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  • 2023/09/11 掲載

米国が「水素」に本気を出してきたワケ、2045年脱炭素に立ちはだかる“9つもの壁”

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数年前まで水素のエネルギー導入に最も注力し、先進的だったのは欧州だったが、米国の追いつきには目を見張るものがある。水素の生産量そのものでは中国がトップだが、中国の水素の多くは褐炭を原材料とした「ブルー水素」。製造時にCO2を排出しない「グリーン水素」の生産量は2023年現在で米国がトップで、この傾向は少なくとも2030年まで続くと考えられる。水素推進を行う米国の手法とその背景とは何か。
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水素導入にかける米国本気度「1 Decade 1 Kilogram 1 Dollar」とは
(Photo/Shutterstock.com)

水素のエネルギー化に舵を切った3つの背景

 ノルウェーの調査会社ライスタッドエナジー(Rystad Energy)が実施した調査によると、2023年時点で米国が生産するグリーン水素は年間4万7300トンで、2030年には204万トンまで増加する。

 グリーン水素とは、再生可能エネルギー(以下、再エネ)由来の電気を使って、水を電気分解して得られた水素で、製造時にCO2を排出しないことから、脱炭素社会に向けて注目を集めている。


 水素導入に積極的だったドイツと比較しても、ドイツは2023年で2万7000トン、2030年に125万8000トンと米国とは差がつきそうだ。ちなみに同社によると2030年時点で世界をリードするのは米国、オーストラリアに加えスペインだという。

 なぜ、米国は水素のエネルギー化に大きくかじを切ったのか。

 1つには再エネの発達により、米国では地域によって余剰電力が生じている問題がある。余剰電力はバッテリーによる蓄電、VPP(仮想発電所)なども広がっているが、電力を水素に変換することでより多くの電力を長期間保存することが可能となる。

 2つ目に、シェールガスなど天然ガスの産地でもある米国ではガスパイプラインが発達していること。ガスラインに水素を混入させることにより、既存のインフラを使って水素をエネルギーとして供給することが可能となる。

 そして3つ目は、バイデン政権によるIRA(インフラ抑制法案)の中で地球温暖化防止に向けた多額の補助金が提供されたこと。EVへの補助金が2032年まで確約されたことで需要が刺激され、EVの販売が増えることが期待されるが、加えて水素を燃料とするFCEV(燃料電池車)も排出ガスゼロという点でEVと同等の補助金が受けられる。特に大型トラックなどの商業車で水素を燃料とするものが今後販売を伸ばす可能性にも期待が集まっている。

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2022年8月に成立したインフレ抑制法は、インフレ抑制と同時に、エネルギー安全保障や気候変動対策の強化を目的としている
(Photo/Consolidated News Photos/Shutterstock.com)

米政府が目指す「10年1キログラム1ドル」体制

 2023年6月にカリフォルニア州サクラメントで開催された「カリフォルニア水素リーダーシップ協議会」でも水素導入の道筋について活発な意見交換が行われた。そこで注目されたのは、連邦政府が打ち出した「1 Decade 1 Kilogram 1 Dollar」(10年1キログラム1ドル)という方針だ。これは「今後10年以内に水素を1キロあたり1ドルで販売できる体制づくりを行う」ことを意味する。

 車の燃料として比較した場合、ガソリンが1ガロン(3.6リットル)あたり4ドル前後で推移しているのに対し、水素は現在カリフォルニア州(世界で2番目にFCEVが普及している場所)で1キロあたり20ドル前後となっている。EVでは1kWhあたりの充電コストは7~10セント程度だ。

 単純な比較は難しいが、平均値では1マイル走行するための燃料代だけを見るとガソリン車はEV車のおよそ2~3倍、FCEVはガソリン車の3~5割増し程度と考えられる。

 しかし政府の方針通りに水素価格が1キロ1ドルになれば、トヨタ「MIRAI」のようなFCEV乗用車を満タンにするのにかかるコストは10ドル以下となり、EVを抜いて最安となる可能性は十分だ。さらに家庭用、産業用エネルギーとしても水素が競争力のあるものとして浮上するだろう。 【次ページ】2045年脱炭素達成のために乗り越えなければいけない9つの壁
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