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- 2018/10/02 掲載
「人手不足倒産」が4割増で過去最高に、企業努力ではもう止められない
人材確保がままならず、倒産する事業所が続出
東北、関東地方で貨物自動車運送をしていた仙台市宮城野区のサンワ物流と関連会社のサンワ商事は5月、仙台地裁から破産手続き開始の決定を受けた。負債総額は約2億円に上る。民間信用調査機関の帝国データバンクによると、サンワ物流は自社トラックでビール、飲料品などの搬送をし、2009年9月期で年間約4億円の収入があった。サンワ商事は一般貨物の運送取り次ぎをし、2014年3月期決算で年間収入約3億3,000万円を計上していた。
しかし、近年はドライバー不足が深刻で、求人を出しても集まらない状況が続いていた。このため、競合の激化で受注単価が低迷する中、ドライバー不足で受注を見合わせるケースが相次ぎ、業績が落ち込んでいた。
堺市堺区で高齢者の介護、福祉事業を営んでいた社会福祉法人美亘会は2017年6月、民事再生開始の決定を受けた。民間信用調査機関の東京商工リサーチによると、負債額は約8,000万円で、デイサービスセンターなどは、2017年9月から堺市の別の社会福祉法人に引き継がれている。
美亘会の事業報告などによると、2012年3月期には約1億3,000万円の事業収入があったほか、2015年度で7,430人のデイサービス利用者、6,452人のヘルパー利用者がいた。しかし、介護職員らの入れ替わりが激しく、採用しても賃金の高い他の施設に移るなど長続きしなかった。その結果、慢性的な人手不足と人件費増などで赤字経営に陥っていた。
北海道で23の介護施設などを運営していた札幌市西区のほくおうサービスとグループ4社は2017年7月、札幌地裁に破産を申請した。東京商工リサーチによると、連結の負債総額は約43億3,000万円に上る。
ほくおうサービスは2016年3月期で約27億6,800万円の売り上げがあったが、介護報酬の引き下げや人手不足による人件費高騰が経営を圧迫、4億8,300万円の赤字を出していた。
施設の大半は福岡市に本社を置く介護施設運営会社に引き継がれたが、8施設は交渉がまとまらず、急いで別の施設を探さなければならない入所者が約340人に及んだ。実母を旭川市の施設に入所させていた主婦(63)は「人手不足と聞いていたが、まさかこんなことになるとは」と今も驚きを隠せない。
企業の人手不足感も高まる一方
厚生労働省のまとめでは、国内の有効求人倍率は2017年度、1.54倍に達し、44年ぶりの高水準を記録した。2018年度に入っても4月1.59倍、5月1.60倍、6月1.62倍、7月1.63倍と上昇を続け、企業の人手不足感が高まる一方だ。帝国データバンクが7月、全国の企業9,979社を対象に実施したアンケートでは、正社員の人手不足を訴えた企業は前年同期比5.5ポイント増で、過去最高の50.9%に上った。非正社員については前年同期比3.6ポイント増の33.0%が「不足している」と答えている。人手不足が人件費の増加や事業遂行の妨げとなり、収益を悪化させる例も急増している。
帝国データバンクが2018年上半期に人手不足による収益悪化などを要因に倒産した事業者を調べたところ、前年同期を21件上回る70件に達することが分かった。2016年以前と比較すると、ほぼ1年間に発生する件数以上を半年で記録し、年間100件を初めて超えた2017年を上回るハイペースだ。負債総額は106億7,700万円に上る。
【次ページ】中小企業の人手不足が社会全体の危機に
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