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世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルス(COVID-19)は、我々の日常生活や経済に大きな影響を与えている。宇宙ビジネスも例外ではなく、通信衛星事業を手掛けるワンウェブは「破産」し、宇宙空間滞在モジュールを手掛けるビゲロー・エアロスペースの窮状も伝えられている。本記事では、新型コロナウイルスが国内外の宇宙ビジネスに与えている影響や、このようなパンデミック下における宇宙ビジネスの今をお伝えしたいと思う。確かにマイナスの影響も大きいが、それでも宇宙ビジネスは前進している。
新型コロナウイルスの社会・経済的な影響把握に欠かせない宇宙インフラ
COVID-19(新型コロナウイルス)によって人々の生活がどのように変化したか、経済活動がどの程度自粛されているのかなどを把握するため、さまざまな最新テクノロジーが活用されている。
人工衛星から取得される画像データや位置情報データなどの宇宙インフラも、ウイルスの影響や人々の行動変容の実態をマクロでとらえるツールとして非常に優れている。たとえば、衛星画像を用いれば、パンデミック前後で都市の経済活動がどのように変化しているかを把握することができる。
衛星画像の解析サービスを提供するオービタルインサイト(Orbital Insight)は、2020年1月28日から3月6日にかけて、北京四環路(北京の高速道路形態の環状道路)における交通量を分析した。それによると、パンデミックが起こる前の1月14日には、衛星画像から1902台の車両が確認できたのに対し、1月28日には同エリア同時刻にわずか200台しか確認でいなかったとしている。
一方、状況が落ち着いてきた3月6日には617台が確認されていることから、3月上旬から中国の経済活動が回復の兆しを見せ始めたことを定量的に示した。
COVID-19の与える影響把握に衛星画像を用いているのは、Orbital Insightのような衛星画像解析を専門にする事業者だけではない。たとえばMIT Technology Review やCNNなどのメディアも、衛星画像をもちいてCOVID-19のパンデミック前後での都市の様子の変化を伝えている。
MIT Technology Reviewは2月7日付の記事「
衛星写真で見る、武漢の現在──都市活動がほぼ停止 」において、パンデミック前後の武漢市内の様子や武漢の空港の様子を伝えている。特に空港はパンデミック後の駐車場にほとんど車が止まっていないことや、空港内に多くの航空機が滞在したままとなっていることが一目でわかる。
CNNは4月17日付の記事で「
宇宙から見たベネチア運河、新型コロナで様子一変 衛星画像 」と題し、世界的にも多くの感染者と死者を出したイタリア随一の観光名所であるベネチアの様子を衛星画像を用いてレポートしている。COVID-19パンデミック前には多くのボートが都市周辺に確認できるが、ロックダウン発表後の衛星画像からはボートの数が激減していることがわかる。
さらにBUSINESS INSIDERでは4月2日付の「
ロシアは本当に患者が少ないのか…モスクワ近郊に病院を突貫工事で建設しているのが衛星写真で明らかに 」という記事で、他国と比較して感染者の少ないと報告されているロシアの実態を把握するために衛星画像を活用している。本記事ではモスクワ郊外に建設中とされている病院の建設地を衛星画像から確認し、モスクワ郊外の農地と見られる場所に突然大きな病院が現れた様子をレポートしている。
このように、衛星画像は事象の前後を比較することで、素人の我々にも都市の様子や空港、病院等の施設の様子の違いを一目でわかりやすく伝えてくれるため、多くのメディアが衛星画像を活用した記事を掲載している。
また、国内外においても、都市における人々の動きを把握する分析に携帯電話から取得されるGPSの位置情報を活用するケースが数多く見られる。GPSは米国の提供するシステムだが、人工衛星を利用して私たちに位置情報を提供してくれる。
たとえば、グーグルは匿名化したユーザーの位置情報を集計した「Community Mobility Reports」を公表している。グーグルの位置情報サービスは、GPSに加え、Wi-Fiや携帯電話の基地局などから得られる位置情報を組み合わせてユーザーに位置情報を提供しているが、これらの匿名データを用いて都市の経済活動を定量的に分析して公表している。
このように、世界中の都市の経済活動を定量的に把握するために、衛星画像や衛星から取得できる位置情報は欠かせない。それを支える宇宙インフラの重要性が、改めて認識されているといえるだろう。
相次ぐ宇宙関連イベントやロケット打ち上げの中止・延期
一方、宇宙ビジネスでも他の業界と同様、宇宙開発やビジネスをテーマにした多くのイベント、カンファレンスで延期やキャンセルが相次いでいる。
延期となっているのはイベント・カンファレンスだけではない。年明け以降、数多くのロケットの打ち上げも延期となっている。
たとえば、米国のスペースX(SpaceX)は、4月後半に予定していたGPS(Global Positioning System)衛星の打ち上げを、6月末以降に延期している。また、小型ロケットの打ち上げサービスを提供するロケットラボ(RocketLab)も、3月末に打ち上げを予定していたが、彼らの射場があるニュージーランドの政府による国家非常事態宣言を受けて打ち上げを延期した。
さらに欧州においても、打ち上げサービスを提供するアリアンスペース(Arianespace)が、3月や4月に予定していた打ち上げミッションの延期を発表した。
【次ページ】宇宙ビジネス最前線、2020年の国内外の注目トピックを総まとめ
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