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水素を“燃料”に電気を作り、電気モーターを回して走るのが「水素自動車(燃料電池車/FCV)」だが、水素から作った電気を家庭や事業者に送るのが「水素発電」。水素はCO2(二酸化炭素)を発生しないエネルギー源で将来性があるが、特に水素発電は、LNGや石炭に比べてコストが高い欠点を克服できれば大きく成長できると予測されている。本稿ではその詳細について説明する。(2018年9月初出・2021年11月更新)
水素発電が注目される理由、そのメリットは?
水素は石油や石炭や天然ガスのような化石燃料と違って、燃焼させてもSOx(硫黄酸化物)のような大気汚染の原因になる有害物質や、CO2(二酸化炭素)のような地球温暖化の原因になる温室効果ガスを発生しない。排出されるのは「H2O」の水だけだ。
そんなクリーンな水素を利用する「水素発電」は今、化石燃料を燃やす火力発電に代替できる存在として注目されている。
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水素のエネルギー利用には2種類の方法がある
水素をエネルギーとして使うには2種類の方法がある。ひとつは水素自動車のように燃料電池を用いて電気を作る方法、もうひとつは水素発電所に代表される、タービンなどで水素を燃焼させる方法だ。
水素自動車(燃料電池車/FCV)は数年前、「究極のエコカー」と呼ばれ盛んにもてはやされた。水素と酸素を化学反応させる装置が「燃料電池」。基本構造は、タンク内の水素と空気中の酸素を化学反応させた時に発生するエネルギーで電気を起こし、その電気でモーターを回して自動車を走らせる、というものだ。排出されるのは水だけというクリーンさだ。燃料電池以外の部分は電気自動車(EV)と同じなので、バッテリーの代わりに燃料電池を積んだEVが水素自動車だといえる。
この燃料電池は水素自動車以外に「定置型」と呼ばれるタイプが家庭やビル用のコージェネレーション(熱電併給)システムで利用されている。東京都は2017年3月に東京五輪・パラリンピックの選手村に設置すると発表したが、出力は5台で最大200kW(キロワット)程度だ。
一方、地域全体に電力を供給できるような数万、数十万kW級の「水素発電所」は、燃料電池とはまた別のやり方で、火力発電所で重油や石炭やLNG(液化天然ガス)を燃やす代わりに、水素を燃料に使うというやり方で電気を起こしている。
「水素発電」では、水素そのものを燃焼させて空気中の酸素と激しく化学反応させ、そのエネルギーでタービンを回して電気エネルギーを取り出す。原理は従来の火力発電機と同じなので、水素とLNG、水素と石炭というようにほかの燃料と一緒に燃やす「混焼」ができる。
なお、このやり方は今に始まったわけではない。化石燃料の重油にも石炭にもLNGにも一定量の水素が含まれており、火力発電所で炭素や酸素と一緒に燃やしてエネルギーを取り出してきた。液化水素燃料はアポロ計画のサターンロケットの推進力にも利用され、人間を月に送り込んだ。
水素発電の安全対策はどうなっている?
水素には、市民感情レベルでも「爆発する」「危険」「地震や火災の時が怖い」というイメージがどうしてもつきまとう。1937年5月6日、アメリカで起きたドイツの飛行船「ヒンデンブルグ号」の爆発炎上事故は80年以上も前のできごとだが、その映像は日本でも「衝撃の大事故」としてテレビで繰り返し流され人々にトラウマを植え付けた。この事故の後、有人の飛行船には水素ではなくヘリウムが充填(じゅうてん)されるようになっている。
水素は地球上で最も軽い物質で、空気中で拡散しやすいが、閉じこめられて4%以上の濃度になると爆発の可能性が生じる。密閉空間で大量の水素と酸素が混在し、500度以上の熱エネルギーが加わると爆発の危険性はさらに大きい。そのため水素の取り扱いでは「水素を漏らさない」「漏れた時は即座に検知し水素供給を止める」「漏れてもたまらないようにする」などの安全対策がとられる。
水素自動車では2013年、安全性の世界統一基準が定められた。排気の水素濃度が4%以上にならないようにするほか、水素タンクの強度や衝突時の水素放出量にも数値基準が定められている。供給する水素ステーションには立地、貯蔵設備の材料、水素の充填方法など、安全確保のための細かい規制がある。
日本では「高圧ガス保安法」で、水素の製造から貯蔵・輸送・利用までの全プロセスが規制を受けている。また、水素の製造設備、貯蔵設備には消防法や建築基準法、輸送車両には重量制限の規定が設けられている。それは水素発電所でも同様に適用される。そうした安全規制のもと、水素の性質をふまえた適切な管理を行っていれば、着火や爆発のリスクは低くなる。
なお、水素自動車の代わりに電気自動車(EV)を普及させ、そのバッテリーに水素発電所で起こした電気を充電すれば、水素を自動車の燃料として供給せずに郊外の発電所に集中させ、そこで安全管理を行えるという手もある。こうすれば、水素ステーションを市街地に数多く作ったり水素タンクを載せた自動車を路上に走らせる必要もない。それは将来の「水素社会」のひとつの選択肢である。
安倍内閣「水素基本戦略」、水素発電の本格導入を明記
安倍首相は2015年2月12日の施政方針演説で「水素社会」実現への意欲を見せた。その約2年10カ月後、2017年12月26日、安倍内閣の「再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議」が決定した
『水素基本戦略』では、水素発電は将来の水素社会の最重要ポジションを占めている。
この戦略では産官学あげて3段階のフェーズで水素社会の実現を目指す。「水素利用の飛躍的拡大」がテーマのフェーズ1の主役は水素自動車(FCV)と定置型燃料電池で、それに続く2020年代後半のフェーズ2では、「水素発電の本格導入」がテーマとして明記されている。2030年頃までに水素の商用規模の国際的サプライチェーンを構築し、調達コストの低減を実現するには、水素自動車と水素発電の両方で水素の需要を飛躍的に増加させて、日本に「水素の大量消費社会」を作りだす必要があるとうたっている。
水素の製造法は、現状は工場の「副生水素」など化石燃料由来が大部分を占めているが、2040年頃までのフェーズ3ではCO2を発生しない再生可能エネルギーを利用した方法を普及させ、化石燃料由来の方法でもCCS(二酸化炭素回収・貯留技術)(注)によってゼロ・エミッション化させる「CO2フリー水素供給システムの確立」がテーマになる。水素の調達コストもフェーズ2の3分の2、現状の5分の1まで下げることを目標とする。
注:CCSは化石燃料を燃やして発生したCO2を回収し地中などに閉じこめる技術
川崎重工と大林組が神戸に水素発電プラント建設
この「水素基本戦略」が公表された2017年12月、水素発電にとってもうひとつ、エポックメーキングなできごとがあった。神戸市に本格的な水素発電試験プラントが完成したのである。場所は神戸空港と三宮駅の間にある埋め立て地「ポートアイランド」で、移転したゴミ焼却場跡地に、川崎重工業と大林組がNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成金を受け、約20億円をかけて完成させた。
電気出力は1000kWで、2018年2月から本格的な実証実験を開始し、周辺の神戸国際展示場や中央市民病院など4施設に電力と熱を試験的に供給した。水素は大阪府堺市にある工場から専用車で輸送され、25㎥のタンク満タンで約6時間運転可能。市街地の複数の施設に電力を供給する水素発電プラントは世界初という。
川崎重工業は、LNGを燃やして発電する自家発電設備用のガスタービン発電機に改良を施した。「拡散燃焼方式」というタイプで、画期的なのは100%水素だけでも発電できることだ。それまで実用化に成功した拡散燃焼方式のプラントは「水素98%、LNG2%」の混焼だった。 純粋に水素だけで発電できる専焼の実用プラントは世界初となる。
水素は燃焼のスピードが速く、燃料が水素100%だと発電機のバーナー噴出口が相当な高温になって溶ける恐れがあり、そうならないように熱を集中させない技術開発が課題だった。それを克服した日本の水素発電技術は世界の最先端を走っているといえる。
また、この川崎重工業とともに世界をリードしているのが三菱日立パワーシステムズ(MHPS)で、大型LNG発電所で使われるガスタービン発電機での水素混焼試験(水素30%混合)に成功している。
【次ページ】水素発電の市場成長率や国際環境、課題は?
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