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コロナ危機による物流網の混乱に、米中対立とウクライナ侵攻が加わり、いよいよ世界のサプライチェーン分断が本格化しつつある。一部企業は、米国向けと中国向けにサプライチェーンを別々に構築する動きを見せており、多くの企業が同じ決断を迫られる可能性が高い。
グローバルなサプライチェーンが成長の原動力だった
グローバル経済の進展によって、企業は全世界にサプライチェーンを拡大するのが当たり前という時代が長く続いてきた。1円でも安いモノを求めて各社は巨大なサプライチェーンを構築し、これが業績拡大の原動力となってきた。90年代以降、世界経済の成長スピードが大幅に加速したが、そこにはビジネスのIT化と、それに伴うサプライチェーンの巨大化が大きく関係している。
全世界の貿易(数量ベース)とGDP(国内総生産)を比較すると、基本的に両者は比例して伸びていることが分かる。リーマンショックやコロナ危機で一時的に貿易が滞っても、すぐに回復しており、今回のコロナ危機についても、貿易量はすでにコロナ前を超えた。感染が落ち着けば、全世界のGDPも順調に回復するだろう。
たしかに貿易の「量」は回復したが、一方で貿易の「質」は、以前とは大きく様変わりしている。
下図は、2010年以降の全世界における貿易量と価格を比較したグラフである。2014年以降、貿易の価格は低下傾向だったが、コロナ危機をきっかけに価格は上昇に転じている。つまり数量と価格の両面で拡大が進んでおり、貿易の構造が変化した可能性が示唆されるのだ。
貿易価格が上昇しているのは、直接的には原油や食糧など原材料価格の高騰によるものだが、問題は原油や食糧の価格が上がっている根源的な理由である。
ロシアがウクライナに侵攻したことで、原油価格や食糧価格の高騰が懸念されているが、原油価格や食糧価格の高騰はロシアによるウクライナ侵攻以前から起こっていた現象である。コロナ危機をきっかけに価格上昇が顕在化し、ウクライナ侵攻によってさらに拍車がかかっていると考えた方が良い。では、なぜコロナ危機をきっかけに原油や食糧の価格が高騰したのだろうか。一連の価格高騰には、以下の要因が複雑に関係していると思われる。
- 全世界的な需要過多
- コロナ危機によるサプライチェーンの見直し
- 米中対立による経済のブロック化
では上記の要因について、順を追って解説しよう。
米中対立にウクライナ問題が加わる
コロナ危機やウクライナ侵攻が発生する以前から、中国や東南アジアを中心に新興国の経済成長が著しく、全世界的にエネルギーや食糧、工業製品の需要が拡大していた。工業製品については、ある程度までなら、需要の変化に応じて柔軟に生産量を調整できるが、エネルギーや食糧は簡単に生産量を増やすことができない。
今後はアフリカや中東など、アジア以外でも生活水準の向上が予想されており、需要は増える一方である。つまりコロナ前から世界経済は需要過多であり、供給が追い付かない可能性が指摘されていた。明確に財やサービスの価格には転嫁されていなかったものの、価格が上がりやすい状況だったことは間違いないだろう。
こうしたところに発生したのがコロナ危機である。企業はこれまで、コスト削減を目的に全世界にサプライチェーンを拡大していた。だが複雑で巨大なサプライチェーンは、全体のごく一部であってもトラブルが発生すると、たちまち機能不全を起こしてしまう。
これまでは「平時」が基準だったことから、こうしたトラブルはIT化を進めることで解決できていた。ところがコロナ危機のような「非常事態」においては、精緻なITシステムがあってもほとんど意味をなさない。感染者が出て業務が停止した事業所の代替はすぐには見つからないため、全世界的に物流の停滞が起こる。
各国企業は全世界に拡大したサプライチェーンをリスク要因とみなすようになっており、近隣調達への切り換えを進めている。結果として貿易の総量は変わらなくても、より近い経済圏内での取引が増えるという質的な変化が生じた可能性が高い。そして、この動きに拍車をかけているのが、米中の政治的対立である。
トランプ政権以降、米国は中国を敵視する戦略に切り換えており、米中は貿易戦争状態が続いている。米国は中国で生産された工業製品について安全保障上の脅威と見なしており、特定品目について第三国を経由した貿易にも制限を加える意向を示している。こうしたところにロシアによるウクライナ侵攻が発生し、各国はロシアに対する経済制裁に突入した。
中国は表向きロシアを支援する動きは見せていないが、ウクライナ侵攻をきっかけに中露が接近するのはほぼ確実であり、中露経済と米国経済、そして欧州経済の分断化が進むと予想される。
【次ページ】サプライチェーン再構築に動く「村田製作所」「米アップル」
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