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新型コロナウイルス感染症の患者が再び、急増を続ける中、患者を受け入れている全国の病院経営が悪化している。人手不足などから収益を見込める一般患者の受け入れや手術を制限せざるを得ないためで、月に3億円以上の赤字を出す病院もあり、このままでは地域医療が崩壊しかねないとの不安が広がっている。城西大経営学部の伊関友伸教授(行政学・地方自治論)は「新型コロナの影響は公的病院や大学病院に限らず、民間病院や開業医を含めた日本の医療全体に及んでいる。国が早急に抜本的な支援策を講じる必要がある」と指摘する。
大阪の拠点病院、外来減少などで月に億単位の赤字
関西空港対岸の大阪府泉佐野市、泉南市、田尻町に広がるりんくうタウン。大阪府が空港の補完機能を持つ国際都市として開設したが、その一角の泉佐野市りんくう往来北にりんくう総合医療センターがある。新種の感染症に対応する西日本唯一の特定感染症指定医療機関で、大阪府南部の中核病院だ。
しかし、新型コロナの重症患者を積極的に受け入れたところ、人手不足から救急医療の一部休止や手術の延期、外来患者の減少を余儀なくされた。その結果、病院経営は4~6月の3カ月間、大幅な減収が続いて約7億円の赤字となった。国の支援措置があるものの、赤字を補える額ではない。このままでは赤字が10億円以上に膨らむと予想されている。
泉佐野市は地域医療が崩壊しかねないとし、7月からふるさと納税を活用したクラウドファンディングで病院支援の寄付を募っている。8月11日現在で約570万円の寄付が集まっており、9月末まで募集を続ける方針だ。
りんくう総合医療センターは「非常に厳しい状況が続いているだけに、泉佐野市の支援はありがたい」、泉佐野市成長戦略室は「新型コロナ対応の最前線に立つ病院の支援は欠かせない。国の支援が十分でないだけに、市民の力を借りて少しでも支えたい」と語った。
新型コロナ中等症患者の専門病院となっている大阪市淀川区野中北の市立十三市民病院も、苦しい経営を続けている。全病床約260床のうち、90床を新型コロナ患者に確保しているが、新型コロナ以外の患者が激減して毎月3億円を超す赤字が出ている。
新型コロナ専門病院になったのは5月から。それ以前は1日約500人が通院して月に4億円程度の収入があったが、専門病院になったあとは収入が月に2,000万~3,000万円まで落ち込んだ。
厚生労働省によると、全国で感染者を受け入れた900を超す病院のうち、約7割を自治体設置の公立病院や公的病院が占めている。新型コロナの治療は赤字が予測され、民間病院に受け入れを頼みにくいからだ。
公立・公的病院には社会的責任があるとはいえ、すでに負担の限界を超えようとしている。大阪市健康局は「事態が長期化すれば、市の財政にも影響が出る。国が地域医療を支えるために、抜本的な措置を講じてほしい」と訴えている。
全国の病院も7割近くが赤字経営に転落
新型コロナ患者を受け入れた病院が経営に苦しんでいるのは、大阪府の公立・公的病院に限った話ではない。日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会が全国の病院の経営状態を調べたところ、回答があった1459病院のうち、6月で7割近くが赤字に陥っていることが分かった。新型コロナ患者を受け入れた病院に限れば、8割以上に達している。
延べ外来患者数は前年同月比で4月が19%、5月が24%、6月が7%の減。延べ入院患者数は4月が10%、5月が14%、6月が11%、手術件数は4月が15%、5月が30%、6月が11%減った。病床利用率は4月が6.6ポイント、5月が9.1ポイント、6月が7.1ポイント下がっている。
その結果、全病院で4月は69%、5月は63%、6月は68%、新型コロナ患者を受け入れた病院で4月は82%、5月は80%、6月は82%が赤字となった。日本病院会など3団体は「病院の経営状況悪化は深刻。適切な対応がなければ経営破綻し、地域医療が崩壊する危険性がある」と訴えている。
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