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- 2020/07/03 掲載
イーロン・マスクのスペースXは何がスゴイ? 民間有人宇宙飛行の快挙達成できた理由
ISSへの輸送コストはわずか1/20に
2020年5月30日、2名の飛行士を乗せたスペースXの宇宙船「クルードラゴン(Crew Dragon)」がISSへ到着、米国の有人宇宙飛行としては2011年以来9年ぶりの快挙となった。米国はこれまでロシアの宇宙船ソユーズに依存しており、民間企業の有人宇宙船がISSへ接続するのも初めてとなる。スペースXはご存じの通り、電気自動車(EV)大手のテスラ創業者、イーロン・マスク氏が2002年に創業した宇宙開発企業。同社がこれまで手掛けたことは、民間企業として初めて実現したものばかりだ。たとえば、2010年には民間企業として初めてISSへの物資輸送を実現。また、打ち上げロケットの回収を実現したのは官民問わず、史上初となった。
スペースXが宇宙事業の商用化を牽引する存在になったのは、NASAが宇宙事業を民間へ委託する方針へと転換した点が大きい。2011年のスペースシャトル退役以降、米国がロケット打ち上げを行ってこなかったのは、膨大なコストがかかることが要因だった。そこでNASAは民間の自由競争によってコストを削減するよう、ISSへの物資輸送を民間に委託するCOTS(商用軌道輸送サービス)プログラムなどを推進してきた。
実際にスペースXは、宇宙事業のコスト削減を実現してきた。従来、米国政府が主導して打ち上げる人工衛星は1基あたり2億ドル要していたのに対し、スペースXは1回の打ち上げの価格が6,000万ドルと言われている。
ISSへ輸送する1キログラムあたりのコストは、5万4,500ドルから2,720ドルへ低減されたとの試算もある。委託したNASAにとっては大きなコスト削減となったわけだ。
なぜスペースXは大幅コスト削減に成功したのか
スペースXが大きくコストを削減できる理由の一つが、その製造プロセスだ。機器の7割以上を内製していると言われ、垂直統合を追求しているのが特徴とされる。部品の設計から組み立て、ソフトウェア開発まで、ほとんどの工程がカリフォルニアの工場で行われる。多くの工程が手作業で実施されてきた従来の宇宙事業に対し、3Dプリンターなどの最新IT技術を駆使している点もコスト削減に寄与している。
ロケットエンジンは数百もの部品を組み合わせる複雑な産業機械なので、その製造は非常に困難なものだった。しかし、複雑な金属部品でも3次元モデルでの設計・製造を内製することで、品質の維持、リードタイムの削減、知的財産の流出防止などの効果が得られたという。
クルードラゴン内の映像が明らかにしたように、コックピットに配されたダッシュボードも、ボタンや計測機器で一杯だった過去の宇宙船と比べ、極めてシンプルな構成になっている。
物理的なボタンよりも、ソフトウェアの表示・操作を重視するのは、テスラの自動車にも共通する設計思想と言える。製造の観点からも、タッチパネルに集約されたコックピットにより、設計・組み立ての難易度が下がり、コスト削減につながる。
スペースXが実現したロケットの再利用もコスト削減に寄与する。毎度、すべてのロケットを製造する必要がなく、繰り返し使うことで、その性能が検証可能だ。使い回せない部品であっても、前回の打ち上げデータを基に、設計から製造までの検証サイクルを回し、部品の改良につなげられる。
【次ページ】人工衛星打ち上げの「相乗り」を含め、宇宙関連サービスの多様化が進む
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