0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
アポロ11号が月面着陸した1969年からわずか50年の間に、宇宙と私たちとの関わりは劇的な変化を遂げた。近年では、民間企業が宇宙産業に積極的に参入するなど、宇宙ビジネスへの関心が高まっている。宇宙ビジネスを取り巻く現状、そして宇宙ビジネスの未来の可能性とは。財務副大臣(当時) 鈴木 けいすけ氏がメインファシリテータとなり、ispace Director & COO 中村 貴裕氏、インフォステラ共同創業者 代表取締役CEO 倉原 直美氏、そしてタレントの黒田 有彩氏の3名が議論を展開した。
「2040年、月面に1000人居住」を目指して
「SPARK IGNITION #029 ~ここまで来た宇宙の可能性~」で開催されたトークセッションは、まず「現在の宇宙との関わり方と将来の目指す姿」というテーマからスタートした。最初に答えたのは、インフォステラの倉原氏だ。
「当社は、衛星と通信するための地上アンテナを提供しています。お客さまとなるのは、衛星を使ったビジネスをしたい企業や、画像を解析して得た情報をエンドユーザーに届ける企業です。衛星データは、実はビジネスや生活に活用される大きなポテンシャルを秘めています。GPSは私たちの生活を変えた良い例で、最近では不動産関係のデータベースや気象データにも活用されています。衛星データを民間ビジネスや個人の生活にもっと生かしたいという思いで事業をしています」(倉原氏)
続いて、日本の民間発の月面探査チーム「HAKUTO」でグーグルによる「Google Lunar XPRIZE」(月面無人探査レース)に参加し、月に着目した事業を展開するispaceの中村氏が回答した。
「ispaceが目指すのは、2040年に月面に1000人が暮らし、年間1万人が月を旅行する世界です。実現の鍵となるのは宇宙資源の活用です。月の北極と南極には、数十億トンもの水が氷の形で存在するといわれています。その水を衛星の燃料として活用できれば、燃料の輸送コストを抑えられます。月に生活圏・経済圏を作り、月にある水資源を利用して地球の衛星インフラに燃料補給することで、地球自体をよりサステナブルにしていきたいと考えています」(中村氏)
最後は、タレント活動をしながら宇宙飛行士になることを志している黒田氏だ。
「中学生時代、NASAを見学したとき宇宙に魅せられて以来、宇宙飛行士になりたいと思い続けています。でも宇宙飛行士のことを調べるうちに、自分には到底なれない存在なのだと半ば諦めるようになりました。大学生の時から芸能のお仕事を始め、自分の理系のバックボーンを活かしたお仕事もやらせていただく中で、宇宙飛行士の山崎直子さんにお話を伺う機会がありました。その時、『黒田さんのような伝える仕事をしている人が宇宙飛行士になることで、色々な人に宇宙の魅力を伝えられると思うから、夢を諦めないでください』と言っていただいたんです。その言葉で、諦めなくていいんだと思えて、自分で口に出して言うようになりました。宇宙をはじめ、科学的な研究をされている方の考えや思いを、分かりやすく楽しく、多くの人に伝えていきたいです」(黒田氏)
ここからディスカッションテーマは、宇宙ビジネスのトレンドへと移る。
「宇宙×〇〇」の注目領域は?
ファシリテータの鈴木氏が続いて投げかけたのは「宇宙との掛け合わせで面白くなる領域」というテーマだ。衛星ビジネスを行うインフォステラの倉原氏が注目しているのは、”宇宙×農業”だという。
「衛星で撮影した画像は、デジカメのように人間が理解できる情報も含まれていますが、情報解析することで『この土地のお米はおいしい』とか『この土地はいいワインができる』とか、さまざまな情報が分かります。農業と密接に関わっていて、今後、特に重要になるのは、気象予測です。東南アジアだと大雨と洪水が作物の売上に直結しますし、日本ほど対策がしっかりできていません。高齢化に伴う農業人口減少も進む中、ハイテク農業をいち早く浸透させなくてはならないという危機感を持っています」(倉原氏)
鈴木氏も、農業については「農業は最も先が読めない業種の1つになっています。“気温が1度上昇すると植生は60km北上する”とも言われていますが、今後温暖化で、特に大陸の中央の穀倉地帯などは1度、2度の気温の変化では収まらないでしょう。すると、これまで作れていた野菜・果物が作れなくなる。農業はこれから変化への対応に迫られますが、そこにビジネスチャンスもあります」とコメントした。
ispaceの中村氏は、「月に経済圏・生活圏を作るためには、すべての産業が必要になる」とした上で、進行中の取り組みについて語った。
「今、取り組んでいるのは、”宇宙×保険”です。保険の起源は大航海時代で、新大陸を求めた航海に保険がついたのがはじまりです。宇宙産業でも保険の開発が進んでいて、すでに衛星やロケットの保険はあります。弊社で進めているのは、月に輸送する荷物にかける保険の開発です。まだまだチャレンジングな要素があるので、リスクをどのようにヘッジするのかという保険の要素が、マーケットを創造する上で重要だと感じています」(中村氏)
これまで、宇宙ビジネスは政府機関や宇宙機関が主導するケースが圧倒的に多かったが、近年は宇宙スタートアップの台頭により、民間企業がイノベーションを加速させる起爆剤となっている。続いて、こうした宇宙スタートアップの資金調達事情をテーマにディスカッションが行われた。
【次ページ】宇宙空間活用は、5年後、10年後にどう変わるか?
関連タグ