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「激動の時代を生き抜く経営戦略とは」──。従来から続く技術革新やデジタル変革、そして今直面しているコロナ禍で、企業が持続的発展をしていくためには、事業の変革は避けては通れない。一方、歴史を振り返ると、環境変化に合わせて事業変革を行ったことで成功してきた企業もあれば、事業変革に失敗して倒産した企業もある。両者の違いはどこにあったのか。『逆転の競争戦略』などの著書で知られる早稲田大学ビジネススクール教授の山田英夫氏に、事業変革のポイントを聞いた。
執筆:阿部欽一、構成:ビジネス+IT編集部 中澤智弥
執筆:阿部欽一、構成:ビジネス+IT編集部 中澤智弥
なぜ変革を迫られる企業が増えているのか
──ここ数年、不採算事業を売却したり、会社の持続的成長のためにM&Aを選択するなど、事業の変革を余儀なくされる日本企業の報道を耳にする機会があります。この状況をどのように見ていますか。
山田英夫氏(以下、山田氏):技術革新やグローバル化により、企業間の競争が激化する中で、既存事業だけで経営を維持できてきた企業が、いよいよ変革しなければ存続できない危機的状況に追い込まれているというのが、現在起きていることだと考えています。
本来、企業が永続的に成長していくためには、環境の変化に合わせて事業の組み合わせを柔軟に変えていく必要があるのですが、多くの日本企業は変化することへの抵抗が少なくありません。
この“変われない”日本企業の体質は、日本社会に蔓延している「同質化競争」という競争原理が大きく影響していると考えています。
──同質化競争とは何でしょうか?
山田氏:同質化競争とは、端的に言えば、競合他社の戦略を“モノマネ”する競争のことを言います。古くから、競合他社が販売する製品をモノマネする競争は存在していましたが、昨今起きているのは、“ビジネスモデル”自体をモノマネするという現象です。
たとえば、ヘアカット専門のQBハウスを展開するキュービーネットホールディングスは、カットの速さと料金の安さで顧客を増やし、好立地への出店を増やし、顧客の回転率を高め、利益率を上げるビジネスモデルで成長してきました。
これまでにない新しいビジネスモデルでブルーオーシャンを開拓した同社でしたが、すぐさま競合他社に同質化(モノマネ)され、同じような店舗が乱立するような状況になってしまいました。
このように同質化競争が進み、市場がレッドオーシャンになれば、最終的には企業間の価格競争に発展するなど、組織全体が疲弊していく消耗戦につながります。また、常に隣の企業を意識した競争は、自社の利益率の向上や革新的な製品/サービスの創出にもつながりません。
持続的な経営を目指すのであれば、同質化競争から脱却し、自らのビジョンに沿った事業の変革に取り組む必要があると思います。
事業変革に失敗する企業の共通点
──とはいえ、事業変革につまづく企業は少なくありません。つまづく企業に共通する特徴があれば教えてください。
山田氏:事業の変革につまづく企業に見られる特徴は、いくつか存在します。
1つ目は「経営判断が遅い」という点です。昨今の政府による新型コロナへの対応にも言えることですが、意思決定が遅れたことで傷口が広がり、元に戻れなくなるほどの影響が出てしまうケースは少なくありません。仮に正しい判断を下せたとしても、機を逃した判断であれば、期待した効果は得られません。
「遅れた意思決定は、誤った意思決定よりなお悪い」という言葉がありますが、まさしくこの体質の企業は、適切なタイミングで事業変革に取り組めず、失敗することが多いと思います。稟議制や合議制などが根強い意思決定に時間のかかる大企業に多い傾向があります。
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