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新型コロナウイルスは、私たちの生活に不可欠だった「移動」そのものを控えなければいけないという難問を突きつけた。しかもアフターコロナの夢はまだ遠く、しばらくはウイルスと共存する“ウィズコロナ”の生活が続くことになる。そんな中で利用者激減が止まらない公共交通はどう対処していけば良いのだろうか。また、移動促進のツールとして注目されていたMaaSに存在価値はあるのか。現状をもとに考察する。
「移動自粛」という苦境
新型コロナウイルスは、移動という概念そのものを変えてしまった。人から人へと感染するため、人と接触しないことが感染防止に効く。ゆえに欧米などでは外出規制、日本でも外出自粛の要請が出され、密閉・密集・密接のいわゆる「三密」を控え、ソーシャルディスタンスを保つライフスタイルが定着した。
その中で特に大都市を中心に急速に普及したのが、テレワークである。多くのオフィスは三密が当てはまる空間であり、朝夕の通勤ラッシュ時の列車内もまたそれに近い。多くの会社がテレワークに切り替えたのは当然だろう。
ただ個人的には、ここまで一気にテレワークが普及したことに驚いてもいる。というのも、昨年の台風15号や19号の上陸時は、公共交通の計画運休が発表されていたにも関わらず多くの通勤者が運転再開を待って長蛇の列を作るなど、「会社に行くのが仕事」と考える人が多く見られたからだ。
当時はまだ東京オリンピック・パラリンピックが2020年に開催予定で、対抗策としてテレワークやフレックスタイムが奨励されていたが、一向に変わる気配はなかった。このままでは開催中の都心は大混乱になってしまうと危惧したものだ。
しかし5月に東京都が発表した、従業員30人以上の都内企業のテレワーク導入率は4月の緊急調査時点で62.7%と、緊急事態宣言前である3月時点の24.0%から2.6倍にもなっている。
しかも日本生産性本部の調査によれば、テレワークで働いた人の6割以上が、収束後もこの働き方を続けたいという。それだけ身の危険を感じた人が多かったのだろう。
もしこの気持ちに多くの会社が応えることになると、都市の移動者数は元には戻らず、鉄道やバス、タクシーに乗る人は減ったままになる。となると、移動促進ツールとして注目されていた
MaaSも今のままでは存在価値を発揮しにくい。
北欧フィンランドで生まれたMaaSは、「ICT(情報通信技術)を活用してマイカー以外の移動をシームレスにつなぐ」という概念だ。しかし移動そのものが少なくなっているので、MaaSの恩恵を受ける利用者は限られるし、MaaS導入による公共交通活性化も望みにくい。
フィンランドの首都ヘルシンキで展開するMaaSのパイオニア「Whim」では、公共交通乗り放題で、タクシーは距離と回数、自転車シェアは時間の制限はあるが繰り返し使えるサブスクリプション(定額課金)メニューを用意し高評価を得た。だが、通勤をせず他のお出掛けも控えるという状況では、魅力が薄いものになる。
都市で求められるテレワーク対応型MaaS
しかしMaaSの存在価値が完全になくなったとは思わない。サブスクリプションについては月額制ではなく、回数や時間で上限を決めた乗り放題をいくつか用意すれば、テレワークを導入している人でも自分の行動パターンにあったメニューを選べるだろう。
もう1つ注目したいのは自転車だ。欧州の大都市では、公共交通での感染を警戒した人たちが自転車移動に切り替えている。日本でも自転車の販売台数は増えており、自転車シェアリングサービス企業の調査では「シェアリングは利用回数が減った一方で、1回の走行距離は長くなった」という結果も出ている。
先に紹介したWhimはこの動きにすでに対応していて、追加料金を支払えば一時利用のメニューでも自転車シェアが30分以内で乗り放題というオプションを用意し、最近導入された電動キックスケーターシェアも利用可能となっている。対応の早さはさすがである。
ただしすべてを自転車移動に切り替える人は限られる。そこでMaaSのメニューに自転車シェアを組み込んだうえで、駅や列車の混雑状況をスマートフォンで見ることができるようになれば、天候や混雑状況に合った移動手段を選びやすくなる。それがひいては公共交通利用につながるはずだ。
では、地方はどうだろうか。
【次ページ】地方交通はウィズコロナ時代をどう切り抜けるか
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