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7月に九州を襲った豪雨は熊本県の球磨川を氾濫させて67人の死者、行方不明者を出すなど流域の地方自治体に大きな被害をもたらした。国土交通省は気候変動による雨量の急激な増加が全国で水害を多発させているとみて、一級水系の流域全体で治水のあり方を考える新プロジェクトをスタートさせるが、球磨川水系では2009年に中止されたダムがあれば、水害を防げたとする声がインターネット上で拡大し、混迷を深めている。星槎大共生科学部の保屋野初子教授(環境社会学)は「これだけの雨が降ればダムで水害を防ぐのは難しかったのではないか。気候変動を見据えた新たな治水対策が必要だ」とみている。
すべての一級水系で住民含めた協議会設置へ
「国交省だけでなく、他の省庁や自治体、企業、国民1人ひとりの力を結集し、防災・減災の視点を定着させることが重要だ」。球磨川の水害直後に開かれた国交省の防災・減災対策本部第2回会合で、赤羽一嘉国土交通相は力を込めた。
防災・減災対策本部は1月、国交省が気候変動に伴う水災害リスクの増大に備えて設置した。第2回会合の議題は流域全体で治水に取り組む新プロジェクトの取りまとめ。全国の一級水系ごとに地元を含めた協議会を設置し、2020年度末までに流域治水の方向を固めることが決まった。
流域治水とは対策に河川管理者だけでなく、自治体や住民など流域のあらゆる関係者が参加し、水系ごとの全体像を模索するもので、同時にハード・ソフト一体の事前防災を加速させる。国交省は事業の円滑化に向け、各一級水系の河川整備計画や河川関連法令の見直しを想定している。
赤羽国交相は対策本部でプロジェクトを自身の主導で進める「大臣プロジェクト」と位置づけ、交通や物流機能確保のための事前対策、防災・減災のための土地利用推進、新技術活用による防災・減災の高度化など10の柱を示した。
河川区域を広げるために堤防を引き直す引提や計画的に河川を氾濫させる区域の検討なども議論に入るとみられる。国交省治水課は「今後、国交省が提示する素案をたたき台にして、流域で合意形成を進めたい」と今後の方針を説明している。
気候変動で記録的豪雨が続出、水害も各地で
国交省が流域治水に踏み切った背景の1つが、記録的豪雨の増加だ。気象庁によると、今回九州を襲った豪雨では7月3日から8日にかけ、大分県9地点、福岡、熊本の両県各5地点、鹿児島県4地点、長崎、佐賀の両県各2地点の合計27地点で観測史上最大の72時間雨量を計測した。
大規模な浸水被害が出た人吉市では、3日から4日にかけて410ミリの24時間雨量を記録した。7月の24時間雨量としては観測史上最高。たった24時間で7月1カ月間の平均雨量471.1ミリに迫る雨が降ったわけだ。
こうした記録的豪雨は2018年の西日本豪雨、2019年の東日本台風でも観測された。国交省によると、豪雨で氾濫危険水位を超えた河川数は2014年に83河川だったが、2017年からの3年間は毎年400河川を超えている。今年は球磨川のあと島根県の江の川、山形県の最上川で河川氾濫による水害が発生した。
豪雨が増えた主因については地球温暖化の影響、自然変動による降雨量の変化を挙げる両論があるが、温暖化が影響を与えていることは否定できない。気象庁は1時間に50ミリ以上の非常に激しい雨が降る回数が今後、2倍以上に増えると予測している。
これまでの河川整備計画は過去の記録から利根川、淀川など大河川で200年に1度、他は80~150年に1度の最大洪水水量を想定して策定されてきた。前提条件が変わってしまったなら、計画を見直さざるを得ない。
学識経験者らで組織する社会資本整備審議会の水災害対策検討小委員会は気候変動による雨量の増加を考慮し、従来の計画を見直して流域治水に転換することを求める答申を出している。
【次ページ】球磨川水害でネット上に脱ダム批判の声
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