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- 2021/03/31 掲載
日米が「宇宙軍」を創設、GPSとサイバーセキュリティの危機は“青天を突く”のか
宇宙軍設立の狙いは中国やロシアへの対抗
米軍での新軍種の創設は1947年の空軍以来となる。米国防総省によると、空軍所属の兵士と文官を合わせ、宇宙軍は1万6000人の体制という。米国の軍人全約20万人に対して8%ほどであり、決して小さくない。宇宙軍の狙いは、宇宙開発を進める中国やロシアから米国の軍事作戦の中核となる人工衛星網を守ることである。特に衛星攻撃兵器(ASAT)を警戒する。
日本の内閣府宇宙政策委員会で、宇宙安全保障部会の片岡晴彦氏は「むしろ冷戦時代のほうが宇宙は安定していた。今は戦闘領域になっている」と指摘する。1990年代初頭まで続いた米ソ冷戦時代には「相手国の宇宙アセットを攻撃しない」という暗黙の了解があったという。
現在は世界が多極構造化し、90カ国以上が衛星を打ち上げ、13カ国は打ち上げ能力を持つ。宇宙での活動国が急増したことで、暗黙の了解が消滅した。片岡氏は、経産省産業サイバーセキュリティ研究会の資料で「宇宙システムの脆弱性が課題になった」と説明している。
世界のGPS依存に潜む脆弱性
では、具体的に宇宙で何が起きているのだろうか。簡潔に述べると、あらゆる社会システムがGPS(全地球測位システム)に依存していることを背景に、それを支える衛星同士が争うリスクが発生している。
航空管制、銀行ATM機、証券取引所、捜索救助、電力網のスマートグリッド、 証券取引、交通網、自動車などあらゆる社会システムがGPSに依存していることは、何よりもスマートフォンを使っていると誰もが実感できる。
世界で打ち上げられた衛星の総数は、2019年12月6日時点で8859機だったのに対して、2020年7月19日には9611機となった。わずか7カ月で約750機増加している。2014年までは、年間で約150機増というペースだったという。
人道支援、対テロ作戦、武力紛争、通常型戦争、核戦争に至るまで宇宙依存は進んでおり、GPS衛星だけでなく、早期警戒衛星、通信衛星、気象衛星、偵察衛星が空を飛んでいる。アキレス腱とも言える宇宙の脆弱性を狙う脅威はすでに出現している。
2007年には、中国がASAT実験で2800個の宇宙ごみ(デブリ)を放出した。2018年にはロシアが新型衛星攻撃ミサイル「PL19:ヌードル」の試験を実施し、2019年はインドがASATミサイルで人工衛星破壊実験を試みた。
確定的な情報ではないが、2020年に入って、ロシアの偵察衛星が「コスモス2542」が米国のスパイ衛星「USA245」の周りをウロウロしているとのアマチュアのツイートに、天体物理学者など宇宙関係者が反応したことが話題になっている。
この天体物理学者のローラ・グレゴ氏は、ある国の人工衛星が別の国の人工衛星を追いかけまわすような動きを、宇宙戦争につながりかねないとして以前から懸念していたという。グレゴ氏は「衛星間の距離がどれくらいだと“近過ぎる”ことになるのか、共通理解を確立する良い機会だ」とツイートしている。
ここからも垣間見える通り、宇宙での紛争について、国際法などのルールはあまり整備されていない。故意はもちろん、偶発的な衝突を回避する方法を模索し、国際的なルールを整える必要がある。
【次ページ】宇宙システムへの攻撃はサイバー空間にも
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