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新型コロナウイルス感染拡大の影響でバスやタクシー、鉄道など公共交通機関が大幅な減収にあえいでいる。特に地方は人口減少や高齢化の進行で不採算路線が増え、赤字運営に追い込まれているところへ新型コロナが直撃し、運転資金が底をつきそうな事業者が少なくない。一部の地方自治体はようやく独自の支援策を始めたが、日本モビリティ・マネジメント会議幹事長で、呉工業高専環境都市工学分野の神田佑亮教授(交通システム工学)は「緊急事態宣言の解除で通勤利用が戻っても、観光や出張、打ち合わせ外出などの利用の戻りは鈍い。先が見えない状況に事業者は心が折れそうなのではないか」との見方を示した。
岡山県の4団体、副知事に経済的支援を要請
岡山市北区中山下の天満屋バスステーションに次々に路線バスが入ってくる。時刻は午後5時過ぎ。普段なら通勤通学、買い物帰りの人が集中する時間帯だが、バス待ちの列は一部の路線に集中し、それほど長くない。
岡山県玉野市から買い物に来た主婦(66)は「私が乗る便はもともとそれほど利用客が多かったわけではないが、新型コロナの感染拡大後はますます利用客が減った。買い物に欠かせない生活の足なのに、大丈夫かしら」と心配していた。
岡山県では新型コロナの感染拡大後、公共交通事業者の利用客が急激に減少し、業績悪化が続いている。中国地方鉄道協会、岡山県バス協会、岡山県タクシー協会、岡山県旅客船協会のまとめでは、5月の運輸収入は路面電車と鉄道が岡山電気軌道、井原鉄道、水島臨海鉄道の3社合計で前年同月比58.9%減となった。
乗合バスは両備バスと岡電バスの合計で51.7%減、タクシーは県タクシー協会集計で56.1%減、旅客船は県旅客船協会集計で74.1%減。いずれも前年同月の半分以下に落ち込んでいる。岡山市を中心に運行するタクシー会社が5月末、グループ3社の運転手約100人を解雇する事態も明らかになった。
政府の持続化給付金は前年より売上高が半減した事業者などに支援金が出るが、公共交通は行政から営業継続を求められ、要件を満たせなくなった事業者がある。岡山県が中小企業向けに創設した独自の支援制度も、持続化給付金の受給が前提で、公共交通事業者から不満の声が出ているという。
4協会の代表者らは6月、岡山県庁に菊池善信副知事を訪ね、「これだけの赤字を背負うと企業を維持できるかどうかというところまできている」と訴えて経済的な支援を求めた。
全国の事業者が新型コロナで大幅減収
状況は他の地方も大きな変化がない。鉄道では、神戸市と兵庫県小野市を結ぶ神戸電鉄粟生(あお)線の4~6月の利用者が、前年同期比4割以上の減少となったことが、粟生線活性化協議会で報告された。
群馬県高崎市を中心に運行する上信電鉄は5月の運輸収入が7割近く減った。上信電鉄は「6月は学校の再開で通学利用が戻ったが、それでも前年同期比6~7割の収入減少になる」と厳しい口調だ。
乗合バスは、滋賀県と国土交通省滋賀運輸支局が滋賀県内5社を対象に実施した調査で5月の利用客が前年同月比59.7%減となったことが分かった。運輸収入も63.5%の大幅減少を記録している。静岡県でも4~5月の運輸収入がほぼ半減した事業者が多いという。
タクシーは、長野県全体で5月、7割以上の減収となったことが長野県タクシー協会の集計で明らかになった。長野県タクシー協会は「3月は3割以上、4月は7割近くの減少だっただけに、非常に厳しい状況が続いている」と肩を落とす。
旅客船では、国交省九州運輸局のまとめで4、5月の利用客が九州発着の離島航路や長距離フェリーなど15事業者合計で前年同期比82%減っていた。運輸収入も長距離フェリーを除く9事業者で80%の減少を記録している。
国交省の全国調査では、5月の利用客は鉄道で大手民鉄、中小民鉄の7割、公営の9割が前年同月比50%以上減少した。乗合バスは一般路線バスが52%、高速バスなどが86%の減で、タクシーは69%の減。旅客船は62%の事業者が7割以上の収入減少に陥っている。
収入減に苦しむ事業者は、緊急融資や手持ち資金のやりくりで急場をしのいでいるが、新型コロナの感染拡大に終息の兆しが見えない。中小事業者の倒産や廃業は全国各地で明らかになってきた。このままの状況が続けば、さらに多くの事業者が事業継続できなくなる可能性がある。
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