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オンラインで町議会を行い、その様子をYouTubeでライブ配信している自治体がある。福島県会津地方にある人口約3000人の町、磐梯町(ばんだいまち)だ。同町では日本初の自治体CDO(最高デジタル責任者)を務める菅原 直敏 氏を筆頭に、自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めている。ビジョンの策定から始め、意思決定を行い、人材を配置し、予算を付け、その上で技術を使うというDXの流れは、企業も自治体も変わらない。成果を見せつつある自治体DXの全貌を菅原氏が披露した。
本記事は、2021年5月に開催されたエクサウィザーズ主催のオンラインイベント「ExaForum2021」の内容を再構成したものです。
「自治体DX」とは何か? 企業のDXとは何が違うのか?
今、日本は国を挙げてDXに力を注いでいる。それは自治体も例外ではない。民間企業、IT企業の語るDXは、多くの場合、テクノロジー起点で始まる。Society 5.0、スマートシティ、RPA、IoT……等々。こうしたデジタル技術が頭の中に詰め込まれた状態だ。
しかし自治体DXはこうした一般的なDXとは少し異なると菅原氏は述べる。
「自治体DXは住民起点です。まず『自治体は何のために存在するのか』を考えることが非常に重要で、企業でいうところのミッションに当たる総合計画にそれが表れます。自治体によって表現は違いますが、突き詰めればそれは『住民のため』『住民の幸せのため』なのです」(菅原氏)
今までは、これを「ヒト」「モノ」「カネ」の3つのリソースで実現してきた。そしてこの3つの多寡は人口に紐付いていた。ところが今、日本全体で人口は減少し、解決すべき問題は複雑化・多様化している。
そこで、第4の要素として注目されているのがデジタル技術だ。ただし、あくまで手段としてであって、住民の幸せを実現するためにテクノロジー“も”使うというスタンスが基本だ。自治体DXとは、自治体と住民がデジタル技術も活用して、住民本位の行政、地域、社会を再構築するプロセスなのだ。
デジタル技術を活用するという観点でいえば、今までも業務のICT化は進められてきた。菅原氏のもとにも「DXはその発展形ではないのか」「業務のICT化とDXはどこが違うのか」といった質問も寄せられるという。これに対して、菅原氏は次のように説明する。
「業務のICT化は組織の効率化を目的としており、そのため“業務本位”で、コストカットや人員削減などと親和性を持ちます。一方、DXは住民サービスの向上を目的としており、だからこそ“住民本位”“職員本位”であり、新しい価値を創造したり、仕組みを再構築したりすることが重要です。したがってそこではUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)、個別最適化技術が大きな意味を持つのです」(菅原氏)
今、自治体にDXが求められている理由
では、今なぜ自治体にもDXが求められているのか。菅原氏は大きく3つの要因があるという。少子高齢化に起因する「社会環境の変化」、「住民ニーズの多様化」、そして「デジタル技術の一般化」だ。
中でも3つ目の「デジタル技術の一般化」が大きいと菅原氏は語る。かつてはスーパーコンピュータでしかできなかったことが、今はタブレットやスマートフォンでも実現できるようになった。翻訳アプリケーションでは文字認識、音声認識が可能になり、そこではAI、深層学習が活用されている。
かつて電子立国を標榜していた日本なのに、今こうした最先端テクノロジーを提供する日本企業はほとんどいない。これはデジタル技術の活用を誤ったからだ、と菅原氏は指摘する。現在、GAFAを始めとする米国や中国の巨大企業は、省力化ではなくデジタル技術で新しい価値を創ることに心血を注いでいる。同氏の手がける自治体DXが目指すのもそこだ。
「デジタル技術の一般化により、利用コストの『劇的』減少、利用しやすさの『劇的』向上、選択肢の『劇的』増加が実現します。さまざまなインフラが社会に浸透するまでの時間もどんどん短縮しています。たとえば、SNSは5000万人のユーザーを獲得するのに1年程度しかかかっていません。従来の行政はハードウェア、インフラの構築に関心が行きがちでしたが、住民のUI、UXを考えるなら、郵送やFAXよりチャットツールを使った方がいいわけです」(菅原氏)
ただし、菅原氏は民間企業のソリューションもまだまだプロダクトアウト思想のものが多く、誰でも使えるようにはなっていないと指摘する。そして「逆にいえば、ここに大きなチャンスがあり、AIなどは1つの要素技術として重要視されていくと思います」と述べる。
【次ページ】最高デジタル責任者として、自治体DXにどう取り組んだか
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