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- 2022/10/25 更新
「全固体電池」をやさしく解説、従来の電池との違いや種類・トヨタらの実用例は?
全固体電池とは何か?その仕組み
全固体電池とは、電流を発生させるために必要な「電解質」という液体を固体にした電池のことです。そのため、全固体電池を理解するにはまずこの「電解質」の仕組みを理解する必要があります。電池は主に「電極」「活物質」「電解質」で構成されており、活物質や活物質に含まれる電子を保有する「イオン」が電解質というプールの中を泳ぐことで電極間(負極から正極の間)に電子を通し電気を発生させています。そして、電流は電子の動きにより発生するため、電子を持ったイオンが動き回る電解質は「イオンが素早く動き回れるような特性」を持っていなければならないのです。
人間で言えば、電解質は血液に含まれる水分のような立ち位置です。血液中の水分が失われてしまえば、栄養や老廃物の移動がスムーズに行かず脱水症状を起こします。電池も同様で、電解質が失われたり凍って固まったりすれば、電気エネルギーの移動がスムーズに行えなくなって電気が流れなくなります。
では、簡単に電池の基本的な構造を見てみましょう。図1は19世紀に開発されたボルタ電池、図2はさまざまな電子機器で使われているリチウムイオン電池です。
どちらのケースでも電解質は液体であり、液体の中を水素イオンやリチウムイオンが動き回り、電極に電子を通すことで電気が流れます。
ちなみにボルタ電池は電解質が薄い硫酸、リチウムイオン電池の電解質は発火・爆発の危険性がある有機溶媒が使われており、二重三重の安全対策が必要不可欠です。そんな危険な液体電解質は、凍って固体になってしまうと電気を流さなくなります。
実は、電解質が固体であっても電池として使えることは昔から知られていました。しかし、高い性能を発揮できるのは「液体だけ」というのが今までの常識でした。ところが、近年の研究でそれを覆す電解質の素材が見つかったことで全固体電池の開発が活発になりました。
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全固体電池は今までの電池と何が違う?強みと弱み
先ほど、電解質は血液の水分のようなものと説明しました。つまり全固体電池という存在は血液が凝固してカチコチに固まった人間が生きているようなもので、従来の電池の常識からは逸脱しています。実際、実用レベルの全固体電池は長年開発できないと考えられていました。ところが、固体であるにも関わらず、内部で電子を運搬する小さな物質(イオン)が動き回って十分な電気を流すことができる物質が発見されたのです。
では、今まで液体だった電解質が固体になると具体的に何が変わるのでしょうか?
- 構造や形状が自由。薄型など、柔軟な電池が実現
- 小さな層を重ねることで小型・大容量化が可能
- 固体なので丈夫。寿命が長くて熱や環境変化に強い
- 高速充放電が可能
また、従来の電池で使われていた液体電解質のほとんどが危険な物質を利用しており、液漏れは致命的な事故につながります。従来の電池はこの液漏れを防ぐために丈夫な容器が必要でした。
しかし、液漏れのない全固体電池ではそれが不要になるため、形状の縛りがなくなります。薄くしたり、層を重ねて多重構造を作ったり、折り曲げることも可能になります。
さらに、多少傷がついても電池の性質を失わず、変質もしないので寿命が長く、熱や圧力変化にも強いのでさまざまな環境で利用することが可能です。
多層化によって「小さな電池を大量に詰め込んだ電池」を作れれば、大容量にもかかわらず素早く充電が可能な電池が実現します。
さらに、全固体電池の固体電解質は大きく「硫化物系」と「酸化物系(セラミック)」に分かれており、形状や用途に応じて「バルク型」と「薄膜型」に分類されます。それぞれに強みと弱みがありまので、後ほど詳しく説明します。
なお、図3のように、多くの全固体電池では電子の授受に「リチウムイオン」を利用しています。つまり、全固体電池も「リチウムイオン電池」の一種と考えることもできるのです。
原理的にはリチウムイオン以外の全固体電池も作れるため、敢えて「全固体リチウムイオン電池」と呼ぶこともあります。ただ、リチウムイオンは電子の運び屋としては最高レベルの性能を有しているため、電池の名称にリチウムが入っていなくとも当たり前のようにリチウムイオンを使っているということは珍しくありません。
ただこのリチウムがくせ者で、水と反応する性質を持っています。そのためこれまでは電解質に水が使えず、有機溶媒などの危険な電解質を使わざるを得なかったのです。ようやく近年になって不燃性の液体電解質を使ったリチウムイオン電池が開発されましたが、性能が不十分で可燃性のリチウムイオン電池を置き換えるには至りません。
このように、リチウムを利用する電池は色々あるものの、それぞれ使われている「電極」「電解質」「活物質」が異なっており、リチウムイオンを使っているからといって同じものではないことに留意する必要があります。
「酸化物系・硫化物系」「バルク型・薄膜型」全固体電池の種類
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形状による分類
- バルク型
- ※箱型。丈夫な箱の中に電池を入れるため危険な硫化物にも使いやすい。
- 強み:大容量・ハイパワー
- 弱み:サイズが大きく形状に制約がある
- 薄膜型
- ※基盤に貼り付けられる薄い形状。場所や形を選ばない。
- 強み:小型で柔軟、高耐久・長寿命
- 弱み:容量とパワーが限られる
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電解質による分類
- 酸化物系(セラミック系)
- ※金属などを焼き固めたもの。製造方法が限られるため素材の選択肢が少ない。
- 強み:安全性が高く高耐久、構造の自由度が高い
- 弱み:容量が少なく、用途が限られる
- 硫化物系
- ※硫黄を含む化合物。製造方法が豊富で素材の選択肢が多い。
- 強み:大容量でハイパワー
- 弱み:可燃性・毒性があり危険、技術的な課題が多い
- ポリマー系
- ※高分子化合物。他の素材に比べて弾力性がある。
- 強み:生産性が極めて高く、高耐久。
- 弱み:容量が少ない。安全性が他の全固体電池に劣る。
酸化物系
2022年の時点で実用化が進んでいるのが酸化物系(セラミック)の全固体電池です。高耐久長寿命で小型化が可能な特性を利用し、電子基板に直接薄型の全固体電池を貼り付けることで電池のスペースを節約し、サイズに制約のあるIoT機器などへの利用が進んでいます。酸化物系では基本的に薄膜型のものが多いですが、バルク型のものも開発されており、その用途は研究開発と共に広がりつつあります。
ただ、酸化物系の全固体電池は現時点では容量が少なく用途が限られており、電気自動車などに使えるレベルには達していません。また、材質的な寿命は長いものの充放電の繰り返しに伴う容量の劣化は硫化物系に比べると早いとされています。このため、酸化物系全固体電池は、既存のリチウムイオン電池を代替するというよりは小型・軽量・柔軟な特性を生かして新しい用途を開拓しているという位置づけです。
硫化物系
一方、大容量高出力の電池として電気自動車などに適していると考えられているのは、硫化物系の固体電解質を用いる全固体電池です。性能的には既存のリチウムイオン電池を超えるポテンシャルを秘めており、電気自動車にも使えることから自動車メーカーを中心に大規模な投資が行われ、化学・電機・部品メーカーらによる固体電解質に使われる素材の研究開発が進められています。
ただ、硫黄を主原料としている関係で発火のリスクや硫化水素という有毒ガスを発生させるリスクがあるため、既存のリチウムイオン電池よりは安全に使えるものの危険な素材です。電池としての性能だけでいえば最高レベルではあるものの、出力・寿命・安全性・生産性のバランスをとることが難しく、実用レベルに達したとしても現行のリチウムイオン電池を完全に代替するには少し時間が必要となるでしょう。
ポリマー系
全固体電池の主流は上述の酸化物系と硫化物系ですが、他にも弾力性のある高分子化合物(ポリマー)を利用した全固体電池も存在します。全固体電池の欠点の1つに、電解質が固体であるがゆえに充放電や温度変化によって変形して性能が落ちるという特性がありますが、弾力のあるポリマー系ではその心配がありません。
また、ポリマー系の全固体電池には液体の電解質を混ぜ合わせてゲル状にした「ゲルポリマー」なども存在します。これは厳密に言えば「全固体」ではないので「半個体電池」などのように呼称されますが、広い意味でまとめて全固体電池として扱われることがあります。
ポリマー系素材の場合、プラスチックなどの樹脂を扱う設備を流用でき、小型の電池であれば基板上に塗布するだけで生産が可能です。また、素材の選択肢が豊富で用途に応じて様々なポリマー電池を作れるのが魅力です。しかし、全般的にエネルギー密度が低く容量を上げにくいという欠点があり、容量を重視した素材は安全性が低いなどのデメリットもあることから、用途に合わせた素材の使い分けが重要になりそうです。
全固体電池市場の予測、2035年には2兆7,000億円に
ここまで説明してきたように、全固体電池は高耐久高出力大容量、安全でかつ応用範囲が広い電池として現行のリチウムイオン電池の代替し得る潜在能力を秘めています。全固体電池全体の世界における市場規模予測は、富士経済の調べ(電池関連市場実態総調査 No.1, 2018)によると、2030年に3,000億円前後、2035年には2兆7,877億円に達すると予測されています。2030年には電気自動車へ搭載され、普及も始まることから大幅に普及するという想定です。
また、米MarketsandMarketsの2022年の調査によれば、世界の固体電池の市場規模は、2022年から2028年にかけて32.5%のCAGRで成長する見通しで、2022年の5,800万米ドルから、2028年までに3億1,400万米ドルに達すると予測されています。
【次ページ】全固体電池開発、トヨタら各社の取り組みは?
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