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- 2018/08/23 掲載
まるで“建設版トヨタ” Katerra(カテラ)は建設業界を「ぶっ壊す」のか?
建設業界の生産性は20年間で1%しか向上していない
建設業界のイノベーションといえばプレファブリケーション、いわゆるプレハブ工法くらいだといわれている。あらかじめ部材を工場で生産・加工しておき、建築現場では加工を行わず組み立てのみを行う建築手法だ。基本的には1800年代中盤から建設業界は現場の努力に支えられてきた。
マッキンゼー社の調査によると、建設業界の生産性は、ここ20年でわずか1%しか向上していない。1945年以降における米国の製造業の生産性が1500%上昇しているのに比べると、建設業界は全く変化がないに等しい。建設関連の支出が全世界で10兆ドルに及ぶのを考えると、この停滞した状況は無視できるものではない。
この情報化が遅れる建設業界に「シリコンバレー流」の考え方を持ち込もうとしているのが、米ベンチャー企業のKaterraだ。建設に関わる情報を統合し、設計から建築まで一か所で行えるワン・ストップ・ショップを実現する。
垂直統合を進めることで、原材料調達時の規模の経済を実現したり、中間業者を廃したりできるメリットがある。オフィスビルや住宅を建設するコストを低減し、建設に要する期間を短縮する。
コストを削減するマスカスタマイゼーション
Katerraの創業者Michael Marksはトヨタの工場のように建設を捉えたいと語っている。つまり、無理や無駄を省き、効率的な生産体制を追求するのだ。従来の建設業界では、部材調達から配送・ディーラー・下請け業者・ゼネコンまで、長いサプライチェーンが特徴だった。Katerraは、部材調達から建設まで「ジャスト・イン・タイム」方式を採用し、サプライチェーンの最適化を目指す。KaterraはBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やSAPのERPシステムを活用し、建物の3次元モデルや設計・施行に関するあらゆる情報を、サプライチェーン全体で共有している。建設の各工程が別の会社によって行われていた従来のゼネコン方式ではできなかった、精度の高いプロセス構築と品質の担保が可能になる。そして、同社は施行期間の40%が短縮できると予測している。
さらに、Katerraは最新技術を積極的に取り入れている。RFIDの導入はその一例だ。部材にRFIDタグを付け、現場のモバイル機器で組み立て方を説明するビデオを見たり、壁の隙間を調べる気密試験に役立てたりしている。
Katerraが築くビジネスモデルの肝は「マスカスタマイゼーション」にある。マスカスタマイゼーションは、標準化とマス生産によるコスト低減を行うと同時に、固有の要件を満たす高度な受注生産を実現する考え方だ。IoTや人工知能の研究開発が進むにつれ、製造やファッション業界で事例が見られるようになった。
Katerraは建築デザインを妥協せずにコストや期間を短縮することにより、建設業界のマスカスタマイゼーションを実現しようとしている。従来の建設業界ではプレハブ工法のように、マス生産を追求すると、どの建物も同じようなデザインになってしまう欠点があった。Katerraはデザイン面ではユニークさを追求する一方で、基礎的な部材などの要素で標準化を進める。
Katerraは建築デザインに対して積極的に投資してきた。4つのデザイン会社とコンソーシアムを設立し、その内の2社Michael Green Architecture、Lord Aeck Sargentを買収したのは、その表れと考えられる。特に、Michael Green Architectureは木造高層建築手法「マスティンバー」を推進する革新的な会社だ。
【次ページ】Katerraは規制が建設業界を変えられるか
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