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  • 2021/04/27 掲載

2040年100兆円市場の「宇宙ビジネス」、なぜ金融機関の参入が相次いでいるのか

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モルガン・スタンレーが公表した市場予測によると、2040年の宇宙ビジネス全体の市場規模は、2018年の37兆円から約3倍の100兆円規模になるという。宇宙ビジネスと言えば、多くの人が「ロケット」や「宇宙旅行」をイメージするだろう。多くの人が「自分には関係ない」と勘違いしがちな宇宙ビジネスは、実は金融機関の発展につながる可能性を秘めている。「宇宙×金融」をテーマに NPO法人ミラツク 代表理事 西村 勇哉 氏、スペースシフト 代表取締役 CEO 金本 成生 氏、東京海上日動火災保険 損害サービス業務部(戦略推進チーム)次長 小林 秀憲 氏、JAXA 新事業促進部 参与 松岡 一郎 氏、FINOLAB Head of FINOLAB 柴田 誠氏(モデレーター)が語った。
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「宇宙×金融」の接点とは
(出典: FINOLAB CHANNEL 4F2021)

※本記事は、2021年2月のFINOLAB主催イベント「4F 2021」での講演内容をもとに再構成したものです。

人工衛星のデータ活用で先陣を切る、東京海上日動火災保険

 宇宙ビジネスは、人工衛星やロケットの開発・運用事業、衛星が生み出すデータを利用したり、旅行やエンターテインメントなど多岐にわたる。多くの人がイメージするロケットの製造・打ち上げ事業は、宇宙ビジネス全体の1.34%にしか過ぎない。実際には、通信や地球観測などの衛星データを活用するビジネスが市場をけん引していると言われている。

 近年、日本国内では人工衛星データの活用が本格化し、対応サービスも登場し始めた。金融領域における人工衛星データの活用例の1つが、東京海上日動火災保険が展開する「水災検知ソリューション」だ。

 同社は2018年11月、人工衛星画像を活用した水災時の保険金支払いの仕組みを整備したと発表した。このソリューションは、同社と米オービタルインサイト(Orbital Insight)と連携し、人工衛星で撮影された複数の画像を人工知能(AI)で解析して、大規模な水災が発生した際に保険金の支払い対象となる被害エリアを早期に把握するというもの。

 水災検知ソリューションを開発した経緯として、東京海上日動火災保険の損害サービス業務部(戦略推進チーム)の次長(チームリーダー)である小林 秀憲 氏は「近年、大規模な自然災害が高い頻度で発生しているため、対応しなければならない課題が明確にあった」と語る。

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東京海上日動火災保険
損害サービス業務部(戦略推進チーム)次長(チームリーダー)小林秀憲氏
(出典: FINOLAB CHANNEL 4F2021)

 自然災害では、保険会社がその被災状況に応じて保険金を支払う。小林氏によると「これまでは被災状況を判断するために現地に出向く必要があり、大規模な災害が発生すると全国から応援社員をかき集めて、人海戦術で対応していた」という。しかし、「大規模災害の頻度が年々高くなり、人海戦術で対応することが難しくなった」と説明する。

 同社が解決策を検討していたところ、人工衛星データの活用が候補に上がった。そこで、同社はアビームコンサルティングとともに、人工衛星画像のビッグデータ分析技術に強みを持つOrbital Insightと連携。2017年から水災発生時の迅速な保険金の支払いにつなげる実証実験を実施し精度向上を目指してきた結果、水害時の浸水高を数センチの精度で把握可能になったという。実験当初は被害エリアの範囲や浸水の高さの特定に1カ月程度を要していたが、数日程度で把握できる体制を整備した。

 人工衛星画像のAI解析で保険金の支払対象と確認できた損害に対しては、立会調査を実施することなく保険金を支払うことができ、通常2~3週間程度を要する水災時の保険金の支払い期間を大幅に短縮している。

未来社会における金融の役割を探った「未来構想プロジェクト」

 今回のパネルディスカッションのテーマである「宇宙×金融」の接点とは、一体何だろうか。2020年4月から9月にかけて未来社会における金融の可能性を模索する「未来構想プロジェクト」が実施された。

 同プロジェクトでは、18の未来予測を基に「宇宙への進出」「長寿化」「気候変動」の3つを未来領域に設定し、各領域の実践者や研究者へのインタビュー内容を分析し、金融の未来予測のためのリサーチが行われた。同プロジェクトを進めたNPO法人ミラツクの代表理事である西村 勇哉氏によると「分析結果を基に、宇宙領域に着目した」という。

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NPO法人ミラツク
代表理事
西村 勇哉氏
(出典: FINOLAB CHANNEL 4F2021)

 宇宙領域における金融の新たな役割として、同プロジェクトでは宇宙ビジネスの課題として「投資」「投資信託」「保険」の3分野で再度リサーチと有識者とのディスカッションを実施し、その事例をまとめている。

 人工衛星データの活用の可能性について、西村氏はイングランドのフランシス・ドレイク船長を引き合いに出した。ドレイク船長は、ポルトガルの航海者であるフェルディナンド・マゼランに次いで、史上二番目に世界一周を成し遂げた海賊だ。ドレイク船長による世界一周は、当時お金のなかった英国が出資者を募って行かせたもの。その結果、船長は60万ポンドを稼いで(略奪して)帰還し、出資者に分配した。

 この金額は、当時のイギリスの国家予算の2倍に相当する。西村氏は「このように、新たな広い世界に挑戦する資金を調達するためには、出資を募る方法がある。可能性はあるけれど、まだ手が付けられていない領域こそ、金融が入っていくと面白い」と説明する。

「宇宙ベンチャーは少ない」、国内の古参企業が語る現状

 人工衛星のデータ活用市場は、今後どう広がっていくのか。スペースシフトの代表取締役 CEOである金本 成生 氏は「宇宙分野に注目した投資家による投資は、ここ10年で一巡した感がある。ただ、日本はまだまだ宇宙ベンチャーの数が少ない状況だ」と指摘する。

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スペースシフト
代表取締役 CEO 
金本 成生氏
(出典: FINOLAB CHANNEL 4F2021)

 スペースシフトは、日本発の宇宙ベンチャー企業としては、長く事業を続けている。SAR(合成開口レーダー)衛星データ解析に特化したコア技術を開発してきた。海底油田(オイルスリック)の自動検出や建築物単体の検出ソリューション、衛星データとSNS情報を組み合わせたダッシュボードなど、様々な産業における変化を抽出した経済モニタリングを可能にしている。同社は2021年2月、シリーズA投資ラウンドにおける5億円の資金調達を実施したばかりだ。

 金本氏によると、月面開発や宇宙旅行をビジネス化するにはまだ時間がかかるという。人間に役立つ宇宙開発としては、人工衛星のデータ解析やその利用が中心になると説明する。「あらゆる産業に人工衛星データを使う余地があり、人工衛星の数や性能、解析技術などの技術面で限界がある中、先進的な取り組みなどの事例を踏まえて、自分事として衛星データを活用する企業も増えている」と語る。

【次ページ】さまざまな可能性を模索するJAXAの取り組み
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