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  • 2020/06/04 掲載

地域紙の廃刊・休刊が全国で続々と、“新聞が消えた”地域は何が起きるか

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日本のジャーナリズムを支えてきた新聞業界が縮小を続けている。地域紙の廃刊、休刊、地方紙の夕刊撤退が相次ぎ、発行部数の減少も止まらない。行政の監視など新聞が果たしてきた役割は決して小さくないが、新聞に代わるジャーナリズムの受け皿はまだ育っていない。新聞が消えた地域では地方選挙の投票率への影響が指摘されている。元ロイター通信記者で近畿大総合社会学部の金井啓子教授(ジャーナリズム論)は「新聞は危機的状態だが、社会にとってジャーナリズムはなくてはならない。頭が痛い問題だ」と現状を危惧している。
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静岡県掛川市の郷土新聞社で紙面の歴史を振り返る戸塚さん。全国で地域紙の休刊、廃刊が相次いでいる
(写真:筆者撮影)

社会の声を代弁してきた掛川市の郷土新聞が休刊に

 東海道本線の線路横に建つ平屋建ての建物の中にタブロイド判の新聞紙が積み上げられている。新聞社の長い歴史を感じさせる古い記者用の机はまだ残っていた。新型コロナウイルス感染症の話題がマスコミをにぎわせる中、66年の歴史に幕を下ろした静岡県掛川市中央の郷土新聞社。今は代表の戸塚猛実さん(60)が社屋の片付けを続けている。

 郷土新聞は日本が戦後復興から高度経済成長へ向かおうとしていた1953年、猛実さんの祖父に当たる元教員の戸塚廉さんが創刊した。以来、猛実さんの父秀雄さん、猛実さんと親子3代で経営を引き継ぎ、掛川市と近隣の菊川、御前崎の両市で発行してきた。

 廉さんは戦前、学校で平和や民主主義を説き、治安維持法違反で取り調べを受けた反骨の言論人。その姿勢を引き継ぎ、紙面は地域密着の話題とともに、市民目線で行政課題を鋭く追及する記事が売り物だった。市民が口に出しにくいことを書いてきたため、抗議も受けたが、読者の応援が後押ししてくれたという。

 発行は毎週金曜日で、6ページの紙面。一時は10人を超すスタッフを抱え、掛川市役所の記者クラブにもオブザーバーで加入、3市で約1万部を発行していた。だが、読者の高齢化や若者の新聞離れで半分以下の部数に落ち込み、区切りを迎えることになった。

 猛実さんは「社会的弱者の声を代弁し、権力を監視するのが地域に根差したジャーナリズムの役割。もう少し続けたかったが、力及ばず無念だ」と語った。


地方紙は夕刊から撤退、発行部数は右肩下がり

 都道府県内の一部地域で発行される地域紙は2015年8月に全国約200の存在が確認されていた。しかし、その後は毎年、廃刊や休刊に追い込まれる地域紙が出ている。

 2016年は京都府亀岡市の京都丹波新聞など、2017年は福岡県久留米市の久留米日日新聞など、2018年は広島県尾道市の山陽日日新聞など、2019年は新潟県三条市の越後ジャーナルなど、2020年は郷土新聞のほか、北海道千歳市の千歳民報が歴史を閉じた。

過去5年間で休刊、廃刊した主な地域紙
2016年 京都丹波新聞(京都府亀岡市)、近江毎夕新聞(滋賀県長浜市)、南空知新報(北海道栗山町)
2017年 常陽新聞(茨城県土浦市)、久留米日日新聞(福岡県久留米市)
2018年 週刊アキタ(秋田県秋田市)、日刊大牟田(福岡県大牟田市)、山陽日日新聞(広島県尾道市)
2019年 奈良日日新聞(奈良県奈良市)、越後ジャーナル(新潟県三条市)、八幡浜新聞(愛媛県八幡浜市)
2020年 千歳民報(北海道千歳市)、郷土新聞(静岡県掛川市)
(出典:各社の社告などから筆者作成)

 地方の人口減少と高齢化の進行、若者の新聞離れによる発行部数の減少、広告収入の下落が主な原因だが、都道府県単位で発行する地方紙や全国で発行する大手紙も状況は変わらない。

 地方紙では4月から大分県の大分合同新聞と徳島県の徳島新聞が夕刊発行を取りやめた。大分合同新聞、徳島新聞とも社告で「人件費や原材料費の上昇に加え、人手不足で配達員の確保が難しい」と理由を説明した。

 大手紙では産経新聞で四国など一部地域に記者が常駐していないところが出ているほか、毎日新聞は徳島県三好市など通信部を廃止した地域の記事を地方紙に委託している。大手紙から地域紙まで新聞業界全体が縮小に向かっているわけだ。

 日本新聞協会がまとめた加盟社の総発行部数は2019年で約3781万部。2000年に比べ、29.6%も減った。特に減少が著しいのが夕刊とスポーツ紙で、ともに2000年の半分以下に落ち込んでいる。

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新聞発行部数の推移

 発行部数の減少は広告効果を押し下げ、広告収入の減少をもたらしている。徳島県阿南市で建設会社を営む西野賢太郎さん(70)は「昔は地元紙に広告を出さないと宣伝にならなかったが、最近は新聞広告を出しても反響がほとんどない」と打ち明けた。

【次ページ】新聞が消えた地域の影響
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