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日本でもスタートアップによる新たな宇宙ビジネス「ニュースペース」が浸透してきた。内閣府は宇宙産業の市場規模を、2030年代に現在の2倍となる2.4兆円まで拡大させる目標を設定している。主要なベンチャーのほとんどが2010年前後に相次いで創業しており、「日本オリジナル」とも呼ぶべきビジネスモデルとエコシステムが醸成されつつあるのだ。
宇宙ビジネスは注目のフロンティア産業の一つに
2017年12月、銀座GINZA SIX能楽堂にてispace(アイスペース)が記者会見を行い、これに筆者も出席した。企業の記者会見に能舞台という、非常にユニークなこのイベントで、同社は2020年までの2回にわたる月探査ミッション計画と、そのためのシリーズA資金調達101億5000万円を完了したことを発表した。これは宇宙ベンチャーのシリーズAとしては世界一の金額であり、同時に日本のベンチャーのシリーズAとして歴代最高額ということで大きく注目された。
経済誌「Forbes JAPAN」2018年1月号掲載の「日本の起業家ランキング2018」では、全体ランク3位に、宇宙ゴミ(スペースデブリ)処理に取り組むアストロスケールのCEO岡田光信氏が輝いた。また、特別賞「カッティング・エッジ賞」1位に、アクセルスペースのCEO中村友哉氏が選ばれている。同誌の「スタートアップの有望株 厳選50社」には宇宙ベンチャー3社がランクインしている。
この数年で宇宙ビジネスがメディアで報じられることは珍しくなくなった。上記のようなニュースから、宇宙ビジネスが日本においても、他のフロンティア分野であるAIやフィンテック、シェアリングエコノミーなどと肩を並べるほどの存在感を発揮する分野になったと認識している。
2030年代には2.4兆円の市場規模に成長を目論む
宇宙ビジネスといえば、米国が中心であり欧州がそれに続く――。そのような図式の中で日本はどのような立ち位置にいるのか。
かつて日本で宇宙ビジネスといえば有人宇宙旅行、という見方が一般的で、その他にも、日本政府が長年推し進めてきた準天頂衛星「みちびき」による高精度測位が宇宙ビジネスの全てのように扱われる向きもあった。近年では、イーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏、さらには堀江貴文氏といったビリオネアによるロケット開発が新しい宇宙ビジネスの代表格という認識も徐々に広まりつつある。
しかし
前回も触れたように、これらは宇宙ビジネスのごく一部であり、宇宙ビジネス最前線はそれに止まらない、日本でも「ニュースペース」が浸透しており、そのエコシステムの拡大が急速に進むことで欧米に追随している。そこには、宇宙ベンチャーだけではなく、“商機”と“勝機”を見出した企業やメディアなど、さまざまなプレイヤーが参画、関与している。
日本の宇宙産業の市場規模は年間1兆2000億円と言われる。これはホテル(1兆3000億円)や市販カー用品、鞄・袋物(ともに1兆1000億円)といった産業と同じ規模である(公益財団日本生産性本部、矢野経済研究所より)が、各種インフラ、金融、医療、物流などと比較すると、まだ小規模である。
この数字は、政府ミッション予算に依存した、これまでの官需中心の産業構造の名残であるが、ニュースペースの振興と呼応する形で、今後の10数年で2倍以上に拡大することが共通の認識となりつつある。内閣府は2030年代に現在の2倍となる2兆4000億円、総務省は2030年代早期に最大4兆2000億円と、それぞれ推計を踏まえた目標設定をしている。
「日本オリジナル」の宇宙ビジネスに可能性
現在の日本のニュースペースをけん引するのは宇宙ベンチャーである。我が国には20社程度の宇宙ベンチャーがあるが、主要なベンチャーのほとんどが2010年前後を境に相次いで創業している。
日本のユニークな点は、ひとつにベンチャー企業数こそまだ少ないものの、各事業領域に最低一社が存在しており、産業としての広がりに大きなポテンシャルがあることだ。たとえば、地上系ビジネスの中でもロケット、衛星、通信インフラ、データ利用のそれぞれを主戦場とする企業があり、お互い棲み分けをしながら成長を続けている。米国のような、企業主導のオール民間の宇宙開発が日本発でも実現する大きな可能性を、筆者はここに感じている。
もうひとつのユニークな点は「日本オリジナル」の宇宙ビジネス事業が存在している点だ。前述したアストロスケールは、小型衛星が地球周回軌道上を埋め尽くすこれからの「大衛星時代」を見据えて、運用停止をした衛星やその破片である宇宙ごみ(スペースデブリ)処理の事業をめざしている。世界でも競合はわずか数社。岡田氏は研究を重ねて自らその事業アイデアを作り上げてきた。
同様に「大衛星時代」を見据えたオリジナル事業を立ち上げたのが、インフォステラだ。加速する大容量・高速の衛星データ通信需要を見込み、世界中の空いている衛星通信アンテナのシェアリング・マッチングをすることで、衛星データ利用者のニーズに応じるプラットフォーム構築を進めている。
人工流れ星を射出する衛星の開発と、それを活用したエンターテイメント事業を進めるALEの事業コンセプトは、従来の宇宙業界の枠を大きく超えている。むしろエンタメ企業が宇宙を使っている、と見ることもできる。
勢いを見せている日本の宇宙ベンチャーではあるが、一方で乗り越えなければいけないハードルは、技術や資金など、決して低くない。中でも、宇宙空間への衛星等の輸送は、各社共通の大きな課題である。
現状、日本には商用ロケットの打ち上げサービスが存在しない。政府ミッションのロケット打ち上げへの相乗りや、海外の商用サービスの活用が必要になるが、そのコストや成功率は、連携相手である政府や海外事業者に依存しており、自社の努力だけではコントロールできるものではない。
日本の宇宙ベンチャーには、この前提条件は織り込み済みである。その上で、成功と失敗を積み重ねながら、より安定したサービス提供の実現を追及することが勝負のポイントであり、それを乗り越えたベンチャーが本当の成功をつかむのだ。
【次ページ】ニュースペースけん引の2人のキーマン、ディアマンディス氏と中須賀教授
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