を通し、金属ではなくコストが安い樹脂でつくられる「無閉塞型中空プロペラ水車」を発電機一体型で設計・開発することで問題を解決している。

 リコーでは静岡県御殿場市内の河川に実証プラントを設置。熱海ガスはこの水車を利用して、熱海市伊豆山にある逢初川沿いの市有地にある水車小屋で出力1kWのマイクロ水力発電を行うプロジェクトに着手している。2019年度中にも試験的な運用を開始する予定。設置費用は約300万円だ。熱海ガスは熱海市や漁協、グリーンエネルギー推進協議会などと協力し「エネルギーの地産地消」のモデルづくりを目指す。

 それとは別の設備だが、リコーグループのリコーリースは2018年7月、静岡県伊東市の大川浄水場内に設置した最大出力179kWの小水力発電設備について割賦販売契約を締結した。金融面でも小水力発電の普及を支える体制を整えている。

大手企業が続々と小水力発電事業に参入

 大阪ガスも2015年7月に小水力発電の事業を開始した。子会社のエナジーバンクジャパンが日立キャピタルと共同で、滋賀県長浜市の農業用水路に出力15kW、10kWの2機の流水式マイクロ水力発電システムを設置。起こした電力はFIT制度で大阪ガスも出資する新電力のエネットに買い取らせている。その買取価格は1kWhあたり34円(税別)で、年間の売電収入は約480万円になる。これは、民間の事業者が100kW以下のマイクロ水力発電でFITの売電事業を行う国内初のケースになった。

 その他、大手企業が発電所の運営やエンジニアリングで小水力発電事業に参入している例としては、岐阜県飛騨市に発電所を設置した住宅メーカーの大和ハウス工業、空調機器のダイキン工業、エンジニアリング大手の日本工営、日本コークス工業(旧・三井鉱山)の関連会社の三井三池製作所、ポンプ・タービンメーカー荏原製作所の関連会社の荏原商事などがある。発電が本業の電力業界では、関西電力が2012年に富山県に自前の発電所を設置しエンジニアリングを手がけ、丸紅100%子会社の三峰川(みぶがわ)電力などが静岡県富士宮市に発電所を設置している。

【次ページ】2020年代に小水力の成長が見込まれる理由
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