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  • 2017/06/14 掲載

JAXA 松浦氏に聞く、イーロン・マスクの宇宙イノベーションは何がスゴいのか

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ここ数年の間に、民間企業による宇宙ビジネスが著しく進展している。テスラのイーロン・マスク氏は、民間ロケットの打ち上げに成功し、宇宙ビジネスを加速させ、アマゾンのジェフ・ベゾス氏もそれに続く。そのような状況で、JAXAも新規参入企業との連携や民生分野への展開など、新たな取り組みを積極的に進めているところだ。民間企業との共同開発やオープンイノベーション、さらに他国との国際連携なども含め、今後の宇宙ビジネスのありかたと展望について、引き続きJAXAの松浦直人氏に話を聞いた。

聞き手・構成:フリーライター 戸津 弘貴、編集部 松尾慎司

前編はこちら(この記事は後編です)
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JAXA 筑波宇宙センター
(写真:戸津 弘貴)


米国で宇宙ビジネスが活況を呈する理由

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──テスラのCEOでもあるイーロン・マスク氏の話が現実に受け入れられてきました。

松浦氏:かつて宇宙製品は地上のそれと比べて進化が比較的緩やかでしたが、最近は米国を中心に開発スピードが加速しています。イーロン・マスク氏は民間ロケットを打ち上げ、火星まで行くことも公言していますが、昔ならば絵空事と笑われていたことも、実際にロケットを飛ばしており、いつかは本当にできるだろうと、皆さんも見ていると思います。

 国抜きで宇宙に携わるプレイヤーが増えているのも事実です。宇宙に携わって30年になりますが、スピードも速くなっていると感じています。とはいえ、まだ一般ビジネスのスピードよりも、かなり時間がかかるサイクルです。宇宙旅行も航空会社のヴァージン・グループが民間として募集をかけていますが、そのスケジュールは延期になっているようです。逆に言えば、先が想定できるということです。

 他分野よりもある程度は想定しやすい状況で、このぐらいならば実現できるだろう、こうなって欲しいなど、段階によって未来像があり、そのなかで各企業に興味を持っていただいて、ビジネス面で回していけるタイミングを探っている、そんな構図になっていると思います。

──宇宙ビジネスが劇的に変化したポイントがあれば教えてください。

松浦氏:2008年ごろに米政府が、地球周回周りの宇宙開発を民間企業で行う基本方針に転換したことが1つのターニングポイントだったと思います。たとえば、スペースシャトルを止めて、民間企業に輸送機を開発してもらい、それをNASAが採用するという方向に変えたわけです。米国の凄い点は、そこからNASAの技術者が民間の企業に移転し、そこでどんどん開発していることでしょう。

 「商業軌道輸送サービス 」(COTS)計画によって、オービタル・サイエンシズ社の「シグナス」などが宇宙ステーションの物資輸送に使われていますが、これらが大きな転機になったと思います。地球周回の衛星は民間企業に任せ、NASAがサービスを調達する方式に切り替えたのです。これで一気に技術移転や人材流動が起き、民間企業の技術力や資金が投入され、ビジネス化されてきました。

米国が民間に技術移転を進めることで得た最大の成果とは?

──民間に技術が移転されたことで何がもっとも注目すべき変化だったと思われますか?

松浦氏:細かい点ではいろいろありますが、最も感心したのは、一度打ち上げたロケットブースターを再利用し、その回収に成功したことです。これはよくやったと思いました。人工衛星を軌道に投入させるスピードは秒速3キロメートル程度ですが、その後にブレーキをかけて逆に減速するため、その制御が極めて難しく、まだ日本ではまだ検討段階です。

 技術や資金があって、真剣に取り組めば、日本のほうが間違いなく得意な分野でしょうが、米国の凄い点はビジネスを回しながら、それを始めてしまうところです。将来的に客を乗せながらコストも安くする戦略でしょう。つまりWin-Winになるように、研究開発と資金が入る環境を構築している点が、なかなか日本人の発想では出てこないのです。

画像
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
新規事業促進部長
松浦 直人 氏
──そうなると、これから日本も異なった発想が必要になるということでしょうか?

松浦氏:いろいろな場で話をしているのですが、これからは研究開発のスピンアウトだけでなく、米国のロケットと同じように研究開発しながら売る、あるいは利用する想定で開発しないと、世の中のスピードに間に合わなくなってしまうと思います。これは地上でも同様ですが、開発プロセスがシーケンシャルから、ほぼパラレルになりつつある状況です。

 ただ難しいのは、JAXAが国の研究開発組織として何をやるかという点です。自分たちのコアコンピタンスや立ち位置が昔と比べて変わってきており、並走して開発していくにしても、国が税金を投入すべき技術や研究開発を自分たちで再定義しなければなりません。

──極端な話ですが、国の立場では採算を度外視してもすべきことがあるわけですよね?

松浦氏:そうです。ただ昔はシーズ型でブレイクスルーを起こす技術を考えていればよかったですが、いまは少なくともいくつかは実用化しなければいけません。その目利き力が重要になります。あるいは最近のオープンイノベーションのようなスタイルで、新しいものを生み出すこともブレイクスルーの1つの秘訣だと思います。それは、まさに国の研究機関の立場としてやるべき点だと思っています。

【次ページ】国際連携を進めて初めて見えた「面白いこと」
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