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イーロン・マスクが率いるSpaceXの通信サービスStarlinkの開始や民間による月面探査──。例年にも増して話題を呼んだ宇宙ビジネスはどこへ向かうのか。2022年に起きた重要トピックと2023年のトレンドについて、アジア最大級の宇宙ビジネスカンファレンスを主宰するSPACETIDEの代表理事兼CEOを務める石田真康氏に聞いた。
民間の衛星画像がロシアによるウクライナ侵攻の証拠に
石田氏は2022年を「宇宙ビジネスと安全保障が密接につながった1年だった」と振り返る。
2022年2月に始まったロシアによる全面的なウクライナ侵攻では、被害状況の把握に民間の衛星事業者が取得した衛星画像が多く活用され、ロシア側の主張を覆す証拠にもなった。
そして石田氏は「防衛宇宙企業だけでなくスタートアップ企業が安全保障機関の顧客を取り込もうとする動きが加速している」と指摘する。世界的な株価下落が進むなか、ベンチャーやスタートアップが企業の存続をかけて予算が拡大している安全保障分野への参入を図るのは必然ともいえる。
米国を代表する地球観測事業者ブラックスカイ・テクノロジー(Black Sky)やマクサー・テクノロジーズ(Maxar Technologies)、プラネット・ラボ(Planet Labs)はそれぞれ10億ドル規模の衛星画像の販売契約を米国家偵察局(NRO)と結んでいる。SpaceXも安全保障に特化した政府機関向けのサービス「Starshield」を2022年12月に公表した。宇宙企業による安全保障ビジネスへの参入は、今後数年続くトレンドになると見られる。
一方、スタートアップは安全保障ビジネスに注力しすぎると、他産業での事業展開がしづらくなるというデメリットもあり、事業のバランスが「悩みどころ」といえる。
日本でもStarlinkの提供が開始。スマホで衛星通信が可能に
安全保障と並んで2022年のキーワードとなったのは通信衛星だ。SpaceXは通信サービス「Starlink」の提供エリアを拡大し、ついに日本でも10月にサービス提供が始まった。
従来の衛星通信は、1機で広い範囲をカバーできる静止軌道(高度約3万6000キロ)を利用して行われていたのに対し、SpaceXはカバーできる範囲は狭いものの高速かつ低遅延の通信が可能な地球低軌道(高度約500キロ)に数千機規模の衛星を打ち上げ、連携させて使うことでブロードバンド通信を実現させている。Starlinkはウクライナで使われたことで注目を浴び、一般でも使われるキーワードとなった。
さらに、アップルは低軌道衛星事業者グローバルスターと組み、圏外にいる場合に衛星通信経由でSOSを発信できる機能を「iPhone 14」シリーズに搭載した(現在は米国やカナダなど一部のエリアのみが対象)。実際にこの機能でSOSを要請し、救助されたケースが報告されている。
石田氏は「通信技術としてはニッチな技術であった衛星通信が、通信業界全体のメガトレンドの1つになった」と語った。
ispaceが月面着陸船を打ち上げ
石田氏が2022年に最も印象に残っている宇宙ビジネスのトピックは、日本のスタートアップispaceの月面着陸船(ランダー)に搭載されたカナダの機関のペイロードが備えているカメラが地球の写真を撮影、共有したことだという。
2022年の12月11日に打ち上げられたispaceの月面ランダーは、2023年4月末頃に月面に着陸する見込みで、世界初の民間による月面着陸となる
可能性もある。「民間初の月面着陸にispaceが挑戦していることは、スタートアップ創出元年である日本への追い風になるだろう」と石田氏は語る。
ただ、ispaceの月面輸送のような新しいサービスの買い手が日本には少ないことが課題だと石田氏は指摘する。実際にispaceの月面ランダーで輸送中のペイロード(荷物)のうち、ispaceのものを除く日本のペイロードは宇宙航空研究開発機構(JAXA)とタカラトミーらが共同で開発した小型探査ロボットと日本特殊陶業の実験機器のみ。
そのほかは、カナダやアラブ首長国連邦(UAE)のペイロードが搭載された。加えて、米国航空宇宙局(NASA)はランダーが着陸するときに着陸脚が採取する予定の月面の砂の所有権を買い取る。スタートアップに持続的に資金が集まる流れを作るには、新しいサービスや技術を利用するハードルを下げる動きも必要だ。
ispaceの月面ランダーが打ち上げられた約9時間後には、有人月面着陸を目指す「アルテミス計画」の一環で、月を周回する試験飛行を実施したNASAの「オライオン宇宙船」が地球に帰還した。
2024年にはオライオン宇宙船に宇宙飛行士が搭乗して月を周回する飛行試験が行われる予定。月面探査はさらに盛り上がっていくと見られる。
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