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カーボンニュートラルに向けて、自動車などに利用するクリーンエネルギーが期待される一方、2040年のガソリン車の割合は依然として全体の84%を占めると予想されている。こうした中で注目を集めているのが、CO2と再生可能エネルギー由来のH2を合成して製造される液体の合成燃料「e-fuel(イーフューエル)」だ。ここでは、2021年4月に経済産業省の合成燃料研究会がまとめた「
中間取りまとめ」を踏まえながら、e-fuelのメリットや課題、国内外の動向などについて、わかりやすく解説する。
e-fuelとは何か、なぜ地球に優しいのか?
e-fuel(イーフューエル:合成燃料)とは、CO2と、再生可能エネルギーによる水の電解(electric)から得られたH2を用いた合成燃料で、ガソリンや軽油などの代わりとして期待されている脱炭素燃料である。e-fuelは合成燃料の1種となるが、その合成燃料はCO2とH2を合成して製造される燃料であり、ガソリン、軽油、灯油などの混合物を含む「人工的な原油」のことを言う。
原料となるCO2は、現状では発電所や工場などから排出されたものを利用することとなるが、将来的には「
DAC(ダイレクトエアキャプチャー)技術」を使って大気中のCO2を直接分離・回収したものを利用することが想定されている。
しかしe-fuelは、燃焼時に排出されるCO2が通常のガソリンを使った場合と同じである(図1)。
だが、製造時にCO2を資源として利用するため、CO2の排出量と吸収量を差し引いて全体としての排出量はゼロとなる。このため、カーボンニュートラルである「脱炭素燃料」と言われている。
e-fuelの作り方
合成燃料の製造は、600度以上の高温下で触媒を用いてCO2をCOに転換させ(逆シフト反応)、生成したCOとH2を
FT合成反応(フィッシャー・トロプシュ合成反応)により行う(図2)。
ほかにも、CO2とH2を合成したメタノールやメタンなども合成燃料と呼ばれる。合成燃料がe-fuelと言われるためのポイントは「再生可能エネルギー由来のH2を使う」こと。化石燃料由来のH2を使った場合、製造過程で発生したCO2を分離・貯留した後、別途、CO2と合成させるため、製造プロセスが非効率になる。
e-fuelとバイオ燃料の違い
カーボンニュートラルな燃料として、「バイオ燃料」がすでに商用化されているが、e-fuelとは何が違うのか。
バイオ燃料は、サトウキビなどの作物や生ごみなどの廃棄物といった、バイオマス(生物資源)からつくられたバイオエタノールやバイオディーゼルなどのことを言う。米国やブラジルなどで普及している一方、日本国内においては原料不足や製造コストなどの課題もあり、バイオ燃料だけで燃料問題のすべてを解決できるわけではない。
対して、e-fuelなどの合成燃料は原料がCO2とH2で、工業的に生産できる特徴がある。e-fuelがバイオ燃料に取って代わるというよりは、両者の特長を生かして化石燃料から脱炭素燃料へのシフトを進めることが望ましい。
e-fuelの「4つのメリット」
ここではe-fuelを利用することのメリットについて、4点を紹介する。
・「既存のガソリン車」などでも利用可能
e-fuelなどの合成燃料の最大のメリットは、ガソリンや軽油と同じように使えるため、既存のガソリン車や軽油車で燃料としてそのまま使えること。もちろん、既存のガソリンスタンドの設備で使えるため、新たな設備を導入する手間やコストがかからない。
・ガス燃料や電池よりも高い「エネルギー効率」
液体燃料全般に言えることだが、水素ガスなどのガス燃料や電池と比べて、同じ体積または重量あたりのエネルギー密度が高い(図3)。
つまり、液体燃料はより少ない量で多くのエネルギーを有していることになる。電気自動車よりもガソリン車の方が、長距離移動に向いているのもこのためである。
・災害時でもカンタン供給
積雪などにより停電した地域や、高速道路などで立ち往生した自動車に対して、液体燃料であると供給しやすい。また、災害対応機能を有する既存のサービスステーションや燃料タンクを利用し備蓄できる。また常温で液体のため、H2といったほかの新燃料に比べて長期的な備蓄に優れている。
・タンクなどの「設備損傷リスク」の低減
合成燃料は、原油にくらべて硫黄や重金属といった不純物が少ないため、燃焼時に設備を傷めにくく、設備保護の面からも大気汚染の面からもクリーンな燃料という特徴がある。
e-fuelの「2つのデメリット」
e-fuelは普及までのハードルが低く、脱炭素を効率的に進められる燃料として期待されているが、実は実用化できるまでにも大きな障壁がある。現在抱えている実用化までの課題・デメリットについて2点を紹介する。
・製造・販売コスト
e-fuelが実用化されるために解決すべき課題の1つは、製造コストである。経済産業省が、合成燃料の製造コストを試算した結果、H2の価格が影響して、1リットルあたり200円から700円になることがわかった。脱炭素社会に向け、化石燃料の利用が制限される中、単純に比較できないものの、現状のガソリンなどの値段とは大きな差がある(図5)。
先述の通り、e-fuelの製造コストが高い主な要因はH2の価格だ。
H2の価格は再エネなどの電力価格による影響が大きく、現状では国内よりも海外で製造した方が安く製造できる。ただ、海外からH2を輸送する場合、水素キャリアの形態(メチルシクロヘキサンやアンモニア、合成メタンといった別の物質に転換して運ぶ、または液化水素として運ぶなど)や輸送コストに留意する必要がある。現時点で、どの輸送手段が最適か見極めることは難しい。
将来的な再エネや水電解装置のコスト低下に伴い、H2の価格も低下する見込みであり、e-fuelの製造コスト削減が期待される。
・製造効率を高める技術
合成燃料を大量生産するための製造技術は、まだ確立されていない。製造効率を向上させるためには、技術的な課題がある。
たとえば、CO2とH2を合成するにあたって、まず触媒を用いてCO2からCOに転換させるが(逆シフト反応)、600度以上の高温下で行う必要がある。しかし、工業的に使用されている触媒では高温に耐えきれず、新しい触媒を開発する必要がある。
またFT合成反応についても、目的とする成分を効率的に得るための技術的な課題がある。FT合成反応によって、ガス、液体、固体状など炭素の数がおのおの異なる炭素化合物が生成されるが、液体状の炭素化合物の収率(工業で言う歩留まり率)を向上させる触媒の開発が課題となっている。
この逆シフト反応とFT合成反応を組み合わせた製造方法以外にも、CO2電解、共電解(蒸気電解による水素生成と二酸化炭素電解による一酸化炭素の生成を同時に行う電気分解)、直接合成(Direct-FT:CO2と水素から直接、炭化水素を製造する方法)といった新たな製造方法が検討されているが、まだ研究開発段階である。CO2はもともと安定した物質のため、製造技術の確立は簡単ではないが、産官学の連携によるイノベーションが期待される。
【次ページ】e-fuelへの「4つの期待」や、日本と海外の「最新動向」を解説
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