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燃やしてもCO2を発生しないクリーンエネルギーとして知られている水素。しかしカーボンニュートラルの実現に向けては、「利用」する時だけでなく、「製造」する過程においてもCO2を排出させない仕組みが必要である。そこで近年世界から注目を集めているのがグリーン水素だ。グリーン水素とは、再生可能エネルギー由来の電気を使って得られた水素を言う。ここでは政府の「
水素基本戦略」や「
グリーン成長戦略」を踏まえながら、他の水素との違いや社会実装の状況について、グリーン水素の基本をわかりやすく解説する。
グリーン水素とは何か
グリーン水素とは、再生可能エネルギー(再エネ)を使って発電された電気を使い、水を電気分解(電解)して得られた水素であり、製造時にCO2を排出しない水素だ。想定される用途としては、燃料電池車(FCV)といったトラックや船、製造工場、製鉄の還元剤など、用途は多岐にわたる。
水素を燃焼させてもCO2は発生しないが、水素を作る過程でCO2が排出される。なぜなら水を電気分解する際に電気が必要であり、その電気は通常、化石燃料を使って作られるからだ。
そして現在は、多くの水素が化石燃料を使った電気を使用して製造されている。水素は「使う」時だけでなく、「作る」時にもCO2を排出させないよう留意する必要がある。
その点、グリーン水素は、風力や太陽光など再エネを利用して作られた電気を使う。このため、電気分解を行う際にCO2を副産物として生み出すことなく、水素を製造することができる。
現在のところ、世界のグリーン水素の生産量は水素全体の数%程度だが、脱炭素社会に向けて生産量は増加傾向にある。グリーン水素が水素の主流になるのは時間の問題だろう。
日本では2017年12月に「水素基本戦略」を策定したところであり、他の多くの国でも水素の国家戦略を掲げている。各国で水素社会の構築に向けた取り組みが急速に進められ、世界で覇権争いが繰り広げられ始めた模様だ。化石燃料からの脱却を図るため、再エネ拡大に併せ、グリーン水素の意義は重要性を増す一方だ。
グリーン水素と、グレー水素・ブルー水素・イエロー水素との違い
一般的に、水素はグリーン水素のほかにも、作り方によって色分けされている。比較すると以下の図1の通りだ。
グリーン水素 |
再エネ由来の電気を使い、水を電気分解して得られた水素 |
グレー水素 |
化石燃料から製造される水素。製造過程で発生するCO2はそのまま大気中に放出される |
ブルー水素 |
化石燃料から製造される水素。製造過程で発生するCO2は回収して貯留される |
イエロー水素 |
原子力発電を使い、水を電気分解して得られた水素 |
ホワイト水素 |
何かを製造した際に副産物として発生する水素 |
図1:各種水素の一覧。5種類の水素はどう違うのか
ここからはさらに詳しく、グレー水素やブルー水素、イエロー水素について解説しよう。
■グレー水素
従来からある天然ガスなどの化石燃料を使って製造される水素は、グレー水素と呼ばれる。
現在、メタンガスなどから水素を製造する水蒸気改質法という方法が、工業分野で幅広く利用されている。家庭用燃料電池(エネファーム)も、都市ガスを改質させて水素を取り出すものであり、空気中の酸素と化学反応させて発電する。
グリーン水素に比べてコストが低く、現在活用されている水素の大部分がグレー水素である。しかし、化石燃料から水素を製造する際に、CO2がそのまま大気中に放出される。これでは脱炭素化にはつながらない。また、海外の化石燃料に依存する日本にとっては、国際情勢を受けやすい問題もある。
今後はより一層、グレー水素からの早期の転換が求められる。
■ブルー水素
ブルー水素は、グレー水素と同様に化石燃料から製造されるが、発生するCO2を
CCSなどによって回収、貯留して製造される水素である(図2)。
CCSはCarbon dioxide Capture and Storageの略で、CO2を地中深くに貯留する技術のことである。CCSを利用できるケースでは、CO2を大気中に放出しないという、ブルー水素のメリットを享受できる。
国のグリーン成長戦略では、グリーン水素とブルー水素を合わせた水素の供給量を、2030年に年間42万トン以上にすることが目標とされている。
■イエロー水素
原子力エネルギー由来の電気を使って、水を電気分解することで得た水素をイエロー水素と呼ぶ。CO2は排出されないが、核廃棄物が残ってしまう。原子力発電が推奨されているフランスやロシアなどでは開発が進んでいるが、原子力発電を推奨しない国もあり、世界的な普及には課題が残る。
グリーン水素のメリット4つ
グリーン水素を製造・利用することは、主に以下のようなメリットが挙げられる。
- CO2が排出されない
- 季節や時間帯によって多く生み出されてしまう電気の有効利用
- 電気から水素への変換で運搬が可能
- エネルギー自給率の上昇
CO2が排出されないことについては先にも述べたので、ここではそれ以外の3つのメリットについて説明する。
まず、再エネは季節や時間帯によって電気を多く生み出てしまうことがあり、そのため使い切れない電気が発生する、という課題がある。しかし、この余剰の電気を水素製造に活用することで、エネルギーの有効利用が可能となる。
電気を水素に変換して貯蔵すれば、持ち運びが可能となる。このため、発電所から離れた場所へ運搬できるようになる。
また、化石燃料に乏しい日本において、グリーン水素を自国で製造できるようになれば、エネルギー自給率の上昇が期待できる。なお、日本のエネルギー自給率は12.1%(2019年度)と、OECD(経済協力開発機構)36カ国中で35位とかなり低い水準にあり、グリーン水素が救世主となり得るだろう。
グリーン水素の課題
国際エネルギー機関(IEA)によると、現在の水素のコスト(1キログラム当たり)は、グリーン水素が3~8ドル、ブルー水素1~2ドル、グレー水素0.5~1.7ドルとされている。現状では、グリーン水素のコストに課題が残るが、今後は価格が下がっていくと予想されている。
水素基本戦略では、「低コストな水素利用の実現」として、海外の安価な未利用エネルギーとCCSを組み合わせる水素(ブルー水素)、または安価な再エネから作られる水素(グリーン水素)を大量調達するアプローチを基本的な考え方としている。
そのためには、水素を「作る」「貯める・運ぶ」「使う」まで一気通貫した国際的なサプライチェーンの構築を進めなければならない。
具体的には、2030年ごろに商用規模のサプライチェーンを構築して、現在の販売価格の1/3以下となる30円/ノルマル立方メートル(温度0℃・圧力1気圧の時の体積)程度の水素コストの実現を目指す。
さらに2030年以降は、供給面での国際水素サプライチェーン拡大と、産業分野などでの利用を進めることで、2050年にはガス火力以下となる20円/ノルマル立方メートル程度まで水素コストを低減させる目標だ。既存エネルギーと同等のコスト競争力の実現を目指す。
グリーン水素の作り方
グリーン水素は、再エネ由来の電気を使って、水電解装置により水を電気分解して作られる。水の電気分解技術は以前から研究開発が進められているが、現在は「アルカリ型」と「固体高分子(PEM)型」の2種類が実用化されている(図3、図4)。
アルカリ型水電解装置とは、水酸化カリウムの水溶液を電気分解して水素を製造するものである。特徴は、高効率、低コスト、大型化が容易であることだ。
一方、固体高分子型水電解装置とは、電極と電極の間に固体高分子(PEM:Polymer Electrolyte Menbrane)を用いて水を電気分解し、水素を製造するものである。特徴は、小型化しやすいことや、発電量が変動しやすい再エネへの柔軟性の高さだ。なお、燃料電池にも固体高分子が用いられている。
グリーン水素の日本企業による事例
国内では、水電解装置を活用した水素社会のモデルとなる取り組みが、自治体と企業によって行われている。
特に近年取り組みが盛んなのが、トヨタや旭化成などが参画・進出している福島県と、東京電力や東レなどが参画・進出している山梨県だ。それぞれ、アルカリ型水電解装置、固体高分子型水電解装置を活用した社会実装が進められている。
【次ページ】トヨタや旭化成など:福島県での事例
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