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従来、宇宙産業は国家規模の事業だったが、近年はこの分野への民間企業の進出が著しい。大手やベンチャーなどが宇宙ビジネスに参入する中、今後どう進展していくのだろうか。宇宙ビジネスの創造・支援に携わってきた、野村総合研究所(NRI) コンサルティング事業本部 ICTメディア・サービス産業コンサルティング部 上級コンサルタントの佐藤将史氏に、宇宙ビジネスの概要や注目される背景、最新動向などを聞いた。
聞き手・構成:山田竜司 執筆:国際大学GLOCOM 客員研究員 林雅之
聞き手・構成:山田竜司 執筆:国際大学GLOCOM 客員研究員 林雅之
宇宙ビジネスの魅力はどこにあるのか?
ジェフ・ベゾス氏や、イーロン・マスク氏といった多くの起業家が、宇宙開発など宇宙関連の産業である「宇宙ビジネス」への参入を進めている。宇宙ビジネスの魅力は一体どこにあるだろうのか?
佐藤氏は「宇宙には夢があります。その神秘に思いをはせるような、ただのロマンだけではありません。宇宙は、大企業でもスタートアップ企業でも既存の規制やルールなどに縛られずに新しい自由な発想で事業を展開できるという“ビジネスとして”希望にあふれた場所なのです」と語る。
デジタルデータの多様化とデータビジネスへの注目が集まる中、既存にないデータを生成するという意味で、人工衛星から得られる「衛星データ」が重要視されている。スマートフォンの地図アプリを使って目的地にたどり着けるのも明日の天気を確認できるのも衛星データによるものである。
宇宙ビジネスは、国境をまたいでビジネスを展開でき、ルールメイクの段階から参入可能だ。「活動領域をゼロフィールドから広げられ、自らビジネスフロンティアを開拓できる、魅力のある世界だと思います」(佐藤氏)
宇宙ビジネスは、人類が前進しなければいけない領域の一つになってきた。いつ、どこで地球がどうなるか分からない。月植民計画を発表したアマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏や、宇宙開発ベンチャー「スペースX」を手掛けるイーロン・マスク氏は、自分が死ぬまでの間に自らが目指している宇宙ビジネスの計画を「すべて成し遂げ完成させよう」とは思っていない。次世代への投資も含めて、宇宙ビジネスは広がりを見せている。
宇宙ビジネス関連プレーヤーの最新事情
米国には1000社の宇宙ビジネス関連プレーヤーがあるといわれている。OEMやサプライヤー、ユーザー企業など、その関わり方はさまざまだ。自動車業界ほどの規模ではないが、同様の産業構造を取っている。
佐藤氏によると、これまで宇宙開発に取り組んできた、NASAなど政府機関や既往の航空宇宙産業などの「エスタブリッシュドスペース」に加え、主流とは異なる宇宙開発アプローチをとり、新興の民間航空宇宙産業を包含するムーブメントとも表現される「ニュースペース」と呼ばれる宇宙開発の新たな潮流が活発化しているという。「技術革新による低コスト化」「ベンチャーなど民間主導」「他産業企業の宇宙参入」などがニュースペースを示すキーワードと言えるだろう。
エスタブリッシュドスペースは、基本的には欧米や日本の企業が中心となっている。北米では航空機・宇宙船の開発製造するロッキードマーティンやボーイングが、特に宇宙ロケットの分野で政府の案件を受注している。また、EUではエアバスとアリアンスペース、タレスが強い。日本では三菱重工や、IHIエアロスペースなどの存在感も際立っている。
また、通信衛星としては、インテルサット(国際電気通信衛星機構)、インマルサット(国際海事衛星機構)、米国デジタルグローブなどが衛星を飛ばしており、圧倒的な強さを誇っている。日本では、三菱電機とNEC(日本電気)の2社が歴代のJAXA衛星を多く受注している。
2010年代に入ってからしばらくは、ニュースペース分野の新たなプレーヤーが一気に台頭している。これまでは、衛星を開発するなどの物売りで政府に納品するのが中心だったが、衛星システムの運用事業者が存在感を出してきている。
佐藤氏は「米国を日欧が追いかける状況が続いていましたが、特に中国の勢いがすごい。宇宙ビジネス関連の企業は、年間で数百社生まれています。その中でも10社程度の事業展開は目を見張るものがあります。いわゆる、BAT(百度<バイドゥ>、阿里巴巴<アリババ>、騰訊<テンセント>)のように、中国では宇宙分野においてもトップ企業から下請け企業まで、独自のエコシステムを築きつつあります」と現状を解説する。
世界的な情勢としては、米国では常時「ニュースペース」が増えている。最近ではEUも増加傾向にあり、日本はほそぼそと増えている中、中国が爆発的に追いかけている状況だ。
宇宙ビジネス事例:リモートセンシング分野
宇宙ビジネス事例も数多く出ている。中でも、人工衛星の小型化・低価格化が進んだことで「リモートセンシング系」ビジネスが活況を呈している。
リモートセンシング系では、可視光による衛星カメラを使うコンステレーション整備が進んでいる。コンステレーションとは、多数の衛星を協調動作させることを指す。プラネット社はすでに200機前後の衛星を打ち上げ、衛星画像サービスを提供している。
また最近急速に増えているのが、合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar)を搭載する衛星「SAR」だ。SAR衛星は可視光の代わりに、電波の一種であるマイクロ波を使って地表面を観測する。小型化・低価格化が進んでいるSARには、雲を透過でき、夜間でも見られるというメリットがあり、実験段階ではあるが注目が集まっている。
リモートセンシング系では、可視光とSARを中心としたデータの取得が非常にホットになっており、それらのデータを活用したデータ解析事業者も増えている。日本ではメルカリやアベジャ(ABEJA)、海外ではエヌビディア(NVIDIA)、Orbital Insight(オービタルインサイト)などがこれらのデータ解析を行っている。
リモートセンシング系の事例としては、石油残量の推定が有名だ。石油タンクは残量に応じて蓋が上下するため、人工衛星から撮影すると、その影の入り方から石油の残量が推定できる。
また、佐藤氏は「データ解析では、ドローンが撮影するデータなど地球上のあらゆるデータをクラウドに収集し、データを解析します。たとえば、Twitterのツイートの発信源とそこで起きている事故との相関を取るなどの統合解析も可能です」との事例を紹介した。
宇宙ビジネス事例:通信衛星ビジネス
EU諸国では、アフリカ市場をどう開拓するかが主なテーマとなっている。同地域は、スタートアップも注目するなど魅力のある市場だ。インフラの発展が遅れているため、インターネット網の高速化などの大きなビジネスチャンスがあり、レバレッジがかけやすい地域になっている。
アフリカでは、公共インフラや通信網だけでなく、交通手段の自動運転などの取り組みも展開しやすい。
また、高速インフラがないという点では、地球上の海もアフリカと同じく大きなマーケットになる可能性を秘めている。実際、ロールスロイスは完全無人船舶を開発し、自動化による船員ゼロの取り組みを進めている。
こうした取り組みの実現に必要な要素は、ネットワーク接続技術と測位衛星などだ。
中でも、衛星コンステレーションによって全世界にインターネットの提供を目指すワンウェブ(OneWeb)の取り組みは注目に値する。同社は2019年3月、今後打ち上げ予定である650機の衛星コンステレーションのうち、最初の6機を打ち上げた。
衛星コンステレーションによるインターネットサービスは通信寸断の可能性が低いため、サービス提供価格が同等になれば、地上系のインターネットインフラをひっくりかえす可能性を秘めている。「ワンウェブの計画は大きく遅れているが、最初の第一歩に踏み切ったことは非常に価値があることです」(佐藤氏)
ワンウェブの出資元企業の一つがソフトバンクである。その背景には、東日本大震災でインフラが多大な影響を受けたことがあり、災害時にも揺るがないインフラを持ちたいという思いがあるだろう。気象や太陽風に影響を受ける場合も考慮すべきである点など、もちろん衛星にもデメリットは存在する点は指摘しておきたい。
また、ワンウェブに続き
60機を打ち上げ、最終的に1万機超の通信衛星を打ち上げ予定のスペースX(SpaceX)も脅威だ。実感がわかないことも多くあるかもしれないが、通信衛星ビジネスは一歩一歩着実に進んでいる。
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