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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がパンデミックとして認められ、世界中がその対策に追われている。人では手に負えない作業も、膨大なデータから知見を取り出せる人工知能(AI)であれば短期間で成果が期待できるため、COVID-19対策へのAIの応用が急ピッチで進んでいる。胸部CTの画像を解析する診断支援や、ウイルスの働きを分析した新薬開発、感染クラスターの特定、さらには、フェイクニュースの監視など、AIにかかる期待は大きい。信頼できるデータを収集し、AIの分析精度を検証する必要があるので、たちどころに全てを解決してくれるわけではない。しかし、大きく進化してきたAIの価値を証明する時が訪れたとも言えるだろう。
胸部CTやレントゲンの画像を分析し、医師の診断を支援するAIプログラム
人類はこれまでさまざまな感染症との戦いを通じ、科学技術を進歩させ、その対抗策を講じてきた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対しても、世界中の研究者がその英知を結集させている。特に、多種多量なデータが収集できるようになった現代では、AI技術を用いてデータを分析し、人間では見出せないような新しい知見を導きだす方法に期待が集まっている。
COVID-19の感染が増加する中、医療機関の負担を軽減する診断支援の仕組みは喫緊の課題となっている。PCR検査によるウイルスの確認は必要だが、検査に時間がかかり、また、検査キットの供給が限定的だという問題がある。そのため、肺のCT画像による診断が組み合わせて用いられている。
感染症の中心となった中国ではCT画像の解析にAIを活用し、放射線科医の負担を軽減する試みが行われている。CT画像からは、初期の症状として小さな影が見られ、やがて左右両方の肺へ「すりガラス陰影」と呼ばれる画像所見が得られるとの報告がある。 中国のInferVision社は、このような画像の特徴を検出できるAIプログラムを開発し、34の病院へ導入、3万2000件の診断を支援した。
同様の試みは数多くのテック企業、スタートアップに見られる。たとえば、Yitu tech社はCTの画像解析を2~3秒で実施し、また、患者からのCOVID-19に関する質問に自動で回答できるチャットボットを開発した。 アリババはクラウド上にCT画像解析ソリューション、ゲノム解析ソリューションを展開し、160以上の病院へ導入している。
CT画像と並び、レントゲンによる診断が行われるケースがあるため、レントゲンを分析対象としたAIも開発されている。カナダのDarwinAI、インドのQure.aiが代表例だ。
膨大な過去の文献や研究データをAIが解析し、新たな治療法やワクチンの発見を目指す
診断支援とともに、今、必要とされているのは治療法やワクチンの確立だ。新型コロナウイルスの構造を解明し、それに作用する新薬を開発する必要がある。グーグル傘下のDeepMind社は以前から開発を進めていたAlphaFoldと呼ばれるAIプログラムを用い、新型コロナウイルスを構成するタンパク質の構造予測を進めている。
2020年4月の段階では、いくつかの候補を絞り込んだ段階であり、まだ、それに作用する薬を開発するには多くのステップを要するが、従来の手法よりも速く、正確な診断が行える点が評価された。
まったく新しい治療法を発見するのではなく、既存の治療薬をCOVID-19に用いる「ドラッグ・リポジショニング」 というアプローチにもAIが用いられている。すでに人間に対する安全性の治験が完了しているため、早期に市場へ届けられるのが利点だ。過去の文献や研究データは膨大なので、人手で分析するには時間がかかる。
そこで、英国のバイオベンチャーExscientia社は、AIを使い、15000を超える既存薬や、安全性が確認された未発売の薬を分析し、COVID-19への応用可能性を探っている。
Vectorspace AIは、既存薬の構成要素やターゲットとなる病気、タンパク質や遺伝子の情報に関するデータベースを公開した。同社の自然言語処理技術を用い、COVID-19の研究者が応用できる既存薬を特定できるのを支援している。
新型インフルエンザに対して開発されたアビガン(ファビピラビル)や、抗マラリア薬のプラケニル(ヒドロキシクロロキン)が、ドラッグ・リポジショニングとしてCOVID-19向けに投与する治験が開始されている。効能や副作用が調査されている段階であるが、これらの薬のように、他の既存薬も応用できる可能性がある。
医療AIベンチャーは、その小回りの良さを活かし、製品・サービスをCOVID-19向けに利用できるよう方針転換している例が多く見られる。健全な開発競争により、ウイルスへの対抗策という社会的インパクトの大きな成果が期待されている。
ソーシャルメディアや人の移動のデータから、感染リスクの高い地域を特定するAI
COVID-19がパンデミックとして全世界に広がってしまった今、その感染の状況は、これからも監視し続けていなければならないだろう。感染症リスクを検知するソフトウェアを開発するBluedot社は、WHOよりも早く、武漢からどの都市へCOVID-19が広がるかを予測し、警告を行った点で話題を集めた。
同社は、保健機関からのレポートやデジタルメディア、家畜の衛生情報、人の移動などから、自然言語処理や機械学習を用い、感染症のリスクを分析するAIを開発した。武漢での新型肺炎の徴候を検出したBluedotは、航空旅客のデータから、2019年12月に東京やソウルを含む11都市に感染リスクが高いことを警告していたのだ。
Metabiota社も自然言語処理のAIを活用し、ニュースや公的機関が発行する感染症に関するレポートを分析し、中国・イタリア・イラン・米国等の感染者数の予測を行っている。また、Stratifyd社はソーシャルメディアに流れる投稿と、公的な情報を突き合わせて、感染症のリスクを評価している。
今のところ、人間よりはるかに早く感染爆発を予見できる成果にはつながっていないが、リスクの高い地域を特定し、人々の行動変容を促すのに効果が期待できる。
【次ページ】「インフォデミック」に対抗するよう、AIを活用し、偽情報の特定を進める
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