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近年のめざましい自転車ブームから、サイクリングを通して観光需要を喚起させる「サイクルツーリズム」が大きな注目を集めている。GoToトラベルが再開されればサイクルツーリズムとの相乗効果でさらなる観光需要の活性化が期待され、「サイクリストをわが町に呼び込みたい!」と意気込む地方自治体も増えている。しかし、PR施策に苦しむ自治体が多く、その実態はなかなか厳しい。今回はサイクルツーリズムに取り組む島根県益田市が実施した来場者アンケートを紹介しつつ、サイクルツーリズムのあり方について考える。
国のお墨付き「サイクルツーリズム」とは
サイクルツーリズムとは、サイクリングを軸とした観光活性化活動である。2017年5月施行の自転車活用推進法で定められた施策の1つであり、れっきとした国策だ。健康増進にも役立ち、二酸化炭素排出量抑制にも貢献できることからSDGsにもマッチし、経済効果・地域振興にも期待できる。
サイクルツーリズムでは、地方創生をもくろむ地方自治体に対し、国からのお墨付きの制度が用意されている。それが、2019年に導入されたナショナルサイクリングルートである。
ナショナルサイクリングルートに認定されるには、国土交通省が用意した、ルート設定、走行環境、受け入れ環境、情報発信、取り組み体制という5つの観点に分類された複数の要件を満たさなければならない。現在、ナショナルサイクリングルートとして制定されているのは以下の6つである。
- しまなみ海道(広島県尾道市~愛媛県今治市)
- トカプチ400(北海道帯広市が起点)
- 富山海岸サイクリングルート(富山湾沿い)
- つくば霞ヶ浦りんりんロード(霞ヶ浦1周およびその近隣)
- 太平洋岸自転車道(千葉県銚子市から神奈川県、静岡県、愛知県、三重県を経て和歌山県)
- ビワイチ(琵琶湖一周)
またサイクルツーリズムの促進を目標の1つとして掲げる自転車活用推進計画法(2017年施行)では、2020年度までに「先進的なサイクリング環境の整備を目指すモデルルートを40ルート制定する」ことをKPIとしていた。現時点で公表されたサイクルツーリズムのモデルルートは、前述のナショナルサイクリングルートを含め57。同法が定めたKPIは達成したことになる。
島根県益田市が受けたサイクルツーリズムの「甘くない現実」
このサイクルツーリズムで地方創生を図ろうと島根県益田市は2022年4月2日~3日、東京ビッグサイトで開催された自転車展「サイクルモードライド東京2022」にブースを出展。そこで行った来場者アンケートの結果の一部を紹介しよう。
まず、益田市の認知度は43%。関東から縁遠い、山陰地方の町の認知度としては、高いほうだろう。実は益田市、サイクリストの間では徐々に知名度を上げている。
益田市では、サイクルロードレース全日本選手権を開催(2018年)、東京オリンピック・パラリンピックでのアイルランド選手団事前キャンプなどを誘致した。こうした自転車競技に対する支援活動の一方で、田舎であることを逆手に取り、100キロメートルもの間、信号で停止せずにサイクリングできる「100ZEROのまち」としてアピール、サイクリングを楽しむホビーサイクリストたちの誘致も積極的だ。
益田市への訪問意向についての問いに対しては、「ぜひ訪問しサイクリングしたい」と「機会があればサイクリングしたい」を合計すると97%となった。ところが続くアンケートで、「自転車旅行企画があれば行きますか?」と畳み掛ける設問では訪問意向は78%に下がった。そして具体的な旅行企画を提示したところ、最も人気のある「往復の交通手段を含めたパッケージツアー」でも54%にまで下がった。
筆者は、自転車利用のルールとマナーを啓もうする一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクトの理事として、2020年2月、益田市主催の「飛行機輪行ワークショップ」をプロデュースしたが、こちらでもアンケートを行った。
このワークショップは飛行機に自転車を乗せて益田市を訪れてもらおうと企画され、渋谷の自転車カフェで開催した。なぜ飛行機かと言えば、首都圏から遠く離れた益田市にサイクリストを誘致するためには、(1日1往復だけだが)飛行機を使うのが最適だからだ。
ワークショップは盛況、参加者の満足度も高かった。しかし、ワークショップ後のアンケートで、「ぜひ益田市を訪問したい」と答えたのは35%だった。「サイクルモードライド東京2022」アンケートで獲得した97%の訪問意向とはずいぶん差があるが、これが本音ではないか。係員の説明を受けた上でアンケートに答えれば、リップサービスもあり、「益田市に行ってみたいな!」とは思うだろう。
だが、よりリアルな条件を突きつけられ「益田市に来てくれますか?」と問われれば、本音が明らかになってくる。現実は甘くないのだ。
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